表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同担拒否は、ホントは拒否したくない!  作者: 櫻木サヱ
彼女は私の敵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

深夜ラジオと、名前を呼ぶ声

 夜十二時すぎ。

 アパートの部屋は、街灯の薄いオレンジがカーテン越しに差し込むだけで、ほとんど闇だった。

 ベッドの上にあお向けになったまま、ボクはスマホを胸の上で転がしつつ、今日一日を頭の中でぐるぐる反芻していた。


 ──放課後に届いた、あの人からのDM。

 “会えてよかった。声、すごくよかったよ”

 たったそれだけなのに、もはや全身が発熱してるんじゃないかってくらい、胸の奥がじんじんしている。


 人に褒められることは慣れてるつもりだった。

 でも、夏海なつみさんに言われると、どうしてこんなに刺さるんだろう。

 いや、刺さるんじゃなくて……沁みる、って感じ?


 ベッドの上でゴロッと寝返りを打つ。

 髪が頬に落ちてくすぐったい。


 「……ボク、調子乗ってないよね……?」


 小声でつぶやく。

 別に誰もいないけど、独り言はいつだって慎重になる。


 スマホの通知が震えた。

 ビクッとして画面を見ると──深夜ラジオの視聴予約のリマインダーだった。


 そう。

 夏海さんが毎週、匿名で投稿しているという噂のラジオ番組。

 ボクは最近、その番組を“習慣”のように聞くようになっていた。

 ボクが勝手にそうしているだけなんだけど……なんか彼女の息遣いがそこに混じっている気がするのだ。



 アプリを開くと、いつものオープニング曲がじわ〜っと流れた。

 程よく脱力したDJの声が、夜の部屋の天井を柔らかく振動させる。


 > 『さて、今日もリスナーの皆さんとゆっくり夜を歩いていきましょう。まずは一通、ラジオネーム“星影のリスナー”さん』


 いつものほんわかしたメール。

 だけどボクの耳は、そこで急に集中する。

 夏海さんが投稿しているのは“星影のリスナー”じゃない。

 でも、彼女の投稿はいつも突然、番組の後半──静けさが深くなる時間に出ることが多い。


 だからボクは、待つ。

 画面を消して、布団に潜って、耳だけを澄ませて。



 そして二十分後。


 > 『では次のメール。……お、久々ですね。ラジオネーム“SN”。』


 ……来た。

 スマホ握る手が無意識に強くなる。


 DJが読み始める。


 > 『こんばんは。今夜は誰かに会いました。

 >  会ったというより、遭遇、と言うべきでしょうか。

 >  声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる感覚を、久しぶりに思い出しました。

 >  名前は……まだ言いません。でも、その子の一人称は“ボク”でした。』


 脳が一瞬で沸騰した。

 布団の中で、ボクは声にならない息を吸い込む。


 絶対に、ボクのことだ。

 でも、でも……そんなはず……いや、そんなはずしかないだろ!?


 DJが笑いながら続ける。


 > 『へぇ〜。気になるねぇ、その“ボク”ちゃん。続きがあれば、また来週も読ませてください。』


 投稿が読み終わると、部屋の空気が急に静かになった気がした。

 ラジオの音は流れているはずなのに、ボクの意識はまるごと持っていかれていたから。


 胸がぎゅうっと縮んだ。

 うれしいのか、こわいのか、わからない。

 照れてるのか、舞い上がってるのか、それもわからない。


 ただひとつ確かなのは──


 「……ボクのこと……好きなの……?」


 言葉が勝手に口から落ちた。


 返事はもちろん、返ってこない。

 深夜ラジオは何事もなかったかのように次の曲へ進んでいく。


 でも、確かに聞いた。

 ボクを“ボク”として見つけた誰かの声を。


 その“誰か”は間違いなく、夏海さん。



 スマホの画面を見つめながら、ボクは唇を噛んだ。


 ──明日、会いたい。

 でも、会ったら絶対に意識する。

 距離が近すぎたら、変な顔してしまう。


 そんなぐるぐるを抱いたまま、ボクは布団の中で身体を小さく丸めた。


 「……ボク、どうしたらいいの……?」


 見えない誰かに問いかけた夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ