仮説
あれから1週間が過ぎ、俺は庭に出て魔法の鍛錬をしていた。
お相手は、当然ナンナ姉さんである。
「アイスボール!」
「ファイアーボール」
俺が氷の玉を放つ度に、姉さんが火の玉で相殺する。
これが最近の日課だ。
俺は単純に魔力総量を知りつつ底上げ、姉さんは威力調整の鍛錬を積む。
しばらく撃ち合うと、体が重くなってきた。
「はぁ、疲れたや」
「10発が限界ってところね」
「それってすごいの?」
「すごいわよ! 私だって、セリスくらいの時には3発くらいだったもの」
とりあえず、魔法の才能はありそうで安心だ。
だったら、この力をみんなのために役立てないと。
その後は縁側で、兄さんと父上の稽古を眺める。
ちなみに姉さんの要望で、俺は膝の上に乗せられています……逆らう権利はないのである。
「はっ!」
「甘い! そんな突きではゴブリンも殺せないぞ! 俺達を守るために強くなりたいのだろ!?」
「くっ……こうか!」
「そうだ! 体が小さければ体全体や腰を使え!」
それは、いつもより激しい稽古だった。
あの事件の後、兄さんが父上に頼み込んだらしい。
今度は、自分が家族を守ってみせると……俺も負けてられないや。
「そういえば、ゴブリンって?」
「まだ習ってないわよね。魔物の一種で、醜い姿をした生き物よ。ちなみにこの間見たガルムは魔獣っていうわ」
「魔物と魔獣……何が違うのかな?」
「良い質問ね。魔物は基本的に二足歩行の生き物、魔獣は四足歩行の生き物だと思って良いわ。でも一番の違いは、魔物は倒したら魔石という石になるの。魔獣は食料になったり、色々な素材になったりするわ」
なるほど、魔石か……うん、いかにもゲームっぽい。
魔物とかいるし、ああいう魔獣も沢山いるんだ。
まだ確定じゃないけど、やっぱりそうなのかな。
「魔石は何になるの?」
「魔法を込めることができるから、生活に役立つわ。この間火をつける時に見せたでしょ? あれはコンロに火魔石が内蔵してて、それでつけたのよ」
「わぁ……ねえさん、物知りです! ありがとう!」
「まあ! セリスったら素直なんだから!」
「んぎゅ……」
相変わらず、ナンナ姉さんはこれが好きみたいです。
しかし魔石かぁ……俺の氷魔法も使えるかな。
そしたら、冷蔵庫とか作れるかも。
すると、息を切らした兄さんがやってくる。
「悪かったな、素直じゃなくてよ」
「あら、よくわかったじゃない。アンタなんか、全然話を聞かないし」
「うるせえし。オレは魔法は苦手だし、武道を極めるから良いんだよ」
そう、兄さんは土適正があるけど魔法が苦手らしい。
何でも、放つことが出来ないとか。
「ふふん、セリスは魔法使えるもんねー? わたしと鍛錬しましょ」
「ずりーぞ! セリス、
お前も槍を覚えろって!」
「そんな野蛮なことさせるわけないでしょ!」
「んだよ! 槍、カッケーじゃん!」
……こっちも相変わらず喧嘩ばかりです。
父上も呆れて、後ろでため息をついてるし。
「これ、二人共。お母さんも寝てるから静かにな」
「あっ……ごめんなさい」
「そうだった……ごめん」
そう、ははうえは少し具合が悪いようで寝ている。
元々身体が弱かったところに、ガルムに襲われたからかと。
重い病気とかではないけど、ホルンが付きっ切りで看病をしていた。
「さて、俺はセシルの様子を見てくる。キュアン、お前は風呂を沸かしてくれ」
「わかった!」
「ナンナは引き続き、セリスをよろしくな」
「はーい。ふふ、役得だわ」
「ぐぬぬ……」
兄さんが悔しそうな顔で去っていく。
明日は兄さんと遊んであげようかな。
愛され末っ子も大変なのです。
「お母様、大丈夫かしら?」
「うん、心配」
実は俺が考えてる心配はみんなとは違う。
この一週間で俺は仮説を立てた。
まずはこの世界が俺の知るゲーム世界だと前提として。
でもそこに俺という存在はいなく、母上も死んでいる。
「ここには高明なお医者様もいないし……私が光魔法を使えたら」
「光魔法は回復?」
「ええ、そうよ。六属性の中で、唯一癒しの力を持つわ。ただ適性がある人が珍しいし、いたとしても教会とかに引き取られちゃうのよ。仮に頼んだとしたら、莫大な費用がかかるわ」
「そっかぁ……」
もしかしたら……母上は死ぬ運命にあるのかもしれない。
あそこで死ぬはずだったから、この先も具合が悪くなったり。
そして俺が生きている理由、それは本当は死産だったのでは?
そこに俺という魂が入りこみ、生まれたのがセリスだったとか。
だとしたら、俺は本当の家族じゃないのかな。
「よし、くよくよしてても仕方ないわね。わたしが勉強をして、王都にある良い学校に入る。そこで薬学の研究をしつつ、光魔法を使える人の伝手を探すわ」
「僕も頑張る! ははうえと家族を守るんだ!」
「もう、セリスってば良い子なんだから!」
「んぎゅ……」
そうだ、例え俺が本当の家族じゃなくても関係ない。
大事なのは俺がこの家族を大切に思っていること、みんなも俺を大事に思ってくれていること……それだけわかってれば良い。
この家族に破滅が降りかかるというなら、俺がそれをぶっ壊すまでだ。




