決心
……何やら遠くから聞こえてくる?
その言葉は『良くやった』と聞こえたような気がした。
「……ん」
「あなた! セリスが目を覚ましたわ!」
「なに!?」
目を開けると、そこには心配そうな今世の両親がいた。
そっか、さっきの声は……前世の両親の声だったんだ。
ろくな親孝行も出来なかったけど、少しは二人にとって誇れる息子になれたのかな。
「ちちうえ、ははうえ……僕は誇れる息子?」
「もちろんだ、お前の機転のおかげで救われたのだから」
「そうよ、セリス……当たり前じゃない。ありがとう、助けてくれて」
「そっか……えへへ」
前世では家族に守られてばかりだった。
そればかりか、みんなに顔向けできないような生活をしてた。
きっと、呆れてたに違いない。
「でも、あんまり無茶をするな。お前に何かあったら、俺達はそっちの方が悲しいのだから」
「そうよ。私達が生き残っても貴方が死んだらダメなんだから。もちろん、ナンナやキュアンにも言ったわ」
「お前達は生きているだけで良いのだ。たとえ、誇れる息子ではなくても」
「親なんて、子供が元気でいてくれたら良いのよ。もちろん、人様に迷惑をかけなければね」
「……うん、気をつけます」
もしかしたら、前世の両親や兄や姉も同じことを思ったのかな?
少なくとも、家族に顔向けを出来ないようなことはしなかったつもりだ。
だから、夢の中でも怒ってなかったとか……だと良いな。
すると、扉が勢いよく開く。
「「セリス!」」
「ねえさん、にいさん……」
「よ、よかった……」
「ったく、心配させやがって」
そして、二人に強く抱きしめられる。
目は真っ赤で、泣きはらした跡があった。
すると、二人の体がずり落ちた。
「すぅ……」
「ぐぁ……」
「あれ? 二人とも、寝ちゃった?」
「無理もあるまい。二人とも、ずっと看病をしていたからな。お前は二日間も寝ていたのだぞ?」
そんなに寝てたのか。
道理で、みんなが心配するわけだ。
姉さんと兄さんは父上に担がれ、俺の両隣に寝かされる。
「心配かけてごめんなさい……そういえば、あの後はどうなったの?」
「無事にガルムは倒せたが、お前は魔力枯渇によって倒れてしまったのだ」
「魔力枯渇……?」
「適正なしと出たから説明をしなかったが、魔力を使いすぎると倒れてしまうんだ。故に普通なら徐々に慣らしていき、自分の限界を知りつつ総量を増やしていく」
ふむふむ、MPがゼロになったらまずい感じか。
……そうだ、そもそも俺はどうして魔法が使えた?
「あの、僕の魔法って……」
「それは俺達が聞きたいくらいだ。一体、どうやって使った? 六属性以外の魔法……あれは何だ?」
「え、えっと……」
どうしよう? 聞くってことは氷がない世界ってこと?
そもそも、この世界はゲームの世界?
……ダメだ、判断材料が少なすぎる。
「アラン、そんな攻めるような口調で言ったら可哀想よ?」
「はっ……俺としたことが。すまんな、セリス」
「う、ううん……」
「それじゃ、お母さんが聞きます。セリスはどうして私達が危ないと思ったり、魔法が使えると思ったの? ゆっくりで良いから考えてくれると嬉しいな」
どうしよう? 前世の話なんかしても信じてもらえないよね?
ましてや、この世界がゲームの世界かもしれないなんて。
でも、一つだけ言えることがある。
「うんと……変な夢を見たんだ。ははうえに危機が迫ってることとか、お前にしかない力があるとか」
「なるほど……神託の類か?」
「もしくは予知夢ってことかしら? そういう話は聞いたことあるわ」
「そうだな、虫の知らせとも言われる。とにかく、理由はわからないがそういうことか」
どうやら、上手く誤魔化せたみたい。
でも、本当にどういうことなんだろ?
これは後で、じっくりと考えてみないと。
「とにかく、みんな無事だったから良いじゃない」
「それはそうだな。ただ、氷魔法か……」
「何かまずいの?」
「いや、不味いということはないが……ただ、今のところ秘密にしておこう」
「うん、わかった……もう一回寝ても良い?」
「話したら疲れたわよね。少ししたら起こすから、その時にみんなでご飯にしましょう」
そうして、二人が俺たち三人を残して部屋を出て行く。
両隣には、大切な姉さんと兄さん。
まだ三歳の俺を信じてくれた……嬉しかった。
「そして、ちちうえとははうえ……みんなを守りたい」
ひとまず、考えるのは後にする。
この世界は、俺の知るゲームだと思って行動しよう。
そして、もしそうなら……今度は俺が、大切な家族を守ってみせる。




