7撃目 「ワンサイドゲーム」
「さ、さあ。あなたの罪はおいくら万円かしら?」
動揺のあまり、この場にそぐわない無難な口上を述べてしまった。
いい声の『brave your struggle!』で構えを取る。
カレイタはふらふらとしている。これが彼女の立ちモーションだ。可愛い。先ほどのギャップを見なかったことにすれば。
『beginning!』
「ふにぃ〜!」
(開幕ぶっぱ!?)
ショック戦と同じ展開だ——彼女はあえてそうしているのだろう。顔は笑っているのに、目は笑っていない。
私は後方に下がり、ガードを発動しようとする。
しかし、ぶつかるタイミングでなぜか拳を突き出した。え?
「ふにぃ〜」
「ぐはぁッ!?」
もちろんガードは発動せず、私は壁に叩きつけられた。このゲーム、背景の奥行きに対して画面がめちゃくちゃ狭い。「もしかして正方形か?」と疑うレベルだ。
ダウンする私に、カレイタがダッシュで詰め寄る。起き上がろうとすると、すでに溜め攻撃のモーションに入っていた。
(これは、中段技!)
私は立ったまま再びガードをしようとした。
技が当たる瞬間に、なぜかしゃがんだ。ええ?
「むにゃあ〜」
「うぎぁッ!?」
これが入ると、後の祭り。クソ痛コンボの始まりである。
「ぅゅゅゅゅゅゅ!」
「ぶびびびびび」
コンボ内容は省略する。
結論から言えば、6割持っていかれます。
ようやく地上に降り立ったとしても、彼女は目の前にいる。
この状態、相手は何をしてくるか——そう、『投げ技』である。
立ち上がりの際に重ねられた攻撃はガードによって防ぐことができる。
それを防ぐのが投げ技、ガードができない技である。
これを回避する方法は主に三つ。
無敵になる必殺技を打つか、すぐにジャンプをするか、こちらも投げをするか、になる。いわゆる『択』と呼ばれるものだ。
(これは、投げ!)
カレイタはパワータイプだが、投げ技が発生するまでが比較的速い。彼女が近付いてきた場合には、投げをしてくることが多い。このゲームを愛する者として当然の判断だ。
立ち上がった瞬間、私は投げ技を発動させる。
彼女も投げ技を発動した——よし、これで防げる!
「かれーたちゃん投げ〜」
「イギャアアアァァァ」
投げられたんだが?
私の投げ技は発動しなかった。指すら動いていなかった。
『one sided!』
ええ声が降ってくる。
ノーダメージのパーフェクトゲームのアナウンスだった。
「ちょっと、何してんのよ」
画面の暗転時にカレイタが手を伸ばして起こしてくれた。
「わたくしにもさっぱり……」
「まるでズブの素人じゃあないの。こんなんでこの世界でやっていけると思ってんの?」
「無理です……」
「やべ、始まるッ。ほら、セットしろ!」
「ひえェ〜」
勝負にもならない勝負が、再び始まる。