13撃目 「共闘」
「は、いやなんだけど」
宿場前のカフェで、脚を蹴られた。
私はテーブルに額を擦り付けた。私は犬です。
「そこをなんとか、お願いします、師匠!」
「むり。面倒だし、あんたが勝手にやってなさいよ」
「どうして、こんなに頼んでるじゃあありませんか!」
「頼まれてやったら、この世に無敵技なんていらねーんだよ」
なんだがわけのわからないことを言われたが、カレイタは嫌らしい。
設定ではグリセリとは仲が良く、彼女からお菓子をもらって喜んでいるシーンがあるのだが……。
「お菓子、食べられますよ?」
私のこの一言が、彼女の逆鱗に触れた。
「それが嫌なんだろうが!!!」
「え、嫌なんですか!?」
「たりめーだろ、餌付けされて喜ぶのは犬だけなんだよアホ!!!」
これほどまでに怒る彼女を見たことがない。
表ではあれほど嬉しそうだったのに……真実はいつだって複雑であるらしい。
「じゃあ、わたくしのパートナーはどうするんですか!」
「知るか。あんたが勝手に言い出したんだから、自分のケツは自分で拭け」
「犬はお尻を拭きません」
「じゃあ垂れ流しにしろ」
「だからこうして師匠のところに……」
「その師匠っていうの、やめろ! 恥ずかしーだろ……」
ホールケーキを丸ごと噛みつくカレイタ。
正直、私は彼女と一緒に共闘してみたかった。
相方の動きは落ち着いて分析できるし、私の気になったところを指摘するには間近にいてくれた方がありがたい。そう思っての抜擢だった。
「……それじゃあ、ショックか、シスイかに頼みます」
「そうしろそうしろ」
「師匠、ほんとうに嫌なんですか?」
「……ああ、嫌だよ」
「わたくしがどうしても師匠と組みたい、と言っても?」
「…………」
カレイタは頑なに首を縦に振らなかった。
これ以上は迷惑だろう、私は席を立ち上がった。
「すいません、無理を言ってしまって。お話、聞いてくださってありがとうございました。これからくるケーキ、食べてください。お金、置いておきます」
「……待てよ」
カレイタは食べていたケーキを置いた。
「これじゃああたしが悪者みたいじゃあないか」
「そんなこと、ないですよ」
「押し付けてくるなら、情ではなく、有利フレーム技だ」
言いたいことはなんとなくわかるが、よくわからない。
「そもそも、格ゲーで共闘だ? 敵と組んで何かメリットはあるのか? あんたは味方でもない、敵だ。そして、あんたから見て、あたしも敵だ。だから、師匠と言われるのが嫌なんだよ。情を湧かせるな。あんたは敵なんだよ」
「…………」
私は黙るしかなかった。
表とギャップが大きいくせに、考えていることは、純粋に闘う者の思考そのものだ。
正直、カレイタを見る目が変わった。
こんなこと言えば、また脛を蹴られるだろうが。
「それでも、あんたはあたしを頼った」
角砂糖を紅茶に入れるカレイタ。原作通りの設定。
「敵だが、味方でもある——そんな関係も、悪くない」
「ししょ……か、カレイタさん!」
「いいぜ。だが、一緒に闘うのはあたしじゃあない。別の奴を用意する」
「いいんですか!?」
「ここまで言わせてしまったんだ。あたしだって、自分のケツを自分で拭くだけだ」
私は喜びのあまり、彼女に抱きつこうとしてしまった。
もちろん、フックを喰らった。
近距離パワータイプの太刀筋に入るのは、やめましょう。
「それと……名前呼びはキモいから、前のやつで、その、呼べ」
「はい……わかりました、師匠」
砕けてそうなあごをさすりながら、それでも私は喜びを噛み締めた。