8話:一難去ってまた一難
茶色い魚を倒し、レベルが上がり、魔法も得られた。
そう魔法だ!誰もが夢見るファンタジーな能力こそが魔法!先ずは恒例のステータスの確認からいこうか。
因みに分裂体は全部吸収しているから能力値は元に戻っているぞ。
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名前 :
種族 :チャヴィフィッシュ (ラウセピトス)
レベル:4/60
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攻撃:D
防御:D
魔攻:B
魔防:C
俊敏:D
運 :E
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『固有スキル』
【分裂】【合成】【貯蓄】【魔力感知】
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『通常スキル』
【脱皮】【統率】【魔側線】【悪食】【自切】【加速】【土魔法】
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『秘匿スキル』
【海老】【 】
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『称号』
【イレギュラー】
【$1$3B5!1"A#1#2】
【魔の混然】
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……あんまりレベル上がってないな?
あれ?この間までガンガンレベル上がってたのにあれ倒してこのレベル?あの魚を倒す前にもレベル上げしてたのに……もしかして今の俺の種族ってかなりレベル上げするの大変なのか?
レベルがあまり上っていないためかステータスの能力値にも変化は見られない。
ただスキルは増えていた。そう【土魔法】のことだ。
【土魔法】
基礎属性に分類される魔法。
……え?それだけですか?もっと呪文が表示されたりはしないの?
不親切じゃない?別に念じても頭の中に言葉が浮かび上がったりはしないんだけど。もしかしてヒントなして地球人に魔法を使えって言ってるのか?そんなの無理に決まってんだろ!
あまりにも短いテキスト文に理不尽を感じながらもどう使うか試行錯誤する。
魔法ということは魔力が必要ということだろ?俺には魔力が感知できるから、取り敢えず自分の魔力を確認する。すると以前とは違う感覚を覚えた。
おぉ?以前はこんなにはっきりとは感じれなかったな。魔力感知も段々と練度が上がってきたのか?
スキルにレベルって概念はなさそうだが、熟練度みたいなものは現実同様にあるのかもな。
いや、前の魔力がクソ雑魚すぎて感知できなかった可能性もなくはないな。…寧ろそっちかもしれない。
土魔法を発動してみる。
すると俺の魔力が地面へと流れていくのがわかる。
なるほど…流れていった魔力はどうなるんだ?………消えたな。あれ?魔法はどこ?…ここ?
どうやら魔法は俺が思っているよりも難しいようだ。
何度か試してようやくコツが掴めた。
流した魔力は元々土に含まれる魔力と同化して意識しないと消えてしまう。なので自分の支配下に魔力を置いておかないといけない。だが、これが滅茶苦茶に難しい。
そしてそれを動かす事も神経を磨り減らす。身体の魔力を動かすのとは訳が違うんだよな。無理やり動かそうとすると魔力が同化して消えるし、じっくりやっても同じことになる。
~数時間後~
俺の心は死にかけていた。
やべぇ……魔法使えて俺最強みたいな展開を予想してたけど無理だ。俺、最強になれなさそうだ。
え、これって、もしかして魔法の才能が無い的な?皆無的なサムシングですかね?だったら萎えるんだよな。せっかく手に入れたんだから使ってみたい。
あの魚はどうやって魔法を使えてたんだよ。魚が魔法を使っていた時を思い出す。
思い出せ、あの時の激闘を!
……駄目だ。俺、あいつの攻撃する瞬間とか全力で逃げてたから見てねぇわ。はぁ…ヒントないの?
あ、そうだよ。【海老】であの魚になればいいんだ。そうすれば使えるかもしれないし。
さっそく、スキルを使用し姿を変える。すると視線が以前よりも高くなった。
あの魚……ゴビオイって言うのか。
早速だが魔法を試してみる。すると不思議なことが目の前で起こる。
地面に魔力をすんなりと流し込むことができた。それに驚くと地面が一部だけ突起したのだ。
あんなに苦労していたのが何だったのかと思うぐらいに簡単に地面の魔力が操作できた。
……えぇ。やっぱり才能がなかったということか?
それともゲームみたいに適した魔力ってのがあるのかもしれない。
とにかく、これでイモリを倒せる算段がついたな。
俺はそのままゆっくりと泳ぎ、前にイモリと出会った場所へと向かう。
すると奴らはいた。前回は一匹だったが今回は三匹いる。
……一匹になるまで待つか?
いや、相手が待ってくれるわけもないし、モタモタしてたらどこかに行ってしまうかもしれない。
あまり陸地に近いと満足に泳げないので少し遠目から攻撃を開始する。
地面に魔力を流し込み、イモリを貫くイメージで鋭く地面を突き立てる。すると一匹のお腹を突き刺すことに成功した。だが、残りの二匹への攻撃は外し、二匹は俺に顔を向ける。
…やっべ、外しちゃった。逃げるにしてもこいつ、遅いんだよな。だったら応戦した方がいいか。
覚悟を決めて、地面に魔力を流して一部の地面を水中に球状に浮かす。
技名とかあったほうがきっと良いんだろうけど……ちょっと恥ずかしいから今は無しで。
俺は土の球を無数に向かってくるイモリに向けて発射する。数撃ちゃ当たるとはよく言ったもんだよな。
一匹に命中し、イモリの頭が消し飛んだ。これで威力は十分に高いことが証明されたな。
最後の一匹にも命中するが、致命傷にはならなかったようだ。だが、動けないようなので、俺はゆっくりと残った個体に近づく。
その頃、その様子を見ていた神がいた。
映画館のような場所で、大きな画面に映っている茶色い魚とイモリのような生き物を見ながら神はつまらなさそうな顔をする。
「もう始まりの場所から抜け出しちゃうのかい?足りないよね?ワクワクもドキドキも足りないよね?面白くない、こんな展開はつまらないよ。僕はそれじゃあ満足できない。僕は待ったんだ、君が来るのを待っていたんだ。だから、もう少しだけ楽しませてくれないかな?」
神は無邪気な子供のように目を輝かせる。
足をバタつかせ、指先を画面に映るイモリのような生き物へと向ける。
「昇華せよ、汝は神の導きを知る。僕からのハプニングの贈り物だよ。たっぷりと僕を楽しませてね?」
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「ギュア!?……ギュ、ギュ!ギュアァァアア!」
イモリに近づくと突然大きな声を出し始める。
嫌な予感がするため、俺は直ぐにイモリから距離を取る。イモリは鳴き終わると力なくその場に倒れた。
な、なんだ?いきなり鳴き始めたんだけど……こういう時ゲームだと強い敵が出てきたりするんだよな。
周りを見渡すが、何かがやってくる気配はしない。何も来ていないことを確認し、安心したその時だった。倒れていたイモリが小さく鳴くないた。
「………ギュァ」
ゆっくりとイモリは倒れていた身体を起き上がらさせ、その目は俺を鋭く捉えていた。
先程までの様子とは少し違う雰囲気に俺は、そのイモリから少しずつ距離を取る。だが、イモリは逆に距離を離さいないように前へと進んでくる。
逃げるか?……いや、逃げたら合成することができないな。
串刺しにしたイモリをチラッと見るがお腹を貫かれているというのにまだ元気いっぱいにもがいていた。
あのままだと逃げられるのも時間の問題だろう。
俺のスキル【合成】は、相手が死んでいたら意味がないというデメリットがある。衰弱、瀕死である状態であれば問題ないのだが、息絶えるとスキルが発動しない。
…つまるところ、目の前のこいつをどうにかしないと俺の脱出計画が水の泡になるということだな。
そいつは勘弁してくれよ?さっさと俺はここから出て異世界を堪能するんだよ。
俺は思考を切り替えて、目の前の変異体イモリを倒すことにする。
あまり魔法は上手くないんだけど、対抗手段がそれぐらいしかなさそうだし、しょうがないよな?
手始めに魔力を操作し、イモリの足元から土を棘のように隆起させる。
先程までなら当たってくれたのだが、俺の攻撃は何もない場所を突き刺しているだけだった。そして、舞い上がる土煙でイモリを見失う。
ど、どこに行った?…やべぇ、何も見え、うがッ!?
腹部に強烈な痛みが走る。
視線を攻撃が来た方向に向けるが何もいない。俺は全速力で土煙の外に出る。するとかなり素早い動きでイモリが俺の方向に泳いで来ているのが見えた。
まじかよ!?ていうか今の体当たりか?…クソ痛いんだけど。どんだけの速度でぶつかって来たんだよ。
というか、あれだけ動きが早いと俺の攻撃だとかすりもしないな。
俺は追いつかれないように泳ぎながら考える。
後ろを見るがしっかりと俺の後を追いかけて来ているのが見える。速度は俺の全速力よりも少し遅い程度のようで追いつかれることはない。だが……結構疲れる。
俺はヒレを大きく動かして、角度を変えて真下へと向きを変えてみる。
イモリを見るが、イモリは俺の後を追いかけて来ず、ゆっくりと旋回してまた俺の方に向かって来ていた。どうやら、急には方向を変えることはできないようだな。
『油断していると死んじゃうよ?』
声が聞こえた気がした。あの憎たらしい自分自身を神だと自称するあいつの声がした気がした。
この時、俺は油断していた。
イモリと俺との距離はかなりあった。それに、イモリの攻撃手段が体当たりしか無いのだと勝手に思い込んでいたからだ。
俺が天を見上げた瞬間だった。遠くの方で旋回していたイモリが急に俺の目の前に現れ、腕から生えた奇妙な鎌のような鋭いもので俺の身体を切り裂く。
…やばっ!
「ギュウア?ギャッギャッギュ」
突然のことでイモリから距離を瞬時に取る。イモリは笑うように鳴き出した。
俺はイモリの身体に先程までなかった青い線がいくつも亀裂のように走っていることに気づく。
な、なんだあれ?急に俺の前に現れたよな?
瞬間移動か?…はは、序盤にそんな破茶滅茶なぶっ壊れ能力持った敵なんていねぇだろ。
あの攻撃手段も謎だ。今見れば、攻撃時に見た鎌のようなものは無くなっているし…あれはスキルだな。
どういうスキルなのかは知らないが、切れ味は良さそうだな。鱗で守られているからなのか、傷は浅い。
やべぇな。俺、あれ倒せるのか?