恋と推しと、初めての“秘密”
カフェを出た後、街は夕暮れ色に染まっていた。
ボクと夏海さんは、手をつないだまま歩いている。
歩幅を合わせているわけじゃないのに、不思議と呼吸が合っているような気がした。
「……みおちゃん、今日のこと、誰にも言わないでね」
夏海さんの声は、耳元で柔らかく震えた。
「……うん」
思わず頷く。胸が高鳴って、言葉が震える。
“秘密”
その言葉だけで、世界が一気に特別になる。
ボクたちは、同じ気持ちを抱えている。
でも、それはまだ、誰にも見せてはいけない、秘密の温度。
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帰り道、信号で立ち止まる。
ボクはふと、夏海さんの手を握り返した。
手のひらの温かさが、冬の風を遮る小さなシェルターみたいに感じる。
「……ねぇ、夏海さん」
声が小さくなった。
でも、言わずにはいられない。
「……ボク、あの……同担拒否、やっぱり嘘だったのかな」
心臓が痛いくらいドキドキする。
まさか、こうやって直球で聞く日が来るなんて、思ってもみなかった。
夏海さんは少し顔を赤らめて、目を逸らす。
それでも手をぎゅっと握ったまま、少し笑った。
「……ボクちゃんには、もう拒否する理由なんてないよ」
その言葉だけで、胸の中の壁が少しずつ崩れる。
ボクはただ、そっと笑うしかできなかった。
⸻
街灯の下、ふたりの影がぴったりと重なる。
手を握るだけで、心拍が早くなる。
まるで、世界のすべてがこの瞬間のために準備されていたみたいに。
「……ねぇ、土曜日のイベント、もうすぐだね」
ボクは小さく話題を変える。
まだ、あの空間の魔法に酔いしれたままだから、直接は言えない。
「うん。楽しみだね」
夏海さんも微笑む。
その笑顔に、ボクはますます胸が熱くなる。
⸻
帰宅したボクは、部屋でスマホを開く。
ラジオやDMのやり取りもいいけど、やっぱり、今日の“生の夏海さん”が一番だ。
触れた手の温度、囁いた声の震え、笑った目元。
全部、記憶の中に焼き付けるしかない。
そして、画面に向かってそっとつぶやく。
「……ボク、絶対、また会いたい」
秘密の共有、手の温度、初めて感じた恋心――
全部が、胸をぎゅっと締め付ける。
でも、こんな感覚、きっと嫌じゃない。
むしろ、もっと感じていたい。
⸻
夜が深くなる。
布団に入っても、手のひらの感触がまだ残っている。
まるで夏海さんがそばにいるみたいで、眠れないくらいに、心臓が早くなる。
「……あぁ、土曜日まで待てるかな、ボク……」
小さな声でつぶやき、ボクはそっと目を閉じる。
夜の闇に、胸の奥の温度だけが、静かに揺れていた。




