プロローグ
「俺があなたにパソコンを贈ったのはこんなことの為じゃないんですよ。例えばほら、趣味のウォーキングのイベントとか大会とかそういうの調べたり、うちの岳人とビデオでやり取りしたり、年賀状作ったりとか。そういう事の為に買ったんですよ。そりゃまあ差し上げたからには自由に使ってもらってかまわないですけど、でもそれにしたってこんなことは流石に…。……いやそうは言いますけどね、俺らからしたらそんなのどう考えたって、どう楽観的に都合良く考えたとしたって騙されてるとしか言いようがないですよ。いやだからそれはこの間も言ったでしょう?そういう事もあるんだって。何にも分かってないんだから。確かにそんな偶然に出くわしたら運命だ、奇跡だ、事実だって思っちゃうのも分かりますけどね?でもそんな世の中甘くないって、そんなこと俺よりかよっぽど理解してるでしょう?なんでそれが分からないんですか。とにかく今から俺そっちに向かいますから、どうか早計な結論に達して勝手に行動しないで下さいよ?今すぐに向かいますから、どうかそれまで家にいてくださいね!」
私は通話が切れたことを知らせる音が聞こえてから、携帯電話の赤いボタンを押した。
何も分かってないって?
それはお前のほうだ。
お前が何も分かってないんだ。
由真さんに会えば、お前だって分かるさ。
私はジャケットを腕に掛けた。
ふう、と一つ呼吸を置く。
よおし。覚悟は出来ている。
時計をちらりと見やると、もうすぐ午後三時になろうとしていた。
どうやら今日は、日課のアフターヌーンティーは無理なようだ。
私は家を後にした。