救世主?
俺達は絶望の淵に叩き落とされ、意気消沈としてしまう。
ひとまず司祭様に任せ、母上に負担をかけないように別部屋に移動する。
すると、ホルンが深々とお辞儀をした。
「旦那様、申し訳ございません。私は……奥様が無理をしていることに気づいておりました」
「何故言わなかった!?」
「奥様が望んでいないからです。ここを離れずに、出来るだけ皆様と一緒にいたいと。何より、私は奥様に仕えている者ですから」
「それでも俺くらいには!」
父上がホルンの胸ぐらを掴む。
でもその時に俺は見た、ホルンが受け入れるかのように目を瞑っていることを。
そして、握った拳から血が出ていることに。
「ちちうえ! 喧嘩ダメ! ホルンだって辛いもん!」
「セリス様……」
「それは……すまん、ホルン」
「いえ、何も謝ることはございません」
ふぅ、どうにか喧嘩にならずに済んだ。
今はそんなことをしている場合じゃない。
でも今の会話で、どうしてホルンというキャラを知らなかったかわかった。
彼女は母上に仕える身だから、母上が死んだ時点で去ってしまったのかもしれない。
「それで、どうしよう?」
「今から上級光魔法を使える者のところまで行ったとしても、そもそもお金がないか」
「それについては心配なさらずに……誰か来ます」
どういうことか聞こうとすると、教会の扉が開く。
そこにいたのは白いロープを纏った綺麗な女性と、修道女のような格好をした小さな女の子だった。
「呼んでも返事がないと思いましたが、何かあったみたいですね」
「お母様! 人がいます!」
「ええ、話を聞いてみましょう。すみませんが、話をよろしいですか? ここの司祭様にご挨拶がしたいのですが……」
「それは失礼いたしました。ただいま、うちの妻のために治療をしておりまして……」
そのタイミングで、マイル司祭様が慌ててやってくる。
「声がすると思ったら……マーリン様!」
「様だなんてよしてください。今はただの弟子として挨拶に来ただけなので」
「そうてすか……しかし、これは偶然でしょうか?」
「どうしたのですか?」
「急患の方がいるのだが……貴女なら治せるのではないかと。みなさん、マーリンは類稀なる光魔法の使い手なのです」
その言葉に、即座に父上が反応する。
「「お願いします! どうか妻をお助けください!」
「うーん、そうは言われても……予約なしの患者は見れない決まりなのよね。あと、大金が必要になるわ」
「そ、そんな……マイル司祭様」
「やはりそうですか……彼女は各地を巡回している聖女と呼ばれる人なのです。予約を受けた場所を転々とし、治療を施しているのですが」
すると、小さな女の子がマーリンさんの服を掴む。
「ねえねえ、助けてあげられないの?」
「うーん……助けたいのは山々なんだけど。いつも言ってるでしょ? 一度例外を認めたら、それ以外の人達も同じことをしなくちゃいけないって。何より、先に予約をしている人達に申し訳ないわ」
悔しいけどマーリンさんのいう通りだ。
一度特例を認めたら、他から不満が出る。
「でも、可哀想……それにお母様、これって神様が助けてって言ってるんじゃないのかしら?」
「たまたま恩師がいる教会に立ち寄ったら、そこには急病の患者がいた。確かに偶然とは思えないか……では治療代と、《《何か私を驚かすモノ》》を用意してください。それがあれば、特例として認めましょう」
「あ、ありがとうございます! すぐに用意しますので、お待ちください!」
「あまり長居は出来ないけど、今日中だったら待ちますわ」
お礼を言った俺達は、急いで教会から出て行く。
俺が生まれた意味、ここで救世主が来た意味、それは何か意味があるはず。
そうだ……俺の氷魔法、それで母上を救ってみせる。




