性欲は第二言語
私たちはしばしば「言葉」に裏切られる。
伝えたかった感情は誤訳され、愛はすれ違い、求めるものほど口には出せない。
だから人は、いつしか別の言語を使い始める。
それは国境を越える。文化を超える。
生まれた場所も歩んできた歴史も違うのに、誰もが同じ意味を理解する。それは恥ではなく、誇りでもなく。
ただ“人間であること”の証として、誰もが胸の奥に隠し持っている共通言語だと思います。この物語はその事柄に出会うまでの主人公の物語です。
高校を卒業後、劣等感や青い空虚を埋めようと。私は日本から逃げるように海外に出ていた。空港のロビーは、いつだって世界中の言語が飛び交っている。
けれど僕には、それらがただの音の波にしか聞こえなかった。
英語もフランス語も、知らない土地の訛りも、頭の上をすり抜けていく。
なのに──彼と目が合った瞬間だけは、はっきりと言葉が聞こえた気がした。
運命は、翻訳を必要としない。
食べ物の味は文化で分かれるし、好みや好き嫌いだってある、寝る時間も国によって違う。
でも、ひとつだけ。ただこれだけ
人間の体が腹の奥底で求める衝動、心が動く瞬間だけは、世界のどこへ行っても同じ形をしている。
彼は背の高い青年だった。
ブランドの髪に陽光が差し込んで、目の青さがまるで透き通った広い空のようだ
彼は僕の視線に気づいたのか、少しだけ瞳を細め、静かな笑みを浮かべる。
胸の奥で何かが、ひどく素直に疼いた。
国籍なんて関係ない。
性別なんてなおさら。
名前すら知らないのに、目が触れたときのあの言葉だけは確かだった。
“話しても通じないかもしれないけど、触れ合えば伝わる。”
そんな確信だけが、僕の中に生々しく息づいていた。
すれ違いざま、彼の指先が僕の腕に触れた。
それは偶然のはずなのに、妙に長く、やわらかい。
触れた部分だけ熱が宿って離れない。
──あ、これは〇〇だ。
僕は思わず振り返った。
彼も振り返っていた。
互いに何かを喉奥で呑み込んだような顔をして。
「どこへ行くの?」
言葉ではなく、目線でそう聞かれた気がした。
僕は、駆け出し彼の袖を掴んだ。
「お茶でもどうですか!」気づけば日本語で口ずさんでいた。
言葉では伝わっていないようだが、
彼は眉をあげ微笑みながらうなずいた。世界はとっくに多言語社会なんかじゃない。
体温と視線、鼓動の速さ──その三つが揃えば、誰とでも通じるもうひとつの言語がある。
この言葉は、人間が世界で一番古くから使っている第二言語だ。
彼は僕に声を掛け歩き出した。何を言ってるのかわからないが理解した。僕は彼の後ろを追うように歩き出した。
周りに響く言葉が今はやけに穏やかな波のように暖かく穏やかに感じた。
この出会いは僕の中の空白だった部分に初めて、温度のある意味を教えてくれた。
初めての作品なので至らない所も多々あると思いますが。アドバイスなど頂けたら幸いです。




