少しだけ世界を知る
それから月日が流れて、俺は二歳を過ぎる。
寝て起きてを繰り返していたので、あっという間だった。
歩けるようになったので、兄さんと一緒に家の中を探検する。
「にーに! はやくはやく!」
「待てって!」
「またない!」
「だァァァァ! ちょこまかと!」
探検してわかったことは、一階には部屋が三部屋がある。
広いリビングに父上の仕事部屋、最後に母上の部屋の三つだ。
風呂やトイレも別で、割と綺麗な感じ。
水洗式だったので、日本人として育った俺としては嬉しい限りだ。
魔法を込められる魔石というものを使ってるとか。
「魔法……早く使ってみたい」
「やっと捕まえたぜ……」
気が付くと俺は、兄さんに抱き上げられていた。
しまった! 魔法のことを考えすぎた!
「ったく、お前はどうなってんだ。はいはいや言葉もそうだが、こんなに早く歩く二歳児はみたことないぜ」
「んー……そういわれても」
生まれ変わりなので身体の使い方がわかってること。
理由はわかってないけど、言語が最初からわかること。
この二つの要因が、急激に俺の成長速度を速めているのは間違いない。
「まあ、良いか……さて、部屋に帰るぞ」
「いやですっ!」
「いやですって……」
「わぁー!」
「待てって! そっちはダメだ!」
「あう……」
腕から逃げ出すが、再びキュアン兄さんに抱っこされてしまう。
ちなみに赤ん坊生活が長かったからか、俺はすっかり精神年齢が退行していた。
最初は少し戸惑ったが、お漏らしもしているので今更である。
今では完全に子供であることを受け入れ、末っ子の身分を堪能している。
「キッチンは危ない物が多いからダメだって言ったろ?」
「へいき!」
「いや、平気じゃないし。あとでばれたら、怒られるのはオレなんだからな?」
「にーに、一緒におこられよ?」
「くっ……そんな可愛い顔で言うなし。仕方ない、ここはこっそりと——いてぇ!?」
振り返ると、そこには笑顔のお姉様……ナンナ姉さんがいた。
どうやら、後ろから兄さんの頭を叩いたらしい。
どうでもいいけど、笑ってるのに怒った顔ができる人って凄いよねー。
「何がこっそりですって? あんた、キッチンはダメって言ったでしょ」
「い、いや、だってよぉ〜セリスが」
「なに、セリスのせいにしてるのよ」
「にーに、悪くない」
まだ多少舌ったらずだが、どうにか発音する。
キッチンには行きたいけど、それで兄さんが悪く言われるのは嫌だし。
本当は早く料理とか作りたいんだけど。
社畜だった俺の唯一の楽しみは、休日に料理を作ることだったのだ。
「むぅ……セリスに言われちゃ仕方ないわね。キュアン、悪かったわ」
「い、いや、オレも止められなかったし……」
ふぅ、どうやら喧嘩にならずに済んだ。
この二人は、放っておくとすぐに喧嘩する……まあ、今回は俺が悪いんだけど。
ただ前世でもそうだったけど、歳が近いと喧嘩が多いのかな?
今もそうだけど、前世でも止めるのは俺の役目だったっけ。
「それはそうね。ところでセリス、そんなにキッチンが見たかったの?」
「あいっ!」
「仕方ないわね。なら、私が連れて行ってあげるわ」
「えっ!? ダメじゃないのかよ!?」
「私はダメって言われてないもの。ふふ、これが日ごろの行いってやつね。私は料理とか手伝ってるけど、あんたはつまみ食いの時ぐらいしか行かないもんね?」
「ぐぬぬ……」
姉さんの言葉に、兄さんはぐうの音も出ない様子。
基本的に姉さんは理詰めというか、頭の回転が早く言葉がスラスラ出てくる。
逆に兄さんは弁が得意ではなく単純というか、言葉より先に行動しちゃうタイプ。
「ねーたん、あいあとー!」
「あら! 可愛い!」
「んぎゅ……」
一瞬で間合いを詰められ、気がつけば強く抱きしめられる。
嬉しいけど、少し苦しい……こういうところは母上に似たのかもしれない。
結果的に二人に手を繋がれ、そのままリビングの奥にあるキッチンに入る。
そこには調理台や火口、何やら野菜などが無造作に置いてあった。
イメージ的には洋風で、広さはそれなりにあるかな。
オーブンらしきものもあるっぽい。
「ここがキッチンよ。お母様やホルンがご飯を作ってる場所ね」
「しかし、特に食いもんもねえしつまんないだろ? セリスは何が見たかったんだ?」
「別に何があるからってわけじゃないんじゃない? ただ、見たことないから見たい……というか、あんたもそうだったわよ」
「は、はぁ!? 覚えてないし!」
「そりゃ、あんたは小さかったし」
二人が何やら言い合っているが、俺はそれどころではなかった。
あちこちを見て、興味津々である。
「ねーね! 火はどっから!?」
「あら、火に興味があるの? 火はここを押すと……つくわ」
「わぁ……」
「それと、その下にはオーブンもあるわ」
良かった、この辺りは前世と大差なさそう。
しかし、俺はあることに気づく。
このキッチンには、あるべきものがない……冷蔵庫だ。
「れうぞうこ……」
「ん? れうぞう……何かしら?」
「わかんねー。セリスはまだ少し舌ったらずだしな」
俺の発音が悪いとはいえ、この感じ……冷蔵庫がない世界なのかな?




