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ポンコツ探偵の助手高生  作者: 暗室経路
第一章 闇に潜む者
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闇に潜む者 プロローグ

一章 28,581文字

 職業、年齢、性別不問。

 週二日からOK。

 日当制、一万円。

 意欲とやる気、根気に満ち溢れた探偵の助手を探しています。

 興味のある方は、ご一報を。

 深海(フカミ)亜里沙(アリサ)






 東京都、中央区——ではなく。さいたま、見沼のボロ実家から、自転車を走らせること十分ほど。


 大宮駅から徒歩六分。町中華とオフィス街が立ち並ぶ場所に、その探偵事務所はあった。

 開始時刻に遅れまいと勇んで面接会場となっている探偵事務所に赴けば、如何にもなコンクリート雑居ビルの階段に〝深見探偵事務所 面接会場・待機所〟の立て札が。

 それも求人情報を見たであろう、老若男女がピタゴラ装置のドミノのように並んでいた。 


 ほう……。日当一万円はやっぱり魅力的だよな。それに職業、年齢、性別不問だ。裾野が広いから、それだけ倍率が高くなるのだろう。

 実際、私もそれを見て、のこのこやってきた一人だ。


 上階でガチャリと扉の開く音がした。列が一段空く。どうやら時間を確認するまでもなく、面接がスタートしたらしい。

 私はそのまま最後尾。ピタゴラのラストを飾る大役を仰せ司ったような気分で、自分の番を今か今かと待っていた。


 しかし、それから数分。ふと、〝面接会場・待機所〟とは名ばかりのコンクリート階段上を走る異変に気がついた。


 一足早くドミノから解放された先達の面接受験者達は、探偵事務所から出てくると、軒並み悪態をつきながら帰って行った。中には盛大にタン唾を吐いて、手を摺り合わせながら事務所に向かって呪詛を吐く老人もいたほどだ。


 その様子を見れば、本人に聞かなくとも、散々な面接だったことが伺えた。


「チクショウ、舐めやがって!」


 階段をドカドカと駆け下りてきた、白髭が特徴的な、四十代くらいの素敵なオジサマの言葉だ。唾を吐いて悪態つくほどだから、一体面接で何を言われたのだろう?


「スカしやがって、あのクソ野郎(、、)が」


 白髭のオジサマが私とすれ違い様に、吐き捨てるように言った。


「野郎?」 


 私が疑問を口にすると、気の立った白髭のオジサマに睨まれた。


「何だ嬢ちゃん?」

「いや、あの……求人を見たら名前的に女性かと思ったので!」


 釈明するようにそう口にすると、気の立った白髭のオジサマは腕を組んだ。あっ……長話をする体勢だ。選択を誤ったかもしれない。


「ああ、そういうことか。いや、ヤツは男だぜ。それもガキみたいな(ツラ)なんだ」


 それから、雑居ビルの無機質なコンクリート階段は、オジサマの演説ステージと化した。

 それはさながらフランス料理並(食べたことは無い)のボリュームと、バラエティに富んだ愚痴のオンパレードで、中には関係無い政府に対する税金絡みの恨み節なんかも含まれていた。


「とにかく、嬢ちゃんも辞めといた方がいいぜ。ヤツは人間じゃない。人格破綻者だ」 


 素敵な白髪のオジサマはそう締めくくると、使命は果たした、とでも言いたげな満足そうな表情で階段を降りていった。

 それを目で追いながら、私は——


「へえ……人格破綻者、ね」

 

 素敵なオジサマにそこまで言わしめるとは、一体どんな面接だったのだろう?

 逆に興味が沸いてきた。


 そんなことを考えている間に、面接を受けに来ていた一部の人たちがそそくさと帰り始めた。

 どうやら軒並み悪態をつく受験者たちを見て、面接内容に恐れをなしたらしい。根性の無いことだ。


 面接マスターの私からすれば、一体何を言われるのだろうか、と好奇心さえ沸いてしまう。

 私は去っていく受験者たちを尻目に、崩壊したドミノを立て直すべく、やれやれ、と階段を登った。


 ——それから数十分。最後の面接者である素敵なオバサマが悪態と共に「カーッ、ペッ!」とタンを吐いて去り、ようやく私の番がやってきた。 


「失礼します」


 地面に吐かれたタン唾を避けつつ、探偵事務所に足を踏み入れる。内装はやっぱり、〝如何にも〟な感じだった。

 ブラインドが下がって薄暗い室内。石材の硬い床、名も知れぬデカイ観葉植物に大きい二組の事務デスク。そして——相談を受け負う場所であろう草臥れたダークブラウンの対面ソファ。


 そこに、(くだん)の探偵とやらは座っていた。

 なるほど、やっぱり男の人だ。それに——結構、イケメンじゃないか。少し童顔だが、整った面持ちをしていた。座っているが、座高からしてかなりの高身長であることが伺える。


「どうぞ、そこに座っ——」


 探偵は私の顔を見るなり、少し固まっていた。そして——。


「なんだ、女の子だったのか」

「え?」

「男みたいな名前だからな」


 何を言う。ソレはこっちの台詞だ。アンタだって亜里砂(アリサ)とかいう女みたいな名前じゃないか。

 因みに私の名は真淵(マブチ)(マコト)。まあ、探偵の言う通り、男みたいな名前の女子高生だ。



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