キュアン視点
こりゃ、うかうかしてられねえ……兄としての威厳が。
隣で嬉しそうに鼻歌を歌ってるセリスを眺める。
可愛い弟であるが、同時に見栄を張りたい相手でもある。
「にいさん、今日はありがとう!」
「おう、またいこうな」
「はい! また色々と教えてください!」
そう言い、律儀にお辞儀をする。
三歳になったからなのか、セリスは一気に成長してきた。
みたところ、セリスは地頭が良さそうだ。
姉貴との会話とかも覚えてるし……オレなんか、全然覚えてねえや。
「ま、任せとけ」
「うんと、次は何を知りたいかなぁ……ねえさんにも聞いてみようかな」
「待て待て!」
それだけは許せん!
それって、オレが頼りにならないってことじゃんか!
「にいさん?」
「何かわからないならオレに聞け」
「にいさんにも聞くよ? それこそ、戦い方とか」
「よし、任せろ」
戦いは得意分野だからどうにかなる。
だが、オレは勉強が苦手だ。
父上や母上、姉貴からも言われるが……どうにもじっとしてるのがなぁ。
しかし、セリスの質問には答えられる兄でいたい。
「えへへ、頼りになるにいさんがいて良かったです」
「ぐはっ……こいつめ!」
「うひぁ!?」
あまりの可愛さに髪の毛を揉みくちゃにする。
毛量が多く硬いオレとは違って、セリスの髪は母上似でサラサラだ。
そうだ……母上が産むと決めた時、オレは兄貴になるからしっかりしなきゃって思ったんだ。
「すっかり忘れてたぜ」
「うぅー……ひどいや」
「ははっ、すまんすまん。ほら、帰るぞ」
手を繋ぎ、家路を急ぐ。
そして母上が待つ部屋に送り届けると、セリスはすぐに寝てしまう。
その寝顔を母上と一緒に眺める。
「可愛いわねー」
「ああ、そうだよな」
「貴方もこんな時があって、ナンナとこうしてお昼寝してたわ」
「お、覚えてないし」
そもそも、物心ついた時には姉貴と一緒の扱いだったし。
小さい頃はいつも一緒にいて、よく遊んでいたっけ。
……それがいつからか、顔を合わせば喧嘩ばかりに。
「すっかり、いいお兄ちゃんになって」
「母上、オレ頑張るから。父上の仕事を手伝ったり、しっかり勉強したり……セリスに誇れる兄でいたいから」
「あら、アランが聞いたら喜んでしまうわ。ふふ、本当にセリスには感謝しないと」
確かにセリスのお陰で姉貴との喧嘩も減ったと思う。
それに弟ができたことで、守るって感覚がわかった気がする。
それまでのオレは少し傲慢というか、なんで弱っちい奴らを守ってやんなきゃいけないんだと思っていた。
「それに、母上の負担も減らせるし」
「貴方も良い子ね、キュアン……頭でも撫でる?」
「い、いらないし!」
オレは恥ずかしくなって、部屋から出て行く。
……少し惜しいと思ったのは内緒である。
そのまま二階に上がると、姉貴と鉢合わせた。
「あら、うるさいと思ったら帰ってたのね」
「悪かったな。セリスなら寝たから、今は行くなよ」
「むぅ……寝顔を見たいけど我慢するわ。仕方ない、もう一度勉強しようかな」
そう言い、自分の部屋に向かう。
いうか? ……ええい! これも兄として!
「あ、あのよ」
「なに? どうしたのよ?」
「いや……オレに勉強を教えてくれないか?」
恥を忍んで頭を下げる。
母上も頭はいいが、今は負担をかけられない。
父上は忙しいし、ホルンは皆の世話をしなくちゃいけない。
そうなると、頼めるのは姉貴くらいだ
「ど、どういう風の吹きまわし? 熱でもある?」
「ねえよ……ただ、オレはセリスに誇れる兄でいたいんだ。今日、色々聞かれたけど答えられなくてさ」
「なるほど、今更勉強の大事さに気づいたと……ただ、悔しいことにアンタの気持ちはわかるわ。いいわ、付いてきなさい」
「あ、あんがと……姉さん」
「やめてよ、気持ち悪いから」
「……へっ、そうかよ」
オレたちは相変わらず、こんな感じなんだな。
それでも、セリスのためにという共通の目的がある。
……よし、セリスに『兄さんすごい!』って言ってもらえるように頑張るとするか。




