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第九章 残酷遊戯

 フォークランド諸島周辺の海は荒々しい海で世界的に知られている。  

 ミナミゾウアザラシのドードーに導かれるままに、二つ目の点繋道に足を踏み入れた一平とパールは、あっという間にフォークランド諸島まで移動していた。

 やけに海鳥の多い地域だった。小さな海鳥たちが何万羽も住んでいて、海上を行くふたりの耳に(かまびす)しい鳴き声がひっきりなしに届いてくる。

 襲撃されるのでなければそれほど迷惑な声ではない。根っから歌の好きなパールはしょっちゅう耳をそば立て、うっとりと聞き入ったり真似をしたりしている。鳥の言葉はさっぱりわからない一平は専らパールのおしゃべりの聞き役だ。

 ハシボソクジラドリから聞き込んだ話を、今もパールは一平に聞かせていた。

「あの鳥さんの卵、何日も温められなくても大丈夫なんだって」

 普通はそんな事はありえない。

 卵を温める親鳥の図と言うのは、どんな鳥にもつきものだ。両親が交代で温める、片親のみが温めもう片方は餌を運ぶ、他の鳥の巣に産みつけて他人(鳥)に温めさせるなど、形は様々だが。

「本当に?どうしてそんなことができるんだ?」

 俄かには信じられず、一平は思わず問い返した。

「しらなあい。でも、大丈夫なんだって。すごいね。赤ちゃんなのに」

「ああ、そうだな…」

 そうして話していても、必ずしも疑問に答えが出るわけではなく、軽く流れていってしまう。断片的な知識が彼らの身を綿菓子のように取り巻く毎日が過ぎていた。

 海が荒いということは景観も荒いということだ。度々見られる島々の地形は切り立ち、入り江に切れ込んでいて、自然の厳しさや偉大さを実感させるものが多かった。大陸の沿岸部でもそれは同じで、特にアルゼンチン、パタゴニアのある東海岸線は垂直に切り立った断崖絶壁が延々と続いている。

 岩山に住み、その細い四本足で岩肌を自由に闊歩するという山羊や鹿でさえ、この崖を上り下りするのは難しいだろう。小さい動物ならば可能かもしれないが、その場合は崖の中腹をそのテリトリーとするのに違いない。ロッククライミングを趣味とする人間なら喜んで飛びつくかもしれないが、一平はごめんだった。

 それほどに崖はまっすぐで危険を孕んでいた。だからこそ、他の肉食獣が越えてくることができず、崖下の浜は、海獣たちにとって安全な場所なのだった。


 唐突に砂浜は始まる。そして波によって侵食され、海中へと続いている。

 例えば、アルゼンチンの真ん中あたりに突き出たバルデス半島の崖の上は、荒涼としたステップが壮大に広がっている。そこには、ダーウィン・レアやグアナコなどの獣も生息してはいるが、崖下には絶対に降りてこない。砂浜にはオタリアと言う恰好の餌がうじゃうじゃとハーレムを作っているというのに。

 オタリアも、ミナミゾウアザラシのようにハーレムを作り、集団で子育てをする海獣だ。その子育てはまるで学校教育のようであり、社会性に富んでいると言われている。

 オタリアの体も結構大きい。そばにいるだけで迫力だ。

 日本で言う秋や冬は、この辺では春夏であり、それはすなわち自然界の動物たちの繁殖期でもある。ここでもオタリアの恋の季節が始まり、そして可愛い子どもらが日一日と成長し続けていた。

 この特異な地形のため、地上からの敵に襲われることはない。代わりにオタリアは海からの襲撃者に狙われている。その多くはシャチだ。

 この時期オタリアは一日のほとんどを陸で過ごしているが、そもそも海洋生物であり、生まれた子どもは泳ぎを覚えなければならない。自然が作ってくれたプールで泳ぎの練習を始めたオタリアの子に、シャチはそっと忍び寄り、あっという間に口に咥えて攫って行ってしまうのである。

 この時も、一頭のオタリアの子が、シャチにその身を絡め取られていった。


 一緒に泳ぎの練習をしていた他の子どもたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。運悪く餌食となった仲間のことを案ずる余裕など全くない。親にしても、助けに行こうなどとは露ほども思わず、己の身の安全だけを考える。

 捕まえた獲物をシャチは必ずしもすぐには食さない。アザラシやオタリアと違い、地上を這うのに適さない造りのシャチは、捕えた獲物を必ず海中に引きずり込むが、息の根を止めてから安心して食べるのではなく、おもちゃにすることがよくあるのだ。

 特に若いシャチに多い。捕えたオタリアを海上に放り投げ、もう一方の仲間に受け取らせる。受け取ったシャチは再びお返しのように、またそのオタリアを放り投げる。まるでキャッチボールを楽しんでいるとしか思えない光景なのだ。

 そのキャッチボールのさまを、一平は見つけた。

 初めはなんだかよくわからなかったが、目を凝らして、投げ上げられているのが、オタリアの子どもで、しかも息があるということに気づくと、怒りが湧き上がってきた。

「なんて、ひどいことを…」

 一平とて海の生き物だ。生きていくために他者の命を奪うのは、毎日の営みのひとつになっている。しかし、それは生きるのに最低限必要な食糧としてであり、陸にいた時のようには無駄には殺さない。慎んで命を頂戴する。

 しかし、今目の前で行われていることは遊戯だ。

 シャチどもはオタリアの子どもの命を弄んでいる。

 既に意識などなくなっているだろうが、していいことではない。放っておくことはできない。

 一平はそう考えた。

 知らず知らずのうちに手が背中に伸びる。

 大剣を鞘から抜き放ち、厳しい表情で握り直す。

「一平ちゃん…」

 パールが心配そうに一平を見上げた。

「…あの子を助けたい。…わかるな⁈」

 一平の問いに、パールはコクンと頷く。

「どうすればいいかも…わかるよな⁈」

「パール、あそこで待ってる」そう言って、パールは近くの茂みを指差した。「絶対、パールのとこに連れてきて」

 今、自分のするべき事は、一平にくっついて行って、足手纏いになることではない。おとなしく隠れていて、一平がオタリアの子を救い出してきたら治療をしてやることこそ、自分の役割だ。

 パールはそう考えていた。 

 多くを言わなくても思うことが同じなのが嬉しかった。

 パールを残していくことに一抹の不安はあるが、今の一平にはシャチの三頭や四頭は恐れるに値する敵ではない。ミラの教えにより身に付いた自信と実力は日々力の加速がついたように増大してきていた。

「念のため、これを持ってろ」

 短剣を鞘ごとパールに手渡す。

 だが、パールは首を横に振った。

「大丈夫。一平ちゃんは必ず帰ってくるよ」

 パールの方も、よもや一平がシャチごときに遅れをとるとはもう思っていない。

 一平は短剣を引っ込めた。持たせれば怖くて逆効果になるのだ。バールの場合。

 彼はただ微笑んで、踵を返した。


 シャチは四頭いた。

 まだ大人になりたてらしく、あまり大きくない。

 まずはオタリアの子の身柄を確保したいが、宙でキャッチするのはできない芸当だ。仕方なしに、一頭ずつ仕留める作戦とする。

 間合いを測りながら忍び寄る一平の視界を黒い影が(よぎ)った。

「?」

 影は眼前の修羅場に向かっている。

 常識的に言って、そんな所へ自ら飛び込む生き物があろうはずはない。しかも、影はさほど大きくはなかった。せいぜい一平の倍くらいだろう。

「イルカ?」

 その泳ぐスピードと、流線形のスマートな体からそうと知れた

(何をしているんだ?)

 イルカは一頭のシャチの周りをぐるぐる回り出した。

(からかっている⁈)

 無謀なその行為の理由を、一平は突如悟った。

 あのイルカの目的は一平と同じだ。シャチたちの無法な仕打ちに激怒して、オタリアの子を助けようとしているのに違いない。

 イルカがシャチに敵うわけがない。体格からして不利すぎるし、歯もシャチほど鋭くはない。勝れることと言えば、泳力と、小柄を生かした敏捷さだけだ。

 一平も他人のことをどうこう言える立場ではなかったが、そのイルカの存在はとても気になった。

 一平は我知らず、その場を発っていた。

 イルカは一頭のシャチの気を引いて現場から連れ出している。その方向へ向かい、イルカの後を追い回すシャチの後方から忍び寄って一撃を食らわせた。

 シャチは身を折って沈む。すぐ鼻先にいたイルカが何事かと身を翻し、一平を見つけた。

 不敵な笑いが一平の口元にのぼる。

 それを見てイルカはまっしぐらに一平に向かってきてじゃれついた。キキッという高いクリック音がパールの声を連想させる。

 ―やるじゃないか、同志―

 そう、聞こえた。

「あいつらを、懲らしめるんだろ?」

 ―あたぼうよ。おいらと手を組んでくれるかい?―

「そのつもりで来たんだぜ」

 ―よっしゃ。行こうぜ―

「オーケー」

 何の疑問の湧くこともなく、一平はイルカと話をしていた。もう前からよく知っているもの同士のように、自然に仲間になれた。

 ―おいらに捕まんな―

「ああ」

 一平がいくら泳ぎが達者とは言え、イルカには敵わない。一平はイルカの背鰭に掴まり、再び戦場へと取って返した。

「もう一匹、引き離しておいた方がいいな」

 ―そのつもりさ―

「誘き出せるかい?この辺で隠れてて不意を突く」

 ―さっきのやつ、かましてくれるのか?凄かったな―

「こいつだけが、頼りさ」

 背鰭から手を離して大剣に手をやると、イルカはさっと一平の足元を擦り抜けていった。さっきと同じ手段でもう一頭屠ることに成功する。


 残り、二頭。

 シャチどもはボール投げに夢中になっていて、仲間が消えたのに気づいていない。迂闊なことだ。

 ―どうする?―

 イルカが訊く。

「あの子をこっちへ連れてきたい」

 ―もう死んでるぜ⁈―

「いや、まだだ。気を失ってはいるが。いいお医者を知ってるんだ。助けたい」

 ―ふーん。…じゃ、こうしよう―

 イルカは耳打ちする。それに頷き、一平が再び背に跨る。

 ―行くよ!―

 シャチがオタリアを投げ上げるタイミングを測って、イルカは水中から飛び上がった。

 一平がその背でオタリアの子を捕まえると、そのまま海へ潜る。

 当然受け止め損ねたシャチは怒る。巨体を曲げて、二人の後を追ってくる。

 オタリアの子を抱えていては大剣は抜けない。

 岩陰でイルカから降り、こっそりとパールのいる茂みへ向かう。

「頼んだぞ」

 パールにオタリアの子を渡し、元のルートで戦場へ戻ると、イルカが悪戦苦闘していた。

 イルカが海の生き物の中で最速とは言え、シャチもイルカの親戚のようなものである。かなりのスピードが出せる。その巨体ゆえに多少動きが鈍いのがせめてもの救いだ。二頭のシャチの鼻先を掠め、腹の下を掻い潜っては、イルカはすばしこく逃げ回ってシャチを挑発する。あわよくば二頭を正面衝突させてダメージを与えようという魂胆である。

 とは言え、危ないことも事実だった。一平は大剣を構えると全速力で戦いの渦中へ飛び込んだ。

 もうシャチの方も一平の存在には気がついている。

 一平をその牙で捕まえてしまおうと、大口を開けて向かってきた。一平の目の前に、鋭い牙と赤い粘膜が剥き出しにされる。

 彼は一か八かの勝負に出た。

 敢えて逃げずにその場に留まったのだ。

 ぐわっと大きく開かれたシャチの口に頭から突っ込み、口腔内に大剣を突き立てる。

 何本かの歯が腕を掠めて皮膚を抉った。しかし手応えは確かだ。

 シャチの動きは止まり、痙攣が剣を通して伝わってきた。

 イルカが来る。口に何か長いものを咥えている。

 流木だろう。氷河によって流れてきたものか、難破船の破片かはわからないが、長いものだ。シャチの口の中のつっかい棒となるくらいには。

 イルカは迷わずシャチの口の中に向かってくる。一平が剣を突き立てている手前にその棒を押し込んだ。

(頭のいいやつだ。人間でもないのに)

 一平はつくづく感心した。

 これで一平が剣を引き抜いてもシャチの口は閉じることはできない。既に虫の息だが、シャチの大きさを考えると油断はできなかった。イルカの加勢により一平は余計な怪我をしなくて済んだのだ。

 最後の一頭はいつの間にか姿を消していた。次々と仲間が消え、殺られたのを見て身の危険を感じたのだろう。辺りは何事もなかったかのように静まり返っていた。


「どうだ?」

 パールの手元を覗き込んで一平は問う。

 顔を上げて答えるパールは涙目だ。溢れ出る雫を手の甲で拭ってから呟いた。

「…ひどいよ…。なんで、こんなこと、するんだろ…」

 一平がシャチから奪い取った時、オタリアの子は血塗れだった。

 人間と違って手でのキャッチボールではない。しっかり受け取るには、その大きくて頑丈な顎と鋭い牙でオタリアの子の体を咥えなければならないのだ。咥えやすそうな尾鰭の付け根辺りは一番損傷が激しかったし、胴体にも浅くはない傷がそこら中についていた。

 それでもパールの必死の施術の効果で出血は止まっている。完全には塞がっていないが、致命傷には至らずに済んだ。さすがに意識を回復するまでにはまだ時間がかかりそうだが。

「この子も血が足りなくなってるの。こないだの一平ちゃんみたいに」

「じゃあ、海蛇を捕まえたほうがいいか?」

「この辺ならいるかなぁ」

「…どうだろうな。…また、ゾウアザラシにもらい乳するってのは?」

「戻るの?せっかくここまで来たのに」

 勿体ない、と言う口調だ。一平も、そう思う。

「いや、ゾウアザラシじゃなくても、似たようなものはいないかな。さっきのイルカに、お乳の出る仲間がいないかどうか訊いてみようか」

「残念ながらいないね」

 パールのではない声が聞こえて振り向くと、件のイルカが顔を出していた。

「おいら、仲間なんかいないもん」

「さっきの…」

 名をまだ聞いていないことに一平は気がつく。

「一人ぼっちなの?」

 聞き捨てならなくてパールが尋ねる。

「おいらひとりいるかさ。人魚のお嬢さん」

「ひとりいるか⁈」

「集団に属さず、何でもひとりでやってる強いイルカのことだろう⁈地上にも似たような言葉がある。『一匹狼』って言うんだ」

 一平の説明は的を得ていた。イルカは大きく頷いて、水の中で宙返りをしてみせた。『強い』と評されたのが嬉しかったらしい。

「おいら、『パド』って言うんだ。あんたたち、気に入ったよ」

「パールも。パールもパドのこと気に入ったよ。一平ちゃんもだよ、きっと」

「一平ちゃんて言うのか、あんた」

 聞き慣れない名に思わずバドは一平を見る。

「そう呼ぶのはこの子だけだ。一平、って呼んでくれ」

 それも充分珍しい。


「あんたの言ってたいい医者ってこの子のことかい?」

「ああ」

「癒しの力があるんだ⁈」

「君も知ってるのか、その力のことを」

「たまに、いるからね。でもこの子みたいなのは初めて見るよ」

 何をしているようにも見えないのに、オタリアの子の傷がみるみる塞がっていったのを、パドは目を丸くして見ていたのだった。

「よっぽど大丈夫じゃないかなぁ。もう傷は塞がってるみたいだし、それこそ、この子の仲間のところへ帰してやれば親もいるだろうし」

 そうか。この子はまだ子どもだ。コロニーに戻れば親がいるはずである。なぜと言って、大概の動物は、我が子以外の子どもの面倒を見たり育てたりはしないからだ。従って、親がいなくなれば保護を必要とする子どもは生きていかれなくなる。逆に言えば、子どもがいるところには親がいることになるのだ。

「パドは、この辺には詳しいのかい?オタリアのコロニーがある場所を知っている?」

 粋な心意気を感じさせるこのイルカは物知りそうでもある。聞いてみる価値はありそうだった。

「オタリアだったら砂浜さぁ。今の時期はね。崖下にハーレムがうじゃうじゃできてるはずだ」

「砂浜…ってことは…島か大陸に近寄らなきゃいけないってことだな。ここはそんなに陸地に近いのか」

 一平は海面に目をやった。その先にある陸地を視界に入れようとするかのように。

 いくらなんでも、遊ぶためのおもちゃをそんなに遠くまで運ぶわけがない。オタリアのコロニーはかなり近いはずだ。

「大陸って…でっかいでっかい島のことだろう?もう、すぐ目と鼻の先さ。案内してやるよ」

「悪いな。すっかり世話になっちゃって」

 一平がパドの申し出に恐縮していると、パドはその鼻面を一平の腹にコツンと当ててきた。

「同志、だろう?驚いたよ。おいらと同じこと考える海人がいるなんてさ」

「そうかい?」

「おいらの知ってる海人たちは決してシャチになんか向かって行かないよ。そりゃ襲われれば立ち向かって仕留めることもあるけど、死にかけてる他種の子なんかを助けるために、わざわざ危険に飛び込むバカはまずいないだろうな」

 バカと評されては気分を害するのが自然だが、一平はそうは思わなかった。確かに無鉄砲の一語に尽きる。バカ呼ばわりされても仕方がない。それにパドの口調からは一平を蔑視するような響きは微塵も感じられなかったから。

 一平は薄く微笑んだ。

 だが、その横でパールはほっぺたを膨らませている。

「一平ちゃんはバカじゃないもん!」

 敬愛する一平のことを悪く言われた、と怒っているのだ。

「自分だってそうじゃん。パドだって、一平ちゃんと一緒に向かっていったくせに!」

 今にも掴みかかりそうに…ではさすがにないが、拳でポカポカ殴りつけてもおかしくない雰囲気だ。

 パールの気を察したのか、イルカはひらりと身を捻って一歩下がった。

「へえ…。結構気が強いんだな。さっきはピーピー泣いてたくせに」

「ピーピーなんか言ってないもん!」

 よせ、ムキになるなと、一平が後ろからパールの腕を押さえつける。

「パド。この子はボクを庇って言ってるんだ。手加減してやってくれ」

「わかってるよーだ。そんなこと」人間だったら、あかんべをしていそうな口振りだ。「面白いからからかっただけだよん」

 パドに悪気はなさそうだが、からかわれたとあっては余計収まりのつかないパールであった。発するべき悪態の言葉を知らないので、一層頬を膨らませてブーブー言うしかない。

「ほら、バールも。こっちへ来い、まだやることがあるだろう⁈」

 一平は仕方なしにパールを抱きすくめて身動きできないようにし、件のオタリアの子の所へ運ぶことにした。

 一平と触れ合って心臓の音が聞こえると、パールはたちまちおとなしくなる。自分にしかできない仕事を与えられたことが嬉しくもあった。おとなしくオタリアの子のそばに再び座り込んで、静かな歌を歌い始めた。

「…何かおいら、眠くなっちゃったよ。それほど動いたわけじゃないのに」

 パドが訴える。

「当たり前だよ。これがパールの力なんだ。体力の問題じゃあない。目覚めた時には、かなりスッキリするよ」

 そう説明する一平自身も、身体中がポカポカと気持ちよくなってきている。じきに深い眠りに引き込まれることはわかっていた。

「大丈夫だ…。もう、シャチはいないはずだか…ら…」

 その先は、ぷつりと記憶が途絶えた。


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