拒否のルール
ボクは、ずっと“同担拒否”だった。
そう宣言してから、もう三年になる。
誰に言われたわけでもなく、最初からそう決めてた。
だって、ボクの推し――日向蒼真くんは、ボクの心を救ってくれた唯一の人だから。
声を聴くだけで、生きてていいんだって思える人を、誰かと共有したくなかった。
SNSのプロフィールにもちゃんと書いてある。
「同担△(苦手です)」って。
あれはボクの防波堤みたいなもの。
“好き”って言葉を守るための、ちょっとした柵。
その日、春の陽射しがまぶしい午前。
蒼真くんの新作ドラマCD発売記念イベント。
当たるはずないと思ってたけど、奇跡的に当選した。
手のひらに紙チケットを握りしめて、ボクは会場に向かってた。
開場十分前。
ボクの席は、前から八列目。
「この距離なら、息づかいまで聴こえるかも」って胸が高鳴る。
……そこで、事件が起きた。
隣の席の女の子が、ピンクのトートを抱えて座った。
バッグには蒼真くんのアクスタ。
缶バッジ。
キーホルダー。
見慣れたロゴ。
――同担だ。
ボクの心臓がぎゅっと縮む。
笑顔で話しかけてくる彼女に、ボクは反射的に顔を背けた。
「……あ、同じ蒼真くんのグッズですね」
「うん。すごいよね、今日の衣装もきっと似合うと思う!」
明るい声。
澄んだ目。
まるで太陽みたいな人。
その瞬間、ボクの中の“拒否のルール”がチリッと音を立てた。
嫌いなはずなのに。
敵のはずなのに。
なんでこんなに、声がきれいなんだろう。
イベントが始まって、照明が落ちた。
ステージの上の蒼真くんが、ゆっくりとマイクを握る。
「今日は来てくれてありがとう」
その声だけで、涙がこぼれそうになった。
ボクも、隣の彼女も同時に息をのんでいた。
横顔が、光に照らされて綺麗だった。
“同担”なのに、同じタイミングで笑って、同じ場所で泣いてる。
それが、どうしようもなく不思議だった。
イベントの帰り道。
駅の改札で、彼女がふいに話しかけてきた。
「今日、すっごく良かったね!」
「……うん」
「ボク、あ、えっと……綾瀬あかりっていいます」
ボクは一瞬迷って、それから言った。
「……桐生みお。ボクも、蒼真くんが好き」
口にした瞬間、胸の奥がチリチリした。
“同担”にそんなこと言うなんて、絶対しちゃいけないのに。
あかりは嬉しそうに笑って、
「じゃあ、またどこかで!」って手を振った。
ボクはそれを見送りながら、
知らない痛みを抱えて立ち尽くした。
――拒否したいのに、拒否できない。
ボクのルールが、静かに崩れ始めた音がした。




