約束
白き貴婦人の手を取ってからというものの、ヴィレムの環境は瞬く間に変わった。戸惑いを覚えるよりも何よりも学ぶ事に気を取られた。知らない事を学ぶ。それは夢中になった。周囲が驚くほど知識を渇望し、吸収していく。そして、教師としてずっと教えてくれた老人が微笑みながら終了です、との言葉にヴィレムはきょとんとした。一瞬言葉の意味が解らなかったのだ。程なくして、貴婦人と引き合わせられた。
「予想外でした」
淡々とした口調でそう開口一番に言われる。ヴィレムは視線だけ下に落とす。
「…まさか一年でここまで出来るとは思ってもいませんでした。素晴らしい事です」
微かに溜息を漏らしながらも続けられた言葉にヴィレムは微かに笑みを漏らす。褒められたのだ。視線を上げじっと貴婦人見つめる。
「予想外でしたが、これも良い機会と言えましょう…貴方には学院へ通ってもらおうかと思います」
「学院……」
貴婦人の言葉を繰り返して呟くと、やっと貴婦人が微笑みを見せる。軽く頷きながら、
「ええ、学院です。ハインリヒからは貴方は学ぶ事が好きなようだと聞いています。当初、貴方が知識を身につけるのに3年、余裕を見て5年と考えていました。貴方は1年で知識を此方の与える知識を身につけた…後4年も時間はあります。学院へ行きなさい」
命じるようにそう言う。ヴィレムはすっと姿勢を正して、貴婦人の顔を見つめる。
「レディ、貴方は僕に知識を身につけろとおっしゃった。知識を身につけてから貴方の願いを言うと…僕は知識を身につけた、のですよね?でしたら、貴方の願いは何ですか?今聞く事は適わないのでしょうか?」
1年前までならこういった物言いは出来なかった。知識を与えられると共に仕草や礼儀作法なども同時に教えられていた。ここまでする意味が解らない。
「……そうですね、今貴方に言う事は容易いです。ですが、どうせなら学院で更に知識を身につけた貴方に言いたいと思います」
やや困惑したような迷うような表情を見せてそう言う貴婦人にヴィレムは微かに苦笑を見せて頷きを返す。
「わかりました、レディのお望みの通りに…」
そう言い、教えられた通りの礼を取るヴィレムを何処か懐かしいものを見るように見た後、
「約束いたします。学院で知識を身につけたならば、その時は貴方に必ず願いを言いましょう」
やや硬い表情を浮かべつつもそう貴婦人が告げた。
過去です。
次は現代にまた戻る予定です。
現代の後はまた別の過去に行くつもりです。
あちこちに時間枠が飛ぶのでちょっと読みにくいかも知れませんが、お付き合いいただけるとうれしいです。