初めての魔物
それから数日後、父上が恒例で行なっている狩りの日がやってくる。
うちは固有してる兵士などは少ないので、普通の村人なんかも参加するようだ。
そして俺は事前に聞かされた内容を知り、改めてゲームの世界だと認識するのだった。
「そっか、どうして村人が参加するのかなって思ってたけど……魔物を倒すと、《《強くなるんだ》》」
「そうだぜ。だからオレも、割とすぐにゴブリン退治くらいはさせてもらえたしな」
「流石にセリスみたいな三歳はいないけど、騎士の家系だと五歳くらいから始めたりするらしいわ」
「そうなんですね」
レベルやステータスはないけど、魔物を倒したら強くなる。
それも、オレが見ていたゲームと設定が一緒だ。
「ただし、強くなるのも限界値が存在するわ。誰でも鍛えればゴブリンくらいなら倒せるようになるけど、強い魔物を倒せるような人は少ないのよ。その中でも強くなれる者が戦いを生業にしたり、冒険者になったりするわ」
「生まれ持った才能みたいなことですか?」
「そういうこと、流石はセリスだわ。ちなみに強くなるっていうのは、魔力総量が上がったり身体能力が上がることを指すの」
「あれ? じゃあ、僕も魔物を倒せば強くなれる?」
「ええ。でも貴方の魔法では、まだ魔物を倒せる威力はないもの。いくら、ゴブリンと言えどもね」
今の俺は、ただの氷しか生み出せない。
でも、やり方次第ではいけるかな。
その後、編成を終えた父上と兄さんがやってくる。
「ナンナ、セリスを見てくれてありがとな。キュアン、お前の仕事はわかったな?」
「ああ、オレがセリスを守る」
「良い顔をしおって……やはり、守るべき者の存在は大きいか。ナンナも、よろしく頼む」
「任せて、近づく奴は燃やすわ」
「よ、よろしくお願いします!」
すると、三人が笑顔で頷く。
折角連れてきてもらったから、せめて足手纏いにはならないようにしないと。
そして森を進むこと数分で、そいつらは現れた。
「ギギッ!」
「ギャー!」
「うわっ!?」
その姿に、思わず姉さんの後ろに隠れてしまう。
全身緑色の身体に、落ち窪んだ醜い顔。
身長は兄さんくらいなのに、それよりも大きく見える。
やっぱり、ゲームとは違って怖いや。
「あら、セリスってば。ガルムは平気なのにゴブリンは怖いのね?」
「だ、だって、なんか怖い顔してる。それに、あの時は夢中だったから」
「震えちゃって可愛い。でも、年相応で安心したわ。ほら、キュアンが頑張ってるから見てあげなさい」
俺は恐る恐る、ナンナ姉さんの後ろから覗き込む。
父上が指揮する兵士達が中心となり、次々と魔物を倒していく。
その後ろには、槍を構えてゴブリンと戦う兄さんがいた。
「ウラァ!」
「キギ!?」
「はっ! こんなもんよ!」
槍の突きによって、ゴブリンの喉が貫かれた。
そして、小さな石ころになる……あれが魔石ってことだ。
怖いけど、グロくないのは助かるや。
「あらら、セリスが見てるからって張り切っちゃって」
「う、うるせえし!」
「馬鹿! 前を見なさいよ——ファイアーボール!」
「ギャャ!?」
兄さんに襲いかかろうとしたゴブリンに、火の玉が直撃して魔石となる。
それはとても軌道も丁寧で、ゴブリンだけに当たった。
「ねえさんすごい! しかも無詠唱!?」
「あいつばかりにいい格好はさせないわ。私もあれから鍛錬を重ねて、魔法のコントロールを覚えたのよ。一応、お母様からは合格点をもらったし」
「オレだって父上から合格点もらったし!」
「今ので失点かもしれないわよ?」
「ぐぬぬ……これから挽回だ!」
そう言い、兄さんが槍を構えて特攻する。
姉さんも負けじと最小限の火魔法を使って、ゴブリンを倒していく。
それを見ていると、俺も何かしたいと思うのだった。




