表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同担拒否は、ホントは拒否したくない!  作者: 櫻木サヱ
彼女は私の敵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

放課後、二人きりのカフェで

放課後。

 校門を出た瞬間、冷たい風が制服の袖をふわっと撫でた。


 緊張しすぎて、呼吸が浅い。

 夏海さんと会うだけなのに、どうしてこんなに足がすくむんだろう。


 “会って話したい”


 その一言が頭の中で反響し続けて、

 授業中もノートはほとんど埋まらなかった。

 黒板を見てるふりしながら、心臓ばっかり気にしてた。


 スカートのポケットのスマホが小さく震える。

 夏海さんからのメッセージ。



【夏海】

《ついたよ。入って奥の席にいる》



 画面を見るだけで指先が熱くなる。

 人を好きになるって、こんな些細なことで体温が変わるんだ。

 知らなかった。


 ボクは息を整えて、

 学校から二駅先の小さなカフェへ向かった。



 扉を開けると、

 カラン、と小さな鈴の音が鳴る。


 その瞬間、

 奥のテーブルで誰かがゆっくり顔を上げた。


 ──夏海さんだった。


 窓越しの夕陽に照らされて、

 髪の先まで淡く光って見える。

 白いカップを両手で包んでいて、

 視線が合った瞬間、わずかに目を丸くした。


 「……来てくれて、ありがとう」


 その一言が、

 夕暮れよりずっとあったかくて、

 ボクは一歩、また一歩と吸い寄せられるみたいに席へ向かった。



 向かいに座ると、

 胸の前で手をぎゅっと握りしめたくなるほど緊張した。


 近い。

 近い。

 夏海さんのまつげの影まで見える距離。


 「昨日のラジオ……聴いたんだよね」


 やわらかい声。

 だけど逃げ場のない、まっすぐな目。


 「……はい」


 かろうじて声にしたけれど、

 ボクの喉は乾ききっていた。



「どう思った……? その、“ボク”って言ったところ」


 “ボク”

 わざわざ、その単語にだけ優しく指を置くみたいな声の出し方。


 その瞬間、

 ボクの心臓は壊れたみたいに跳ねた。


 「……ボクのこと、ですよね?」


 聞いた瞬間、後悔した。

 声が震えてる。

 目をそらしたのも、たぶんバレてる。


 でも、夏海さんは笑わなかった。

 からかわなかった。


 むしろ、

 少し息をのむ音がした。



「……気づいてたんだね」


 静かな、でもどこかうれしそうな声。


「ううん、気づかせたくなかったわけじゃないの。ただ……あの投稿、少し気持ちが出すぎたから」


 夏海さんは、カップの縁を指でなぞる。

 その仕草さえ、胸を締め付ける。


「だって、昨日のみおちゃん……すごく綺麗に声を出してて。

 最初は“同担の子だ”って思っただけなのに……気づいたら、目で追ってて。耳も奪われてて」


 “みおちゃん”

 名前を呼ばれただけで視界がにじむ。


 「……ボクも、夏海さんのこと……ずっと見てました」


 言ってしまった。

 でも嘘じゃない。

 推しとして見てたけど、それだけじゃない気持ちも混じり始めていた。


 だからこそ、胸が苦しい。



 カフェのスピーカーから流れるジャズの音がゆっくり溶けていくような静けさ。


 夏海さんが、

 テーブルの上でそっと手を伸ばしてきた。


 触れられるか迷っているみたいに。

 でも確かに、ボクの手の方向へ──


 あと少しで触れそうな距離。


 「同担拒否のこと、ね……。

 本当は、拒否したいわけじゃないんだよ。

 怖いんだ、たぶん。

 好きなものを誰かと分けるのって」


 その横顔が、泣き出しそうに優しくて。

 ボクの胸の奥の奥まで入り込んでくる。


 「でも……みおちゃんは違う。

 分け合う、じゃなくて……一緒に見てくれる気がしたから」


 手が、触れた。


 ほんの指先。

 それだけなのに世界が一度止まった。



「ねぇ、みおちゃん……

 ボクの投稿、まだ続きがあるんだ」


 夏海さんの声が、

 夕陽に染まったカフェの空気を震わせる。


 「続き、聞きたい?」


 心臓が、痛い。


 でも、ボクは迷わず言った。


 「……聞かせてください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ