第3話 幸も不幸も人それぞれ
美保の美しい容姿が、みるみる醜くなっていく様子に驚き、直輝はここに来た。
【悪霊が見える占い師】だと友人から聞いたからだった。
中学の頃から憧れていた。高嶺の花だと諦めていた。
さしてレベルの高い高校ではなかったが、美保がいたから毎日は輝いていた。勉強もスポーツも彼女の前では必死に頑張れた。おかげで学校推薦がもらえて、いい大学に入ることができた。
しかし彼女は、高卒で芸能界に入ったらしいと風の噂で聞いていた。
卒業して、まあまあの会社に入社してから、美保と偶然、呑み屋で再会した。というか、そこでアルバイトしていたのが美保だった。痩せていたが、美貌は衰えてはいなかった。あの頃のような輝きはなかったが、大きな潤んだ目と白い肌、少し上向きなのが愛嬌で、端正な顔立ちに絶妙な魅力を添えているようだった。
でもその時は、なぜか陽炎のように存在が薄く、ぶつかってビールをこぼされなかったら気づかないくらい存在感がなかった。
「あれ? もしかして山野美保さん?」と声をかけても、ぼんやりと見返すだけ。
「吉田だよ」
それでもわからないようだったので人違いだったかと思い直し、
「すいません。似た子が同級生にいたものだから」と弁解したら、
「直輝君?」と、こわごわ返ってきた。
「そう。覚えてくれてたの?」と優しく聞くと、目から涙がぼろぼろこぼれて、ま
るで自分が泣かしたみたいであたふたしていたら、店長らしき男性が、
「知り合い? 体調が悪そうなのに、帰っていいって言ってるのに、こうやってポカばかりして困ってるんだ。もしよかったら連れて帰ってあげてよ」と頼まれ、お勘定も奢ってくれた。
美保は何度も店長を振り返って何か言いたそうだったが、まるで犬を追い払うような
険しい顔でそっぽを向かれて、取りつく島もないかのように諦めて直輝の後をついてきた。
「お腹、空いてないの?」と聞いても返事がない。どこかに寄ろうかと思って店に入ろうとするけれど、今度は中には入って来ない。
仕方がないので近くの公園のブランコに腰をかけると、横のブランコに乗って勢いよく漕ぎ出した。何を言っても返事がないので、
「もう行くよ」と公園を出て足早に駅へと向かうと、後ろから走ってついてくる。
振り向くと下を向いていて、話しかけられる雰囲気ではない。
また歩き出すと追いかけてくる。靴はサンダルで、服装はジャージっぽく、顔には化粧もしていない。美保だと気づけたのが奇跡のように思えて、苦笑してしまった。
声をかけようとすると逃げそうになる。歩き始めると追ってくる。変なものにでも取りつかれたようで、少し怖くなってきた。
思わず階段を走って上り、部屋の鍵を差し込んだところに追いついてきた。仕方なく、
「入る?」と聞くと、頷いて部屋の中までついてきた。
部屋は朝出た時と変わらず、洗い物もそのままで、とても綺麗な部屋とは言えなかったが、妙に気まずくて何も言えず、冷蔵庫にあったお茶をグラスに入れて勧めた。
すると随分喉が渇いていたようで、あっという間に飲み干してしまった。
「もっと飲む?」と聞くと、首を振って少し笑った。寂しそうな笑顔だった。
その日から美保は居ついてしまった。まるで迷い猫みたいに、勝手に布団にもぐり込んで来る。何も語らないから、何も聞かなかった。
しばらくすると髪を切り、服もどこで調達したのか可愛くなっていた。数か月すると少しふっくらして、あの頃の可愛らしさが戻ってきた。それでもプライベートなことは何も話さなかった。
それを感じ取っていたので、こちらもとりとめのない話しかしなかった。家に帰ると夕食らしきものが用意されていたり、洗濯や掃除をしてくれていたりして、居心地は悪くなかった。
しかし、ある日突然いなくなった。
あの時出会った居酒屋に行っても、店長は辞めていなかったし、誰も彼女のことを知らないようだった。しばらくは、いなくなった飼い猫を探すように周辺を歩き回ったりもした。でも見つからなかった。そして、その存在を忘れた。彼女ができたからだ。




