目覚める力
兄さんに抱えられたまま、俺達は果樹園へと急ぐ。
兄さんは十歳だけど、既に身長が150くらいあって体格も大きい。
俺を軽々と負んぶしつつも、姉さんとスピードが変わらない。
「キュアン! ついてきてる!?」
「まだまだ余裕だ! セリス、しっかり掴まってろ!」
「うん!」
そうして果樹園の入り口にて、衛兵の方々に会う。
衛兵達は驚いていたが、すぐに代表者がやってきた。
「キュアン様にナンナ様!? それに、その子供はまさか……まだお披露目していないセリス様でしょうか?」
「説明は後にしてくれ! 父上と母上は!?」
「えっと……お二人なら果樹園の奥に向かいました。あそこなら危険はないですし、我々は邪魔をしないようにこちらで待機しております」
「……何やらきな臭いわね。セリスの言う通り、きて正解かも」
この衛兵達が気を使っていなくなるタイミング。
そして果樹園の奥の方は、森にも近いはず。
そう考えた時、何処かで獣の声が聞こえる。
「姉貴!」
「わかってるわ! 衛兵達、私達についてきて!」
「は、はい!」
そのまま果樹園を走り抜け、しばらくすると見えてきた。
父上が大きな狼と戦っているのが。
そして次の瞬間——母上が父上を庇うために前に出たのが。
「ま、間に合わねぇ!」
「今すぐ魔法を……母上に当たったら」
二人の言葉がスローモーションのように聞こえる。
もしゲームの通りなら、母上を死なせるわけにはいかない。
いや、違う……そんなのは関係なく、もう二度と家族を失ってなるものか。
「っ——ァァァァァ!」
そう思った時、俺は両手を前に突き出していた。
すると、狼が何かに滑って転ぶ。
「転んだ!? セリスはここにいろ! 姉貴は魔法の準備!」
「わかったわ! 衛兵達は母上を保護しつつ、二人を援護して!」
「はっ! かしこまりました!」
あれ? 俺は今何を? 何か、手のひらから出て行ったような……わからない。
ぼんやりした頭の中、目の前で激しい戦闘が続く。
父上は衛兵に応急処置をされていて、その間衛兵達が奮闘する。
「キュアン!」
「へっ、逃げろとか言わないでくれよ!」
「……ふっ、仕方のない息子だ。だが、無茶だけはするな」
「おう!」
衛兵達が狼を攻める中、兄さんも槍を持って参加する。
その突きは鋭く、衛兵達に劣ってない。
それでも狼は素早く、その全ての攻撃を避けていた。
それでも、母上が俺の側に非難する隙は稼げたみたい。
「セリス! どうしてここに!?」
「ははうえ、今はそれより……無事で良かった」
「え、ええ、貴方達のおかげね。あの時、なぜかガルムが滑ったのよ」
そうだ、あの時……ガルムは滑った。
その前に俺は何をした? 何かを放った気がする。
「ああもう! 素早くて魔法を当てられないわ!」
「ちっ……俺が万全の状態であれば!」
「くそっ! まだまだ足手纏いか!」
こうしている間にも父上の怪我は進行し、兄さんもいつまで持つか。
何とかしないと、大事な家族が……何とか姉さんの魔法を当てさえすれば。
俺が適正なしじゃなければ、何かの役に……魔法は、あの六属性しかないのか?
「……ははうえ、ガゼルが転ぶ時に何かを感じた?」
「……一瞬、ひんやりしたような」
「そっか、ありがとう……にいさん! そいつに隙ができるかもしれないから少し離れて! ねえさんとちちうえはトドメをさせるように!」
「おう!」
「お父様! 今はセリスの言う通りに!」
「……わかった」
「……凍てつく空気よ、眼前の大地を凍らせろ——アイスバーン」
次の瞬間、ガルムの周辺が凍りつき、ガルムが滑って尻餅をついた。
これで、あいつは素早い動きは出来ない。
「これなら……炎の玉よ、敵を燃やせ——ファイアーボール!」
「グルァァァァ!?」
火の玉が当たり、苦しそうに悶える。
同時に氷が溶けたので、皆が滑ることもない。
「キュアン!」
「おうっ!」
そしてガルムに、父上と剣と兄さんの槍が突き刺さるのだった。




