6撃目 「カレイタちゃん」
「あんたが新しいキャラ?」
件の人物はすぐに見つかった。
やはり私の予想通り、『カレイタ』その人だった。
「は、はあ……そうですわ」
「なに、その口調? 表と同じとか、キモいんですけど」
しかし予想は遥かに下の下。
下段技をしゃがんでもガードできないレベルだった。
「あ、なたは……『カレイタ』ですわよ、ね?」
「当たり前じゃん。それぐらい知ってて当然でしょ」
カレイタは煙草を深く吸った。いやいや、ギャップがえぐいのです。
私は正面で固まっていた。目の前の紅茶が美味しそうな泥水に見えた。
「で、あんたを呼び出した理由」
「え?」
「訊いてんの。答えなさい」
ここはカフェのステージですか?
突然『brave your struggle!』と掛け声がかかりそうだ。
私は必死に考えるために、カレイタの身なりを眺めた。
ピンク色の長髪にクマのピン留め、フリフリのゴスロリ服、先ほどから私の脚を蹴ってくる小学生の運動靴——ダメです何もわかりません。
「知らない、ですわ」
「ですわって何よ」
「ひぃぃごめんなさい」
「よく聞くことね。新キャラが来たって噂、もう広まっているのよ」
「新キャラ?」
「そしたら一部が盛り上がってさ。あんたを探しに来てるの」
「一部って」
「血の気が多い連中とかじゃないの。『イザオ』とか『メレンゲ』とか」
「ええ……」
ふたりともそんなキャラではない。前者は博士キャラ、後者は霊媒師。
カレイタはやれやれ、と言わんばかりに首を振った。
「だから、かれーたちゃんがご指導ご鞭撻をしに来たってワケ」
「ちゃん呼び、原作通りですね」
「蹴るぞ」
イタタ、もうすでに蹴っているのです。
「ご、ご指導というのは……」
「ショックとの一戦、見たわよ。なにあれ、心と身体が分離してるの?」
「してません……」
「あいつのショックウェーブ(飛び道具)はガードしたら不利なのよ。削られて終わり。牽制技はちゃんと飛んで回避しなさい」
格ゲーの基本として『牽制技』がある。飛び道具という遠距離攻撃で相手の行動を制限する技である。もちろん私もそんなことは知っている。
「わかり、ました」
しかし言い返したら蹴りが来るので言わない。私は偉いのだ。
「それと、あんたのタイプって何さ」
「タイプ?」
「パワー、スピード、コンボ、ミッドレンジ、アウトレンジ、コントロール、投げ、当て身、設置、弾幕……いろいろあるでしょう。どれよ」
「さ、さあ……」
自分のタイプが、私はまるでわからなかった。
ショック戦もろくに攻撃せずに終わったし、確かめる時間などなかった。
「ちなみにあたしは」
「パワー、ですよね」
「……なんで知ってんのよ、気持ちの悪い」
カレイタとの距離感が全く掴めなかった。間合いってやっぱり難しい。
彼女は煙草を握り潰して火を消した。パワータイプ、というレベルではない。
「じゃ、そういうことで、さっそく闘ろう」
「闘?」
「ちょうどいい『客』も来たみたいだし」
「あの、どこで?」
カレイタは立ち上がって伸びをすると、指を鳴らした。
途端に周囲が暗転した。座っていたはずのソファがなくなり、私は腰から落ちた。明るくなると、中央に広場ができていた。テーブルはどこかに消えていた。
「さあ、立ちなさい。表舞台の始まりよ」
「え、え、ええ?」
「はゅぅん! おなかがへったぞう……かれーたちゃん、はらへりだぞ〜!」
「ええ……」
人は有事の際には、どこまでも残酷になれる——そういうものらしい。