まずは一歩
それから数日後、俺は今更なことに気づく。
「……そういえば、これがゲームだとしてもまだ何かが起きる前って事だよね?」
俺の見ていたゲームでは兄さんや姉さんは二十代くらいの姿だった。
父上は今より老けこんでいて、無精髭なんかを生やしてたっけ。
そして主人公は十六歳の設定だった。
「つまり、俺と同じくらいの可能性があるね」
破滅要素である主人公の発見は必要だ。
よしよし、自分と同じくらいの子供ならそんなに数も多くないはず。
とにかく何かイベントが起きる前に、こっちから見つけないとね。
「とりあえず、今は勉強っと」
わかったのは、帝国や共和国の名前がゲームと一致している事。
世界観や、魔獣や魔物の種類なども一致してる。
記憶はおぼろげだけど、文字を見たら思い出してきた。
俺はメモを取りつつ、必死に当時の記憶を頼りに確信を得ていく……この世界が、俺の知るゲームの世界なのだと。
どれくらい集中していたのか、ふと横を見るとホルンがいた。
「あっ、いつの間に」
「随分と集中していましたね。そのメモ書きはとても良いかと」
「うん、覚えるかなって。あのさ、領内にいる僕と同じくらいの子供の数とかってわかる?」
「申し訳ありません。そもそも、住民が何人いるかも把握してないかと。お友達でも欲しいのでしょうか?」
……そっか! そもそも前の世界とは常識か違う!
貴族ならまだしも、戸籍なんかは平民にはないかも。
そうなると、探すのは苦労しそうだ。
やっぱり、領民全体を救う方にした方が良さそうだ。
「そ、そう! そんな感じ!」
「しかし、貴族の子息は領主様一家くらいですし……一応、旦那様には言っておきますね」
「う、うん、よろしく」
そして勉強を終えたら、俺は父上と出かける。
目的地は、農作業をしている領民たちのところだ。
馬に乗って移動し、10分程度で到着する。
そしたら馬から降りて、コップに氷と水を入れて領民たちのところに向かう。
すると、領民たちがすぐに駆け寄ってきた。
「これは領主様!」
「休憩中、済まんな。この間言った通り、息子のセリスを連れてきた。悪いが、付き合ってやってくれ」
「いえいえ! なんでも、我々のために何か考えてくださったとか。セリス様、ありがとうございます」
「ううん、こちらこそ時間をくれてありがとうございます」
みんな、自然な笑顔で対応してくれている。
何をするかは伝えてないし、普通ならこんな子供の言うことを聞くのは面倒なはず。
これも、父上がきちんと善政を敷いている証拠だよね。
……こんな父上を、飲んだくれ悪徳領主にしてなるものか。
「これはこれは、流石は領主様の息子さんだ。それで、我々はなにをすれば?」
「えっと、朝から働いているので喉が渇いているはずです。とりあえず、これを飲んでください」
「水ですか? 何やら白い物が浮いていますが……」
「これはセリスの氷魔法によって作られたものだ。安全は、俺が保証しよう」
「氷ですかい? ……いえ、領主様が言うなら平気ですね。では、まずは私が……ごく……ごくごくごく」
恐る恐る口にしたが、途中から目の色が変わり一気に飲み干してしまう。
「プハッ……これは美味いです」
「ふふ、そうだろ」
「よかったです。ただ、一気に飲むと体に悪いですからね。下痢になったり、体を冷やしてしまうので」
「なるほど……流石は領主様のご子息だ、随分と賢いですな」
「あ、ああ……」
その後、他の人々にも氷水を飲んでもらう。
すると、皆が息を吹き返すように目を輝かせた。
「うめぇぇえ!」
「ただの水なのに!」
「もう一杯ください!」
よしよし、つかみはオッケーだ。
しかし、本題はここからである。
皆が満足するまで飲んだら商談開始だ。
「それで、この氷を売ったら買ってくれますか?」
「そうですなぁ……値段にもよるかと。しかし、貴重な魔法を使っているので高いでしょうし」
「いえ、そこは安くするつもりです。それこそ、鉄貨幣一枚くらいかなって。一応、二、三杯はいけるはずです」
調べたところこの国は貨幣制度。
前の世界に例えるなら鉄(十円)、銅(百円)、鋼(千円)、銀(一万円)、金(十万円)、白銀(百万円)みたいな感じだ。
大人たちの給料を聞いたところ、月に銀貨四枚程度と聞いてるから問題はなさそう。
「ふむふむ、それくらいなら良いですな。数人で分けてもいいですし」
「ほんとですか? 貴重な意見ありがとうございます。お礼に、今日はもう一杯サービスにしておきますね」
「こりゃ、助かります。では、皆にも知らせておきます……いや、待ってください。確か魔石がいくつか……これをあげますんで」
そう言い、ちいさな魔石を俺に手渡す。
おそらく、ゴブリン程度の魔石だろう。
ゴブリンは畑を荒らしに来たり、人を狙って領内に迷い込むとか。
畑で働く彼らは、ゴブリンくらいなら倒せるのでその魔石かな。
「えっ? ……ちちうえ、良いのかな?」
「ああ、貰っておくといい。それは、領民がお前に対する礼なのだから。その代わり、お前はそれに応えてやればいい」
「……うん! この魔法を使ってみんなの役にたつよ!」
力強く、頂いた魔石を握り締める。
そして、これに詰める氷魔法を考えるのだった。




