宝石の花
この国は宝石族が九割を超える。生まれ落ちた時から、輝く宝石を与えられている人々だ。
それは何故か花を模した形であることが多い。
手の甲に咲く翡翠。
足首に絡むルビー。
涙の雫の代わりに流れる水晶。
特に涙や汗や髪といった、何度も宝石を生み出せる者は重宝された。
宝石族の宝石は、魔力を生む魔石でもあるからだ。
魔石から生まれる魔力は、この国の産業を支えていた。照明魔具、冷暖房魔具、通信魔具、転送門。
日常生活のあらゆる場面で魔力が使われている。
そのため過去は宝石剥ぎと呼ばれる犯罪も多く、十年前の隣国との戦争もそれが原因だった。
隣国オルテンシアは魔力資源に乏しく、この国ヴェルデリアの魔石とそれを生み出す宝石族を狙って侵攻してきたのだ。
戦争は三年間続き、多くの命が失われた。
モルガナの母も、その犠牲者の一人だった。
ただ、最近では黒子と同程度の大きさしかない宝石の人々が殆どで、一般市民では宝石がない人も珍しくなくなっている。
絵巻物に出てくるような大きな宝石は、血統を重んじてきた貴族の血筋に限られていた。
そして貴族の血筋の人々は、自分たちの宝石を守るため、貴族同士で婚姻を重ねている。
この貴族女学院も、元はそうした血統を守る目的もあって設立された教育機関の一つだった。
「宝石ですらない硝子の涙なんて気味が悪い。」
「本当は親が死んだんじゃなくて、親に捨てられたんじゃなくて?」
特別な血を誇りに思い育って来た、宝石を咲かせる美しい同級生の声は容赦なく続き、棘のように刺さる。
モルガナは唇を噛んだ。違うと叫びたい。
でも、今までずっと、誰も平民出身の彼女を信じてくれなかった。その経験が、彼女の喉を塞いでいた。
(お母さん……どうか助けて、私は宝石剥ぎなんてしていません)
心の中で母を呼ぶ。優しかった母。
十年前の幸せな記憶の中でいつも微笑んで、モルガナの側にいてくれた母。
しかしその顔さえ、今では朧げにしか思い出せない。
まるでもう、モルガナを助けてくれる人など誰もいないと分からせるためであるかのように。




