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第十九章 偽りの約束

 とはいっても、一平はすぐに修練所に入れたわけではない。

 三年間行方知れずだった王女が勇者に連れられて戻ってきたという噂はまたたく間にトリトニア中を駆け巡っていた。吉報を聞いていろんな人が王宮にやってくる。

 それら一人一人に国王夫妻は応対し、当のパールや一平も謁見の間に借り出される。初めて国民的な賞を取って、一躍有名になった人とはこんな気分なのかもしれないと思うほど、一平は付き合いに忙殺されていた。 

 そんな中、父を知る人にも何人か会った。人々が語る父の印象はオスカーの目に映った父とほとんど変わらない。一平の父に対する期待が損われる事はなかった。

 ただ残念なのは、独り身だった父は末子だったためもあり、肉親がもうほとんど存命していないことだった。次姉がモノリスで家庭を持っていると言うが、一平にしてみればあまり意味がない。遠縁を頼って訪ねたとしても、何の証拠もないので信じてもらえない可能性は大きい。モノリスに行きたいわけではない彼には何のメリットもない話だった。

 それよりも、人々との接触の端々からここトリトニアの国情を探り、国王一家が国民にどう思われているかを垣間見ることの方が面白かったし必要だった。

 成人の域に達して二年経つ一平は、体つきが大柄なのも手伝って、人々には一人前の大人として扱われた。従って、まだ成人前の少女でしかないパールと違って、当然のように話の輪に加わることになる。しかも、地上から来た、七つの海を越えて来た、と言うことで珍しがられ、訪問者がなかなか一平を放したがらなかった。

 一平を放したがらないのはオスカー夫妻も同じで、一平は毎日のように体験談を所望された。パールがいなくなって以来床に伏しがちだったと聞いていた王妃も、娘の帰還を得てめっきり元気になり、遅くまで一平を手元に留め置くことが極めて頻繁になりつつあった。


 一番一平を独り占めしたいのはパールのはずだが、トリトニアに戻ってそうもいかなくなった。四六時中そばにいたのに、部屋は別々にされるわ侍女は付けられるわで、生活を管理されて思うように一平のそばに行けない。これはパールにとって大きなストレスだった。

 だが、トリトニアに帰ってきた以上、それは仕方がない。制約があるのは王女と生まれたからには外せないものだし、実際三年前まではもっと不自由を強いられていたのだ。以前より楽になっているはずなのに、そう見えないところに、パール自身の心身の変化が表れていた。

 めっきり身体が丈夫になったことは喜ばしかったが、ならば、と今までできなかった手習いや修業を課せられた。特にお行儀だ。

 それまでも決して良かったわけではないが、身体が利かなかった分、パールの奔放さは抑制されていたと言えよう。

 三年の気ままな旅の間にそれは助長されてしまったようで、シルヴィアはこの点に関してだけは、王女としては悪い変化だと頭を悩ませていた。

 そして付けられた世話係兼教育係の侍女は熟練のエキスパートであり、王族に対しても(へつら)わない厳格な女性であった。この女性が、朝も昼も晩もパールに付き従うことになったのだ。


 その晩も遅れた分を取り戻そうとするかのように課題を与えられたパールは、やっと一息つき、用足しのために部屋を出た。戻りしな、パールは嬉しそうに小さな叫び声を上げる。

「あ…」

 一平の姿があった。父母の私室の方からこちらへ向かってくる。

 パールは飛んで行った。

「もう寝るの?一平ちゃん」

「ああ。…今まで喋ってたけど、王妃さまもお疲れのようだしな」

 課題も出ていたが、大人の話だと言われて、パールは彼らの話に混ぜてもらえなかったのだ。

「どうだ?自分の家に戻って⁈落ち着いたか?」

 トリトニアに着いてから五日間が経過していた。言わずもがなの質問だが、一平は聞いてみる。聞きながら、落ち着いたとはどういう意味だと自問する。

 問われたパールは質問の雰囲気だけを重要視する。一平が自分のことを気遣って言ってくれていることが大切なのだと受け止める。

「うん。パールの部屋、前と全然変わらないし、みんな喜んでくれるし、大きくなったって言ってくれるの。だから嬉しい」

 早く大人になりたいパールは、目下成長したと言われるのが一番嬉しいらしい。

「そうか。よかったな…」

 ニコニコ見上げるパールを見下ろして一平は思う。

 確かに出会った頃と比べて、パールは見違えるほど大きくなった。犬首の海に浮かんでいたパールはアザラシの子どものように小さくて、髪もまだうんと短くて…。

(あの日…犬首で泳いでいなかったら…ボクはパールに会えなかったんだろうか⁈)

 突然、そんな疑問が湧いて出た。

(もし、パールに会わなかったら…ボクはあのまま学校に通って、普通の高校生になって…トリトニアのことを知ることもなく…自分に疑問を抱えたままで…⁈)

 この少女のことを知ることもなく、懐かれることもなく、パールを守ることも、甘やかな思いに浸ることもなく、違う人生を歩んでいたのだろうか。

 心の揺れを瞳の色から読み取って、パールが尋ねる。

「どうしたの?」

「いや…」

 本当に、どうしたと言うのだろう。ボクは何かを後悔しているのか?

 一平が出会った頃を思い出しているのがわかったのだろうか。パールは何も言わずに一平の首っ玉に絡み付いた、あの時のように。

(パール…)

「…一平ちゃん、いい匂い…」

(おまえこそ…)

 パールの持つ香りは、一平にとって何物にも替え難い甘美なものだった。どこか懐かしく、香しい匂い。五感の全て、とりわけ今は嗅覚で、一平はパールの存在を感じていた。

 成長したとは言え、ぎゅっと抱きしめたら壊れてしまいそうにか細い身体を、一平は抱きつぶしてしまいたくなっていた。首に回された腕を離し、(かんぼせ)を捉えて口づけたい。パールの全てを自分のものにしてしまえたらどんなにいいだろう。

 けれど、そんなことはできやしない。パールはまだ子どもなのだ。

 しかも、高貴な生まれの、一平とは育った環境も違う…。

 パールが王女だと言うことが一平の身体を支配する。父親である国王の顔と母親である王妃の顔が頭の中を散らついて、一平の行動を抑制する。腕は行き場を失って、ふわふわと漂う。


 一平の様子がいつもと違うことにパールは気づいた。

 疑問に思えばすぐに尋ねる。それがパールだった。

「どうして抱っこしてくれないの?」

 いつも一平はパールが抱きつけば支えてくれた。望めばおいでと言って、膝に乗せてくれた。でも今日はそれがない。

 おまえを抱きたいのを我慢してるんだとはまさか言えない。

 苦し紛れに彼は言う。

「…もうすぐ十三になるんだろう?いつまでもそんな甘えん坊でいいのか?」本当はいつまででも甘えられたい。「それに…もうボクなんかに抱っこしてもらわなくても、素敵なママがいるじゃないか」

 シルヴィアがパールのことを抱き締めるのを見るのは不快ではないが、できるなら自分の方に来て欲しい。

 思っているのと逆のことを口にしてしまう自分を、一平はほとほとばかだと呆れ返った。

「もう…一平ちゃんに抱っこしちゃだめなの?どうして?トリトニアに帰ってきたから⁈」

 パールはみるみる顔を曇らせる。

「そんなのやだ。そんなこと言われてないよ。だったらパールおうちに帰れなくてもよかった」

「そんなこと言っちゃいけない。パパもママもどんなにパールのことを心配して待っていたと思う?他人(ひと)の気持ちをないがしろにするようなことを言うんじゃない」

 一平の言うのは道理だ。彼の言っていることは正しい。でも、パールはそんなことは聞きたくない。帰ってきたことで一平に抱っこしてもらえなくなるなら、帰還の喜びは半分以下に減少する。

「やだ‼︎」

 パールは既に涙目だ。

 泣きながらパールは葛藤する。早く大人になりたい。でも大人になるということは甘えん坊を卒業しなければならないのだ。そういうことを一平は言っているのだと理屈ではわかっている。けれど、一平に抱っこしてもらえなくなるのも嫌だった。寂しかった。昨日だって一昨日だってその前だって、寂しいのを我慢して一人で寝ていたのに…。

「泣いたってだめだ。トリトニアに戻ったからにはここの風習に従わなきゃ」


 あと一ヵ月ほどでパールは十三歳になる。

 女子の十三歳は大変態の年。幼魚の尻尾から成人の証の足へと変化する年だ。誕生日の前後一年ほどの間にその時はやってくる。その時に備え、身も心も準備をする時期にパールは足を踏み入れているのだ。さらりとではあったが、そういう話を一平は国王夫妻から聞かされていた。どういう準備が必要なのかは知らないが、赤ちゃんのように甘ったれているのが好ましいはずはない。

 そう考えるのは保護者の役割だ。もう一平はパールの保護者ではない。

 けれど三年の間に染みついた保護者としての認識は、そう簡単に彼をただの男には変えなかった。本当の気持ちを押し隠し、建前ばかりを口にする自分自身を、一平はどうすることもできなかった。

「だって…」

 パールにしてもわかってはいるのだ。そうしなければいけない事は。でも気持ちはそうではない。一平に抱っこしてもらいたい。一平にくっついていたい。甘えたい。一平が好きだから。だからずっと一平のそばにいるんだ。そう決めていたから却って辛い。

 パールの涙を見て、一平は気が挫けそうになる。抱き寄せて、頭を撫でてやりたい。けれど、そんなことをしてはいけないのだ。

 彼は、心を鬼にして言う。

「泣き虫も卒業しないと大人になれないぞ。お嫁さんになって、赤ちゃんたくさん産むんだろう?」

 パールが時折口にする将来の希望だ。他ならぬ一平の赤ちゃんをいっぱい産みたいのだとパールが思っている事は、彼は知らない。

 パールは思い直した。

(そうだ。一平ちゃんのお嫁さんになるんだ。だから泣いちゃだめ。甘えん坊もなし。抱っこも我慢する)

 だけど、寂しかった。

 だから言った。

「じゃあ…じゃあ…ちゃんと大人になったら、また抱っこしてくれる?それまでだあれも抱っこしないでいてくれる?」

 大人になったら抱っこしてとは矛盾した言い方だが、パールは真剣だった。抱くことの別の意味には思い及ばない。

 いいよ、と一平は言った。

 気休めかもしれないが、それでパールの気持ちが前向きになるのなら、敢えて嘘つきと罵られることになってもよしとしよう。きっとその頃には、いくらパールでもそんな気は失せてしまうだろうから。本当の意味で抱いて欲しいと思ってくれれば、これ以上の喜びはない。

「ありがと、一平ちゃん。パールももう寝るね」

 健気な笑顔を浮かべてパールはおやすみを言った。

 部屋に入るまで何度も振り返るパールを、飛び出して行って引き戻したくなるのを、一平は懸命に抑えていた。


 それより、二日の後。

 今日も二人は謁見の間に呼び出されていた。

 謁見の間には、それほど高くはないが玉座があり、国王夫妻が腰を掛けている。一般的な王宮の光景がトリトニアでも繰り広げられていた。

 その傍らに、やや小さめの腰掛けがある。国王の家族や重臣などのお偉方が座るためのものだ。

 パールはともかくとして、一平は自分がそこに座っていることにかなりの違和感を覚えていた。自分はただの訪問者。客人や恩人の扱いを受けてはいるが、王続でも家臣でもない。だが人々は一平のことを特別な目で見上げる。

 好奇の目と崇拝の目。野次馬根性と英雄視。その二つがないまぜになった視線だ。

 隣にちんまりとして座しているパールは、同じように多くの視線を浴びながらも全く動じていないように見える。さすがは王族の生まれ、元々そういう素質を持って生まれてくるのか、幼い頃からの慣れのせいか。とにかく、おどおどしたところがないのは立派だった。

 受け答えまで普段のパールと違う。王妃はパールのお行儀の悪さを嘆いていたが、一平にはそれほどとは思えない。普段どんなに無作法でも、人前でこれだけ堂々として、きちんとした物言いができれば充分だ。それほどに、今のパールは気品を漂わせていた。

 自分のことを「パールね」などとは言わないし、言葉遣いも全然子どもっぽくない。完全にですます調の丁寧語遣いだ。話が難しくて加われない時は口を閉ざして静かに微笑んでいる。そのくせ、一平に耳打ちする時にはいつもの調子に戻るのだ。

 この表向きの顔が一朝一夕に身に付いたものとは思えない。明らかにトリトニアを離れる前から備わっていたのだ。パールは身体の芯から王族なのだ、と一平はつくづく感じ入っていた。


 その日最後の訪問者が謁見の間に入ってきた。

 時刻はもう夕餉の時刻に迫る頃合いになっている。

 訪問者は一人の若い男性だった。

「パール‼︎」

 叫んで駆け寄ってきた男はいきなりパールに抱きついた。

 ひょろっと痩せているので実際より背が高く見える。頬骨が出て口が大きいが、鼻筋は通っていて目も切れ長であり見目がよい。七三に分けた直毛の髪が肩の辺りで揺らめくのがあだっぽかった。年頃は一平と同じくらい。少し下かもしれない。

 男の突然の行動に驚いたのはパールばかりではない。いきなり愛娘を抱きすくめられてオスカーは苦虫を噛み潰したような顔をしているし、シルヴィアは眉を顰めている。一平に至っては、驚きの余り声も出ない。

 抱きすくめられた当のパールにしても、仰天して目をぱちくりさせるしかできない。華奢でひ弱な少女さすは身動きがらないほど、男の力は強かったのだ。

 戸惑う人々を尻目に、気が済んだらしく、男は乱暴にパールを放した。

 とは言っても、まだ両手はしっかりとパールの肩口を掴んでいる。

「…だあれ⁈」

 円らな瞳が誰何する。

 男は目を丸くした

「…いやだなあ…。忘れちゃったの?シェリトリだよ。お嫁さんにしてやるって、約束したじないか」

 いきなり頭をぶん殴られた―わけではないが、そんな気がした。一平は、男の言葉を耳にするなり、硬直して顔色を失った。

(お嫁さん?…お嫁さんだって。⁈パールが?…こいつの⁈…)

 いつかのパールの言葉が蘇る。

 夢の中で誰のお嫁さんになったのか尋ねた一平に、バールは内緒だと言って『パールの一番好きな人』だと付け加えた。意気地のない一平にはそれ以上踏み込んで尋ねることができなかった。

 その『パールの一番好きな人』がこの男なのか?

 確かに親しそうだ。馴れ馴れし過ぎるくらいだ。

 その男に向かい、パールは言う。

「そんなこと、知らないよ。シェリトリって…あの、シェリトリ⁈パールが病気の時お見舞いいっぱいくれたしシェリトリ?」

「わかってるんじゃないか。人が悪いなぁ、パールも…。そうさ。僕があげたプレゼント、まだちゃんと持ってるかい?」

「…わかんない。パールずっとトリトニアにいなかったから。でも、多分あると思うよ。あの時はありがとう」

 取り繕うことなど思いも及ばないパールである。付け加えられた感謝の言葉にはとってつけた様子はなく、心底懐かしく思い出して、素直な気持ちで言っているのが感じられる。

「相変わらず素直だな。…でも、大きくなった。…きれいになったよ」

 パールは破顔した。きれいだなどと言われたのは生まれて初めてだ。

「ホント?シェリトリ⁈パール、大きくなった?ホントに、きれい?」

 パールは再確認のため、シェリトリに詰め寄った。

「本当さあ。いつお嫁さんになってもおかしくないよ」

「こらこら。あまりおだてられては困る。パールはまだ十三にもならぬ。求婚は遠慮してもらおうか」

 見兼ねたオスカーが遮った。信じやすいパールがそんなことを鵜呑みにしてしまっては収拾がつかない。人妻となれる資格はまだまだこの娘にはないと、オスカーは断じていた。

「はい。…陛下」

 しぶしぶシェリトリは引き下がった。

「でも。もうパールは十三におなりのはずでは?今月は群青の月です」

「お忘れかな?パールの誕生日は藍の月だ。今しばらく猶予がある」

「あ…」

「…誰かの誕生日と勘違いされているようだな」

 オスカーの言葉には棘があった。何かの皮肉だろうかと一平は頭を捻る。

「…そ…そんな事は…。ともかく…今日は、お目にかかれて光栄でした。時間も時間ですのでまたいずれ…お誘いに上がりますゆえ…」

 急にしどろもどろになって、シェリトは慌てて立ち去って行った。


「全く…。あの軽薄さがなければ、悪くない男なのだな」

 オスカーが吐き捨てた。

「陛下…」

 傍らでシルヴィアが嗜め口調で言った。

「よいではないか、家族だけだ」

 この場に部外者の一平がいることを失念しているのか、あるいは承知の上で言っているのか、オスカーは態度を改めない。

「誕生日が群青の月だ、などと誰のことを言っているのだ、全く…。大方、ごまんといるガールフレンドの一人なのだろうが、こともあろうにパールティアと間違えるとは…」

 結構本気でオスカーは怒っているようだった。一平は自分が憤慨するのも忘れて、そんなところを自分などに見せていいのかな、などと思っていた。

「ねえ、ママ…」バールが遠慮がちに言った「パール、そんな約束した?シェリトリとそんなに仲良しだった?」

 パールにその記憶はなかった。何しろ病気ばかりで閉じ込められていて、ろくに友達もいなかったのだから無理もない。

「安心なさい。パールがシェリトリと会った時には、私がいつも一緒でした。ああいう希望を彼が口にした事は事実ですが、あなたが承知した事はありません。あれはシェリトリの一方的な思い込みです」

「ああ、よかった。パールどうしようかと思った」

 実にほっとした、という表情で、パールはため息を吐いた。

「心配せずともこの父がついている。おまえの婿は然るべき男を見定めてやるさ。第一まだ十年早い」

「十年⁈」

 オスカーの言うのは慣用句だが、まともに受け取ったパールはたまらない。これでもお年頃なのだ。そんなになるまで結婚させてもらえないのかと泣きそうな顔になった。

 そんなパールを宥める役は、ここではシルヴィアであるらしい。

「ホホホ…。陛下はパールが可愛いのですよ。手放したくないからあんなことを言うのです。私はシェリトリに張り合うつもりはありませんが、パールは本当に可愛いですよ。綺麗と言う言い方には少々語弊があるけれど、あなたのような娘を好まれるの殿方は決して少なくないはずです。…ねえ、一平どの⁈」

「え⁈…あ…え…え…」

 突然同意を求められて一平の心臓は倍に膨らんだ。

 優しげで淑やかな微笑みだが、シルヴィアの瞳は意味ありげだ。

 パールも期待の眼差しで一平を見上げる。

 そうして見ると、この母娘はよく似ていた。髪の色はもちろん一目瞭然だが、目鼻立ちが恐ろしいほどそっくりで、容易にパールの将来を想像することができる。

 こういう人を、綺麗とか美しいとか言い表すのに違いないと、一平はシルヴィアを見て思った。パールのことは綺麗と言うには当たらない。どれほど一平がパールにぞっこんでも、子どもそのもののパールはやはり『かわいい』という表現がぴったりだった。

「パールは…かわいいよ。きっと、トリトニアの中でも一番だ」

 本心から一平はそう思った。パールを喜ばそうと思って吐いた嘘ではなく、真実の思いが滲み出ているのを、シルヴィアは敏感に感じ取っていた。

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