初めての外
一週間後、いよいよ洗礼を受ける日がやってくる。
昨日の夜からワクワクしてあんまり寝れなかったや。
「ちちうえ! 早く早く〜!」
「はは、朝から元気だな。教会は逃げないから安心しなさい」
「そうよ、セリス。まずはきちんと朝ごはんを食べてね」
「むぅ……」
両親に言われ、俺は渋々席に着く。
もうホルンが手伝うこともなく、頑張って一人でスプーンを使って食べる。
洗礼の儀を受けるにあたり、俺には様々な課題が与えられた。
出来るだけ一人でやったり、簡単な礼儀作法を覚えることだ。
領主の息子としての最低限のマナーみたいな感じかな。
「もぐもぐ……食べました!」
「はい、よくできましたね」
「えへへ、ありがと」
ホルンが無表情で俺の頭を撫でる。
最初は嫌われてるのかと思ったけど、ホルンは元々そういう感じらしい。
たまにクスッとは微笑むけど、大体は無表情なのである。
朝ご飯を食べたら準備をして、父上とホルンと一緒に玄関に向かう。
「グスッ……セリス、大きくなって」
「お母様、泣きすぎよ……うぅー」
「ったく、二人して情けないぜ」
何故か二人は泣き、兄さんも茶化しているが涙目である。
いやいや、幾ら何でも大袈裟じゃない?
「こらこら、セリスが戸惑っているだろう。気持ちはわかるが帰ってからにしなさい」
「ちちうえ?」
「セリス、俺もお前が無事に三歳を迎えられて嬉しく思う。とりあえず、教会に行くとしよう」
「は、はい……」
なんだろ? 実は拾われたとかで、みんなとは血が繋がってないとか?
先ほどの嬉しさは何処へやら、俺は不安を抱えつつも外に出る。
……しかし、それもすぐに吹き飛ぶ
何故なら、そこには広大な景色が広がっていたからだ。
「わぁ……きれいです!」
「そうか。そう言ってもらえるなら、頑張った甲斐があるというものだな」
手前には整備された田畑、奥には山々が見える。
田んぼに挟まれた道は綺麗に整備され、それが一本道で続いていた。
そして左右には森が広がっている。
田舎っぽくはあるが、それがまた前世で都会暮らしだった俺には新鮮だ。
「旦那様、早く行かないと時間に間に合いません」
「そうだな、司祭様を待たせるわけには行かん。セリス、抱っこするがよいか? 眺めるのは帰りにしよう」
「うん! ちちうえの抱っこ好きです!」
「ははっ、二人はもう抱っこさせてくれんから嬉しい限りだ」
そう言い、その逞しい腕で俺を抱き上げる。
すると、途端に景色が変わった。
さっきよりも奥まで見えて、むしろ願ったりだ。
そのまま父上が、ゆっくり歩き出す。
「ちちうえ、教会はここからどれくらいなのですか?」
「私の足で歩いて15分くらいだな」
「ふんふん……領地って広いのですか?」
「なんだ、もうそんなことに興味があるのか。そうだな、軽く説明しておくか」
父上の説明によると、この大陸は国同士で地続きて繋がっている。
その中で、うちの領地はアスガルド王国内にあるとか。
国自体は大陸的には西側に位置し、うちの領地はその中から西寄りに位置するみたい。
隣には国もなく、いわゆる辺境というやつだ。
「ふんふん、ちちうえはそこの領主なのですね」
「ああ、そうだ。貴族の次男坊だったのだが、国王陛下から受勲を受けてな。当時は戦争があり、そこで闘いぶりを認めてもらえたんだぞ」
「わぁ……すごいです!」
「はははっ! そうだろそうだろ!」
「わわっ!? あぅぅ……髪ボサボサ」
「すまんすまん、つい嬉しくてな」
そう言い、再び父上が乱暴に俺の頭を撫で回す。
父上は忙しく、他の家族より俺との時間は少なかったりする。
もしかしたら、父上も俺と同じように嬉しいと思ってくれているのかな。




