幸せな時間
半年が過ぎ、どうにか今の状況を飲み込んできた。
最初は訳もわからずわめき散らしたり、意味がわからなくて途方に暮れたり。
何より赤ん坊なので……まあ、色々と恥ずかしい体験をする訳ですよ。
しかし人とは慣れるもので、ひとまず順応してきた……諦めたとも言う。
「んぁ……(美味い)」
「あらあら、元気ね〜」
そう、吸わないと死ぬので諦めました。
ちなみに母親の名前はセシルと言い、青髪ロングのおっとり系美女だ。
身長もそれなりにあり、体型は我が母ながらナイスバディである。
「ふむ、大分大きくなったな」
「アラン……仕事はいいのかしら?」
「い、いや、これはだな……すぐに戻ります」
「ふふ、お仕事頑張ってくださいね」
さっき入ってきて、すぐにトボトボと出て行ったのが父であるアランだ。
赤髪をピシッとまとめ、背も高く男前なのだが、母には頭が上がらないよう。
そして肝心のお仕事は……なんと、領地を持つ領主らしい。
うちの家は、男爵の地位にあるとか。
「あぅ(それにしては質素だ)」
「どうしたのかしら?」
「あぅ(今も、こうして母上が面倒を見ているし)」
ほとんど寝ているので定かではないが、お手伝いさんらしき人は一人しか見当たらない。
その人は姉さんや兄さんの面倒を見ているので、俺は滅多に会うことはない。
その時に驚いたことがあるのだが……うん、色々と。
「さっきあげたばかりだし……寒いかしら? 少し足しましょうね——火よ」
「あぅ〜!(これこれ!)」
母上の手から火が発生し、それが暖炉の木に灯る。
とりあえずわかっているのは《《この世界には魔法があるということ》》。
つまり俺は、異世界転生をしたってわけだ。
「ふふ、貴方は魔法が好きね? もしかしたら、魔法使いになれる才能があるのかも」
「あぅ(魔法使いたいなぁ)」
「でも、まだまだ先の話ね。教会の洗礼を受けるのは、三歳になってからだもの」
どうやら、この世界には教会と呼ばれる組織があり、三歳になると洗礼の儀式を受ける義務があるらしい。
そのついでに、魔法適性があるかの確認もするとか言ってたっけ。
すると、ドアを叩く音がする。
「お母様、入っても良い?」
「はいはい、平気ですよ」
すると、ナンナ姉さんが部屋に入ってきた。
父譲りの赤髪に、母譲りの可愛らしい容姿をしている。
まだ八歳とのことだが、将来は美人さんになること間違いない。
ただ少し勝気なところがありそうです。
「あっ、セリスが起きてるわ……!」
「あぅ〜(姉さん)」
「えへへ、可愛い……フニフニだわ」
「あぅ(くすぐったいや)」
姉さんは俺が可愛いらしく、いつもこうしてほっぺを触ってくる。
それは前世の姉を思い出し、なんだか気持ちがふわふわしたり。
多分、愛されてるという感覚なのだろう。
すると、またもやドアが開く。
「あー! 姉貴だけずりぃ!」
「うるさいわね! 今は私の時間よ!」
「オレだってセリスと遊びたい!」
そう言い地団駄を踏むのは、我が兄であるキュアンだ。
こちらは赤髪に男らしい顔つきで、ほとんど父に似たらしい。
ちなみに兄さんも、いつも可愛がってくれる……ちょっと乱暴だけど。
「二人とも、そんなに騒いじゃ可哀想よ」
「だって可愛いもの……こいつと違って」
「それはこっちの台詞だぜ。セリスは可愛いけど、姉貴は可愛くない」
「何ですって?」
「やんのか?」
そう言い、二人が睨み合う。
この二人は年子らしく、あんまり仲が宜しくないようだ。
でも俺は家族には仲良くして欲しい……そういえば前世の兄と姉もこんな感じだった。
「あぅ〜!(喧嘩はダメ〜!)」
「ほら、セリスが怒ってるわ。喧嘩するお兄ちゃんとお姉ちゃんは嫌われちゃうわよ?」
「「ご、ごめんなさい〜!」」
すると、二人が俺に向かって謝る。
メイドを除くと、これが今世での家族ということになる。
なんの因果で転生したのかはわからないけど、せっかく得た第二の人生と家族。
今度こそ、みんなで大人になるまで仲良く過ごしたい。




