隣の席の子
次の日、ボクはまだ昨日のイベントの余韻に浸っていた。
蒼真くんの声が、頭の中でぐるぐると響いている。
それと同じくらい、横に座っていたあかりのことも。
あの明るい声。笑い方。
“同担”なのに、どうしてこんなに気になるんだろう。
ボクは自分でも答えがわからなくて、胸の奥がちくりと痛む。
学校に着くと、友達の香月みなとが声をかけてきた。
「昨日のイベント、どうだった?」
「……うん、楽しかった」
ボクは少しうつむきながら答える。
正直、楽しかったのは蒼真くんだけじゃない。
あかりと隣に座った時間も、特別だった。
でも、こんなこと誰にも言えない。
“同担を好きになるなんて、ボクは絶対間違ってる。”
放課後、いつものようにスマホを開く。
昨日、あかりがボクのSNS投稿にいいねをしていた。
ボクは思わず画面を凝視する。
指が震えて、返信を打つ手が止まる。
「……ありがとう」
簡単すぎる一言だけど、送るのに勇気がいった。
すぐに返信が返ってきた。
「こちらこそ!昨日は隣で楽しかったよ。また会えるといいな」
その文面を見た瞬間、ボクの心はまたざわついた。
“拒否したい”のに、“会いたい”と思ってしまう。
頭では理解できない感情が、胸の奥で跳ね回る。
帰り道、ボクは駅のベンチに座り込む。
桜の花びらがひらりと舞い落ちて、スマホの画面に重なる。
ふと、昨日のあかりの笑顔が浮かんだ。
……ずるい。
こんなにすぐ、ボクの心を揺さぶるなんて。
でも、拒否したい自分と話したい自分。
ふたつのボクが、頭の中でぶつかり合う。
それでも、ボクは気づいた。
“あかり”のことを考えるだけで、胸が少しだけ温かいってことを。
この気持ちは、なんだろう。
きっと、推しを巡る“同担”なんかじゃ片付けられない。
何か違う、けれど言葉にできない特別。
――ボクはまだ名前も知らないのに、
もう少しだけ、この人のことを知りたいと思った。




