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第六章 深海の吸血鬼

 キャプターの話してくれた氷の島は思いの外すぐに見つかった。

 島の両端から極端に高い山がふたつ伸びている。まるで尖塔のようだ。中央に丸みを帯びた山があるので、二本角のある鬼のようにも見える。

 白く聳え立つその山は氷山ではあるが、芯は凍てついた大地であるらしい。どの年に来ても目印となる形が不変なのは、中心に溶けない核があるからだ。

 南極大陸は、さらに南に延々と広がっている。そこから半端でなく離れた場所に、この氷の島はあった。

 どういう自然のいたずらでこんなものができたのだろうと、一平は頭を捻る。

「鬼みたいだな」と呟くと、パールが「鬼って何?」と聞いてくる。トリトニアには鬼の伝説はないとみえた。パールにはお城の塔に見えるらしい。と言う事は、トリトニアにはお城があり、塔も存在しているということだ。

 どちらにせよ、目の前のそれは氷の山でしかない。地上の王者である人間も暮らしてゆくのは叶わぬ、永久に人跡未踏の地なのだろう。だが今彼らに必要なのはその山ではない。この島の周囲に潜って、件の横穴を探さねばならない。


 オーロラは毎日のように姿を見せていた。場所によっても日によっても、色も形も時間さえも様々だ。しかし、確率的には非常に高く出会うことができそうだった。まずは横穴を見つけてオーロラを待つのだ。

「キャプターの言っていた吸血植物だけど、おまえは知ってるか?」

 念のために尋ねてみるが、パールは首を横に振る。

「どんな奴なんだろうな。こんな冷たい海に繁茂しているなんて…。夏だけだって、言ってたけど…」

 血を吸うものと言って思い浮かぶのは、一平にとってはまずは蚊だ。真夏に飛ぶ、小さな虫。寝ている耳元で唸られた日には熟睡していても目を覚ましてしまう。 

 それからヒル。薪を取りに山へ入ると、どこからか入り込んできて、靴下の中に潜り込み、皮膚を食い破って侵入する嫌な奴。

 あとは、いるのかいないのかわからないけど、吸血鬼。それとペアで語られるコウモリも、確かチスイコウモリと言う種類があったような気がする。

 食虫植物と言うのも連想される。南国の巨大な艶やかな花ラフレシア。割と身近なところで、ウツボカズラやハエトリソウなどは園芸店でも売っている。

 だが、思いつけたものにはどれも形態に共通性を見いだすことができず、結局想像力の貧困な一平には思い描けなかった。

 吸血植物とやらが心配なので、二手に分かれる事はせず、二人は共に慎重に島の周囲を経巡った。三日目にはそれらしき横穴を見つけることができた。遠目にだが、黒々と大きく深そうな穴がある。が、植物が繁茂している様子はない。

 不審に思いながらも二人は前進する。 

 穴はキャプターの言うように、体調八メートルあるシャチでも何とか通り抜けられそうに大きかった。海底にあるため、一層黒々と、底も先もないように見える。健太と出会った時に見つけた動物の巣穴の方がまだしも明るかった。

 その横穴のある場所は水深が六百メートルはあった。それより深くなると太陽の光が届きにくい。段々に光合成ができなくなるので、植物は生息できなくなる。(まば)らに見かける動物も、見えた通りの色ではないはずだ。赤などは特に、太陽光線がなければ目にする事は叶わない色である。

 餌を誘き寄せたり、交尾の相手を誘ったりするために、体のどこかに発光体をつけた動物。見る方向によって、シルエットが見えなくなるようなカムフラージュ機能を備えた魚。植物かと見紛うが実は動物である棘皮(きょくひ)動物の一種など、奇妙奇天烈な生き物に沢山お目にかかる。

 沢山とはいっても、個体数自体は多くない。有機物が少ないために水も澄んでいるが、逆に言えば同族や餌と出会う確率が極めて低い一帯なのだ。深海は地球の表面積の六割を占めているにもかかわらず、人間に知られている事はあまりにも少ない。

 見つけた横穴の前には、一層暗い深淵が横たわっている。よほどのことがなければ、地上のようにその谷に落ちたり吸い込まれたりする事はないから、怖さはあっても現実的な怖さではない。容易に横穴へ辿り着けるのだから。

 だが注意は必要だ。キャプターに言われた通りのものが見当たらないことに一抹の不安を覚える。

 キャプターは、実際にこの公道を使った事はなく、人伝ての情報だ。もしかしたらその情報が古く、吸血植物とやらは自然淘汰されてしまったのかもしれないし、どこかで間違って伝わってしまったのだと考えられなくもない。

 一平は不審に思いながらも、件の植物が見つからないことに少々気を良くして、横穴へ向かって泳ぎ出した。パールの手をしっかりと握って。

 斜め上方に見える穴の入り口まであと十メートルほどというところで、いきなりパールに腕を引っ張られた。

「⁈」

 パールが一平の腕を引っ張ったのではない。パールの尾鰭が何者かにぐいと引っ張られたのだ。パールは受けた衝撃に驚いて叫び声も出せなかった。

 

 咄嗟のことにも手を離さずにいられたのは上出来だった。一平は体勢を崩したまま、パールの尾鰭を見て愕然となる。

 尾鰭に続く括れに、得体の知れない紐状のものが何重にも巻きついていた。よくよく目を凝らさなければわからない。透明な物体だ。医療用のチューブくらいの細さだろうか。パールの尾の括れから延々と下方に伸び、暗闇にその先を隠している。

「やあーん…」

 パールがやっと抵抗の声を上げた。

 その間にも、パールの身体は暗闇の中へと引き込まれようとしている。

 一平はもう一方の手を伸ばしてパールの腰を捕まえ、利き腕で腰の短剣を引き抜いた。

「このっ‼︎」

 気合と共に、下から伸びてきたきたチューブを断ち切った。

 途端に巻きついたチューブは力を失う。尾鰭を締め付けられていた力が緩んだのを知り、パールは巻き付いたものを毟り取った。

 千切れたチューブの先には吸盤がついていた。アサガオの花のような漏斗状の吸盤。大きさはアサガオよりも小さく、オシロイバナくらいだった。

「やんっ‼︎」

 パールの力では、チューブは外せても、吸いついた吸盤までは毟り取れなかった。一平が手を貸すと、吸盤は人魚の尾鰭を噴火山のように吸い上げてからスポンと外れた。

「なに、これ〜」

気味悪そうに唸るパールの代わりに、一平は吸盤を持ち上げて観察する。

「こいつがキャプターの言ってた吸血植物か…」

 一目瞭然だった。千切れたチューブの切り口からは、何やら液体が滴っている。水深が深いため赤くは見えないがわかる。これは血だ。パールの血を吸ったのだ。

 吸盤は萎れた花のようになっている。千切られた先はすぐ死ぬらしい。

「どこにいたんだろう?」

 パールの素朴な疑問に、一平ははっとする。

 この一体だけであるはずがない。

「逃げろ!パール!」

「え⁈」


 頓狂な声を上げるパールの腕を引っ掴み、一平は上昇を開始した。後ろは振り返らなかったが、追われているのはわかった。手を引かれるままのパールが恐怖の叫びをあげ続けたからだ。

 身体が透明でも、何百何千とうじゃうじゃ追ってくれば目視はしやすくなる。動きも激しくなるので、波覚でも捉えやすい。

 深海の生き物は餌を捉えられる確率が極端に少ない。ものによっては何ヶ月も食べずに過ごせる生き物もいる。そんな動物はエネルギーの消耗を抑えるためになるべく普段は体を動かさない。ゆったりとした動作で、いつ来るかわからない獲物を辛抱強く待ち続ける。

 だが、いざ捉える時は素早い。チャンスを逃したら、次にいつ食事ができるかわからないからだ。

 この吸血植物も、その法則に則っていた。

 パールに巻きついた一匹―一体⁈―が合図であったかのように、吸血植物は一斉にその姿を現わしたのだ。

 海の深みに身を沈め、水の流れに身を任せていた彼らは、予想もしないほどのスピードでその触手―チューブ―を伸ばし、彼ら二人を狙って迫ってきた。

 思った以上のその勢いに、一平の背筋に冷や汗が噴き出す。

 いち早く迫ってくる一団を短剣で切り払い、前へと突き進む。

 次の一団が来る。

 再び切る。

 また来る。

 きりがない。

 間隙を見つけ、彼はパールの手に短剣を握らせた。同時に指示をする。

「追いつかれたらこれで切り払って逃げろ。先に行け!」

「ええ⁈」

 パールは刃物が怖い。手にしたことは、一平の知る限りではほとんどない。

「できないよ。パール…」

「先を見なければ大丈夫だ。あの数だ。ボクひとりでは防ぎきれないかもしれない」

「でも…」

「ただ振り回せばいい。周りにはあいつらしかいないんだから」

 躊躇するパールに言い聞かせながら、一平は次々と襲いかかる吸血花を大剣で捌いている。

 怖がっている場合ではないと、パールも悟る。

「うん…」

 一平は大剣を振るう。刃に当たりさえすればこの敵は脆い。刃渡りの長い大剣は効率もよかった。パールを先に横穴に入れ、追手を追い払いながら、自分も後を追う。

 だが、吸血花はどこから湧いてくるのか、際限なく深淵から立ち上ってくる。大剣一本で切り払うには限度があるほどに。


「‼︎」

 一体が一平の左足を掴んだ。

「こいつっ‼︎」

 すかさず薙ぎ払う。

 その間にも、別の群れが右足を狙う。

 腕にも太腿にも腰にも巻き付いてくる。

 右手の自由が利いていたのもそう長い時間ではなかった。

 ほどもなく、一平は身動きがままならなくなった。

 獲物が動きを停止したのを知ると、パールを狙っていたチューブたちも方向転換をして一平の方へ向かい始めた。

(え⁈)

(何…?)

 急に引き返し始めたチューブたちにバールは不安を掻き立てられる。

 振り向いて、パールは叫んだ。

「一平ちゃん‼︎」

 パールの目の前で、身体中ぐるぐる巻きにされているのは一平に他ならなかった。吸血花は刃先だけは避けているのか、右手の握りと大剣だけがくっきりと見える。

 その握りも緩んできていた。

 一平は身体に力が入らなくなってきていた。オシロイバナもどきが血を吸うので、身体中が痺れていた。

(くそうっ…。手が…。力が…。こんな…下等動物に…)

 こんな所でこんな奴にやられるのは不本意だった。一平はパールを伴ってトリトニアへ帰るのだ。そのためにここまで来たのだから。

(パールは…。パールは…。大丈夫なのか⁈…)

 瞼にも花の吸盤が張り付いていて、目を開けていられない。

「いやあああっ…‼︎」

 パールの悲鳴が耳に届く。パールにも、吸血花の魔の手が届いてしまったのかと、絶望的な思いに囚われる。

(来るんじゃなかった…。場所だけ確かめて、地道に少しずつ北上すればよかった…)

 後悔の波が一平を襲う。吸血花の攻撃よりも、慚愧の念の方が重く、辛かった。

(パール…。ごめん…。パール…。守ってやれない…)

 次第に気が遠くなる。痺れた身体には痛みの感覚すらない。一平は身も心も絶望の暗闇に包まれていった。


 その真闇を切り裂いた者がいる。

 目は開かずとも、周りが光に満ちれば感じることができる。真っ暗な洞窟からいきなり真夏の太陽の光の中へ出た時に感じる眩しい痛さが、一平の視神経を刺激した。

(何…?)

 数秒後、身体が自由になる。身体中を締め付けていたチューブも、無数の吸血器官の存在も感じられない。大剣を握る右手だけが何か温かく柔らかいもので包まれていると感じている。

 一平は目を開いて己の手を見た。

 彼の手を包んでいたのは一回りも二回りも小さな少女の手だった。パールが両の手でしっかりと、一平の手と大剣が離れないように握り締めている。しかもその中には、パールに預けた短剣の柄までが一緒に収まっていた。

 体中の感覚が示した通り、一平の身体にもパールの身体にも、あの植物は絡み付いていなかった。

(何が⁈…)

 再び同じ疑問を一平の脳は浮かび上がらせる。

 全く訳がわからなかったが、漠然と思った。パールが何かをしたのだと。もしくはパールが何かの力を呼び寄せたのだと。


 一平の直感は当たっていた。

 暗闇の中で聞いたパールの叫び声。あれはパールが吸血花に囚われたためではなく、一平が吸血花たち

にすっかり取り込まれたことを目にしたパールが、その光景に耐えられずにあげた叫び声だったのだ。

 それより少し前、短剣を手渡されたパールは、健気にも敵を追い払っていた。

 パールは剣技など知らない。無闇と振り回すことしかできないので、なるべく一平から離れようとしていた。一平を間違って傷つけてしまわないように。

 知能はないはずの植物であることが幸いして、非力なパールであっても何とかなっていた。

 横穴の縁までパールは無事に辿り着けた。一平はどうしたろうと振り返って、目にした光景に愕然とした。

 パールはすぐさま引き返した。その先に、無数の吸血花たちが蠢いていたが、恐怖は感じなかった。ただ一平の安否のみが気掛かりだった。

 ―おまえの一番大切なものはなんですか?―

 女神の言葉が蘇る。

(一平ちゃんだ!)

 ―おまえには大切なことを教わった。自分に正直に生きることをだ―

(一平ちゃんが好き!一平ちゃんがいなくなってはいや!)

 ミラにもそう問われた。一緒に死んでもいいくらい一平が好きかと。

(死んだっていい!一平ちゃんが助かるのなら…)

 ―あの方をお願いしますね―

(キャプターさん‼︎)

 ―人を生かすのは、純粋な心。愛です―

 ―おまえの今できることをしなさい。できそうなこと、しなければと思ったことを実行するのです―

 ―生きてみせるぞ、私も。おまえのように正直にな―

 キャプターの、ピピアの、ミラの声が、励ましとなってパールの身の裡に蘇る。

(一平ちゃんは死なせない。だから、パールも死なない)


 あの状態では、一平は失血が激しいだろう。たとえ何とか彼を吸血花から救えたとしても、意識も体力も失っているであろう一平をそのままにしておいたら、結局のところ死に至ってしまう。一平を助けるためには、パールが癒しの力を注いでやらなければならないのだ。吸血花たちの注意をこちらに向けてパールが彼の身代わりになったとしても、一平を生きながらえさせることにはならないのである。

 だが、そのためにはどうしたらいいのかはパールにはわからない。ただ、あの剣が一平の身から離れるのは良くないことだと思った。

 二人の身を守り、一平に自信と力をつけさせることとなった大剣との出会いから数ヶ月。今やあの剣は一平の身体の一部となっている。

 彼ら海人にはハンターから身を守る煙幕や棘や毒や鋭い歯などは身に備わっていない。他の動物より発達したのは大脳であり、その知能を以って作り出した各種の武器がなければ無力に等しい。

 あの大剣が―少し前までは、一平の父の形見の短剣が― 二人をトリトニアまで導くよすがとなっているのだ。

 一平が完全に意識を失って身体の力を失い、あの手から大剣が離れてしまったら、この底知れぬ深淵に吸い込まれて再び見つける事は難しくなるだろう。それはこの先の旅の危険が増すことに繋がり、二人の未来への展望が恐ろしく狭まることが必至となる。

 ―生き残るためのアイテムを確保しておくこと―それがパールの頭に閃いた考えだった。


 パールは一平の右手を目指し、泳ぐ。ぐらつく大剣をあと一歩のところで手の中に止まらせ、両の手でしっかりと包み込む。パールが手にしていた短剣もよそへやるわけにいかないので、手放さずにそのまま握り締める。

 短剣の刃先が大剣に触れた。

 その刹那、刃の触れ合ったところで火花が散った。小さな光が膨れ上がる。光はそこを中心に同心球を描き始め、みるみる大きくなってゆく。光は白く明るく、ところどころでオーロラを映したように虹色に煌めいた。

 その輝きが、二人の身体を覆っていくにつれ消えてゆくものがある。

 一平の身体に巻きついている吸血花だ。ちろちろと燃える炎に紙が焼かれて灰となっていくのに酷似していた。光は花だけを食いつくし、一平の身体の上から一掃してゆく。

 この現象を引き起こした当のパールも目を開けていられないほどの眩さだ。思わず固く瞑った目頭に、しかし光は温かい。

 やがて光を感じることができなくなり、パールはこわごわ目を開ける。

 包み込むと言うよりはしがみつくと言ったほうが正しいような体勢で、パールは一平にくっついていた。目の前にあるのは大剣の刃であり、その下にはよく陽に焼けた、だが今は無数に針跡の残る太い腕があった。その先には黒い髪が海藻のように漂っている。

 一平の身体はその下に続いていた。最前まで身体中に巻き付いていた花の茎の姿は跡形もない。

 パールは目を瞠る。

 奇跡が起こったのだと思った。

 自分の願いが神に通じたのだと。

 ピピア女神が、その他の人々が、パールに力を貸してくれたのだと。


 パールは更に下を見る。

 吸血花ども根こそぎ消滅させられたわけではなかった。遥か下の、だがパールの視力の届く範囲の中でゆらゆらと揺らめいていた。だが、右に左に上へ下へと動いてはいても、伸び上がってくる事はない。

 躊躇っているのだ。得体の知れない光に仲間を消滅させられたダメージは、その他大勢の花たちにも影響を及ぼしている。あの獲物はやめた方がいいと囁き合っているように、パールには思えた。

 だが、のんびりしてはいられない。

 あれはただの植物だ。単細胞だ。痛かったことも危なかったことも忘れてしまうのは早い。そしてまた気を取り直して襲ってくるのに違いない。

 パールは一平の腕を抱え直す。肘から先を胸に抱え、必死で斜め上方を目指す。

 一平は重い。身長差が四十センチもある上に、余分な脂肪はなく筋肉が発達している一平は比重も重い。その上五キロもある大剣を所持している。足せばパールの体重の倍以上はあり、引きずっていくのも並大抵のことではない。重力の少ない水の中であることを差し引きしても、三メートル引っ張るのが関の山なのだ。しかも彼は意識を失っている。

 それでもしなければならなかった。

 一平はあの横穴から公道を通って海峡を抜けようと言ったのだ。ならばパールは彼の言うことに従う。パールにとって何よりも信頼できるのは己の直感だ。その直感が一平に従えと、そう告げている。

 一平の言うことに間違いはないのだ。

 パールは無条件にそう思っていた。

 だから、あの横穴に行く。

 あそこまであの花たちがやって来れない事はさっきわかった。

 パールを追いかけて近くまで来てはいたものの、吸血花たちはそれ以上触手を伸ばすことができず、横穴に辿り着いたパールに手を出す事は叶わなかったのだ。

 パールは引っ張った。腹の底から力を込めて。尾鰭を思い切り(たわ)めて打ち払い、推進力と化した。今まで出したこともない力が出て、これが火事場の馬鹿力と言うものだろうか、パールは一平を横穴の入口まで運び込むことに成功したのである。


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