いじめ
国語の授業で指名されて席を立つも、まったく動けなくなった。ななめ前にいる女の子が振り向いて、平らな目でこちらをじっと見つめてくる。私は黒いワンピースを着て、恥じるように背中を曲げ、震える手で教科書を開いていた。文章を読み上げるのか、それとも登場人物の心情を要約するのか、はたまた私の考えを伝えるのか、何もわからなかった。そうこうしているうちに「座っていい」と先生から告げられた。
そして私の代わりに黒板近くの男の子が指名された。彼はすっと立ち上がると、先生の顔を見ながら淡々と言葉を重ねた。私は彼の小さな背中を遠目から見ていた。でも彼がすばやく座ると、また私が指名された。今度は音読をすればいいとわかっていた。しかしどこを読んでいるのかわからず、目の焦点が行間でさまよった。苦しまぎれに足を動かし、不規則に吐く息の音は教室中に広まった。しまいに私は教室を泣きながら飛び出してしまった。
そのまま突きあたりのトイレに駆けこみ、個室に入って鍵をかけた。全身を包む不快な揺れはなかなか収まらなかった。壁には小虫が付いていて、蛍光灯は光量がたりていなかった。私はそこからも逃げようとして、便器の底に足を滑らせた。そして気がついた。私は思わず見とれるような赤色のハイヒールを履いていた。
それは手に取りたくなるくらい濃い赤色をしていた。リンゴや旗や宝石なんか比べものにならない。はっきりとした意思を持ち、唯一無二の存在感を放っている。まるで水たまりに青空が映るように、私の顔や和式便器や塗装のはがれた壁を、色鮮やかに反射している。私は高ぶる気持ちに押され、おそるおそるロングスカートのすそを持ち上げた。それからその靴によって魅せられたくるぶしの起伏や、張りのあるふくらはぎの曲線をじっくりと観察した。まるで羽化したチョウがゆっくりと羽を乾かすのを見守るみたいに。
そのときコンコンと扉が二回たたかれた。内側からかけているはずの鍵がゆっくりと横に滑り、さびた蝶番が甲高い声で鳴いた。開かれた扉の影から女の子が現れる。少なくとも三人、いやそこにはもっとたくさんの女の子がいた。派手なTシャツを着て、こまごまとした白い歯をしている。そのうちの一人が太い針をつまんでいた。
私に逃げ場はなかった。私の手はたくさんの手によって崇められるように持ち上げられ、針を持った女の子は執拗に針を突き刺した。針先が手の甲に垂直に落とされ、穴から鮮血が漏れる。少女たちが息を呑む。針の頭を強く押されても、私からまともな言葉はひとつも出てこなかった。私はひたすらにチョウのことだけを考えつづけた。
蛇口に清掃用のホースがはめられ、大量の水が噴射される。「血を流す」と彼女たちは言った。岩壁を削るような水圧に息もできない。頭が割れるように痛み、頬や首筋にべったりと髪が張りつく。私はぼやけた視界で、穴のあいた左手を天井にかざした。教室では男の子のたちが詩の朗読を続けている。




