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同担拒否は、ホントは拒否したくない!  作者: 櫻木サヱ
彼女は私の敵

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12/13

“投稿の続き”と、触れた手の温度

 夏海さんの指先が、

 ほんの一瞬、ボクの手の甲に触れた──

 その程度の接触なのに、


 どうして世界がこんなに静かになるんだろう。


 カフェのざわめきも、

 カップが触れ合う小さな音も、

 全部、遠くへ押し流されていく。


 あるのは、

 “触れた”という事実だけ。


 「……投稿の続き、ね」


 夏海さんは、指先をそっと引っ込めた。

 名残惜しそうに。

 そして、少し笑った。


 「読まれるかわからなかったから、送るか迷ったんだけど……結局、送っちゃったんだよね」


 そう言いながら、スマホを取り出す。

 画面に映る文字を自分の胸で隠すみたいに持っていて、

 ボクには見せない。


 “読んでほしいけど、全部見せるのは恥ずかしい”。

 そんな女の子みたいな仕草が、あまりにも可愛い。


 「ねぇみおちゃん、目を閉じて聞いてくれる?」


 「……え?」


 「恥ずかしいから。

  でも、聞いてほしい。

  声で伝えたいの」


 声で。

 伝えたい。


 その言葉だけで、胸がきゅんと縮む。

 ボクは素直に目を閉じた。

 テーブルの下で、手がぎゅっと握り合うみたいに震える。



 間を置いて、

 夏海さんが、小さく息を整える音がした。


 そして──


 ゆっくり、ラジオ投稿の“続き”を読み始めた。



「……もしも、今日出会った“ボク”ちゃんが、

 またわたしに会ってくれるなら──」


 静かな声。

 耳の奥に落ちてくるみたいな声。


「“同担拒否”だったわたしの気持ちを、

 少しずつ変えてくれるんじゃないかなって……

 そんなふうに思いました」


 手の甲がじんわり熱くなる。


「ほんとは、誰かと好きなものを共有するのが怖かった。

 比べられるのも、負けるのも、奪われるのも、全部。

 でも……」


 言葉がひと呼吸だけ止まる。


 息を吸って、吐く音。

 それすら甘くて苦しい。


「“ボク”ちゃんとなら、怖くない。

 同じものを見て、同じ場所に立って、

 同じ声を好きになれる気がするの」


 心臓が跳ねて、

 喉がきゅっと締まる。


 


「──もしかしたら、好きなのかもしれない。

 まだ名前は言えないけど……

 一人称が“ボク”の、その子が」


 


 言い終えた瞬間、

 ボクは思わず息を吸った。


 目を開けると、

 夏海さんが、恥ずかしそうにスマホを胸に抱えていた。


 耳まで赤い。

 唇を噛んで視線を伏せている。


 まるで、告白した直後みたいな顔。



 「……それって」


 ボクは机の下で手を握りしめたまま、

 かすれた声で続ける。


 「ボクのこと、ですよね?」


 聞いてから気づく。

 たぶん、もう答えは決まっている。


 でも、ちゃんと聞きたかった。

 この胸の奥で暴れ続けている“想い”に、

 形を与えてほしかった。


 夏海さんは、

 ちょっとだけ微笑んで──


 そっと、ボクの手を握った。


 逃げる気配なんかまったくなくて、

 むしろ優しく、包み込むみたいに。


 「……うん。

  みおちゃんのことを言ってる。

  他の誰でもないよ」


 世界が、やわらかく溶けていく。


 外の風の音も、

 カフェの時計の針も、

 全部背景に消えて──


 手と手が触れた場所だけが、

 いま、確かに存在してる。


 ボクは、泣きそうな声でつぶやいた。


 「……うれしい……」


 言った瞬間、

 夏海さんの指がぎゅっと重なった。


 「わたしも、うれしいよ。

  みおちゃん」


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