5話:まだ俺は変身を残している!
さて、考え始めてはみてみたものの…答えが出ない。
【海老】のスキルだが…これは便利なスキルだった。魚に姿を変えるということはその身体の持つ器官などもそっくりそのまま再現するということだ。俺がこのまま外に出たら間違いなく死ぬだろう。
つまり今の俺はエラ呼吸である。魚がずっと地上にいられないように、今の俺も無理だと考えるのが妥当か。
可能性があるとすれば両生類の生き物を見つけるということなのだが…なぜだか俺の周りのエリアは生命体がいない。分裂体を送った場所にいけば生き物はいると思うんだが…移動するのはリスクがあるんだよな。
今の俺には自衛能力が皆無である。攻撃する力も無い、守る力も無い、逃げる力も無いという三つの無いが揃ったクソ雑魚なのだ。なので敵に出会ってしまえば終わりである。
何か一つでもあれば変わるんだけど……今考えられるのは魔法だろうか?
俺の種族は魔力に関する能力値が高い。つまり、何かしらの魔法を覚えることもできるのではないかと考えられるのだが…不安ではある。何しろ地球にはなかったマジックパワーだ。予期せぬ出来事が起きるかも知れない、それに対処できるかも怪しい。
魔法ねぇ…アニメや漫画のようなわかりやすい魔法でも使えたら良いんだけどな。
やっぱり、現状を打破するには動くしかないか。先ずは分裂体で安全を確保してからだな。
分裂を開始すると俺から小さな粒子のようなものが溢れ出し、目の前に一匹の小魚が現れる。なるほど、分裂は今の姿をそのままコピーしてくれるようだ。ということは、分裂体の索敵範囲や速度も上がるということでは?
俺は分裂体を俺が見ている方向に真っ直ぐに進ませてみる。
すると今まで感じていた分裂体が俺から離れる感覚が明らかに早くなっていることに気がつく。
やっぱり、魚に姿を変えたことによって速度が上がっているんだな。
そして、ある程度離れたところで分裂体が消えた。恐らく、俺が見ている方向の先に敵がいるのだろう。
今度は逆方向に分裂体を作って進ませてみる。同じ距離を進ませても分裂体は生き残っているようなので安全であることがわかった。
よし、こっちに進もう。
分裂体が帰ってくるのを待ち、合成を終えてから進む。因みに合成をしても何も得るものはなかったぞ。
俺は白い大木に心のなかで礼を言う。今まで俺のことを守ってくれた居場所だ。コイツがいなければ俺は何かに食われていたかもしれないしな。感謝は大切なことだって母さんも言ってたな。
そういえば、俺が転生してからどれくらい月日が経っているんだろうな。母さんと父さん、妹も心配だ。
地球にいる家族のことを思い出しながら泳いで進む。
すると白い砂に段々と茶色い土が交じり始める。そして、緑色の植物が繁茂しているのがわかった。
見た目は…普通の水草だ。ひらひらと薄い葉っぱのようなものが水中で動いているだけで、何もおかしな所はなさげだ。強いて言うなら背丈が大きいぐらいだろうか。
岩陰に隠れながら周囲の観察をする。
すると自分と同じか、それよりも小さな小魚がいるのがわかる。
あの小魚…俺と同じような姿をしているが…もしかして俺の姿の元になった魚だろうか?
だとしたらスキル【合成】が使えるはずなんだよな。俺のスキルは格下に対してめっぽう強い。まぁ、格上だった場合は、ジ・エンドってことなんだけど。
一匹の小魚が俺の前にやってくる。俺には気づいていないのか、それとも敵対していないだけなのか分からないが、警戒していないようでゆっくりと泳いでいる。
……試してみるか。
俺は小魚に対して合成を使用するが発動しない。格上だからしないのかと思ったが、小魚が俺の真ん前を通り過ぎた途端に俺から粒子が溢れ出して小魚を覆い隠す。
『スキル【悪食】を獲得しました』
なんか嫌なスキルを手に入れてしまった。取り敢えず確認してみるか。
【悪食】
様々なものを食事として喰らうことができる。
う~ん…まぁ、何でも食べれますよってことだろ?例えばこの岩に生えている苔とか、あそこに生えてる緑色の葉っぱや赤色の刺々しい茎とかも食べれるってことなんだろう。
そういえばだけど段々と空腹を感じ始めているんだよな。細胞の時ってあまりお腹が空いたとかは感じなかったんだけど…この姿になってからは、ちょっとだけ小腹が空いているんだよな。やはり、身体の作りが変わったせいなのか?
まぁ、なんにせよこんなスキルを取得して、目の前に食べれそうな葉っぱがあるから試して見るか。
赤いほうは…毒とかありそうだから緑色にしておこう。
俺は岩陰から離れて、植物の葉に近づく。
いつでも岩陰に隠れられるように警戒しながら、緑色の葉っぱを少しだけかじってみる。
カジカジ…カジカジ…
うん…不味いな!もう二度と食べたくなくなるような苦さと青臭さだ。これじゃあ小腹を満たすまでは食べれたものではない。どうしたものかと考えていると水草の上の部分に膨らんでいる実のようなものがあった。黄色く仄かに光っているような実だ。
水草って実をつけるっけ?
そんなことを思ったがここは異世界だ。それに地球でも実をつける水草はあるだろう。あんな光る実をつけるかは置いておいてな。
まぁ、見つけたからには食べてみたくなるよな。
恐る恐る、近づいて実を口先で突く。行儀が悪いぞと怒られるかもしれないが知ったことではない。
こっちは命がかかっているのだからな。
突いても実に変化はない。躊躇して時間を潰していても仕方がないので、小さくかじってみる。
おぉ…?
これは美味しいのか?少なくとも先程よりかは遥かに食べれる味だ。
なんだろうな…豆?のような味だ。食感はプニプニしていて蒟蒻を食べているような感じがする。
うん、不味くはない。あまり濃い味がしないため、上手いとも言い難いが全然食べることができるものであったな。
…なるほど、葉っぱが苦くて実が美味しいのか。
葉っぱを齧る前に実を見つけることが出来ればよかった。そうすればあんな思いをすることもなく、美味しい思いが出来たのに。
俺はそれからも実を齧り続け、丸々1つの実を平らげてしまった。かなりの大きさがあったはずだが、いつの間にか俺の腹の中に消えていた。小腹も満たされたので、俺は満足げに岩陰に戻る。
岩陰に戻り、ぼんやりと揺れる水草を眺める。小腹が満たされた後に感じるこの満足感と幸福感は、異世界でも同じなようだ。それに、水の中の景色はかなり綺麗で、背の高いビルや排気ガスを出している工場、車などを見ることもない。陽の光がカーテンのように水面に反射して揺らめく。
そんな景色をぼーとして眺めていると大きな影が上を通過する。
うぇ?なんだ…今の大きな影は。
俺は敵かもしれない大きな影の主を探そうと岩陰から頭を出して探すが、その姿はどこにも見当たらない。どうやら、どこかに行ってしまったようだ。
影の主は見当たらないが、一匹だけ妙な生き物を目の端で捉えた。そいつは、トカゲのような姿をしているが、スイスイと水の中を泳いでいた。
…イモリ?…そうか!イモリだ!
俺は頭の中である考えが閃いた。ずっと探していた答えが見つかった瞬間であった。
俺がここから出ていく方法…イモリになればいいんだ!
イモリになれば水の中であっても、陸上でも活動ができるじゃないか!
両生類に俺が姿を変えれば良いんだよな。つまり、イモリ見たいなあいつを【合成】すれば良いわけだ。
俺が早速、自分の考えを実行に移そうかと思った時だった。そのイモリが一匹の小魚をバクっと捕食したのだった。目にも止まらぬ速さでの捕食…俺でなくちゃ見逃しちゃうね。
いやいやいや!そうじゃねぇよ!?
イモリが捕食した小魚は俺とそっくりの姿をした小魚であった。
つまり、イモリは格上の相手である。俺の合成は格上には通用しない。まぁ、格下かそうじゃないかって話は俺の能力値を参考にしているんだろうけど…十中八九イモリは俺の上だろうな。
つまり、今イモリに突撃してもパクっと食われて終わりってことだ。
眼の前に見えていた希望の光が段々と遠ざかって行く。イモリはそれから何匹か食べ終え、満足したのかどこかに消えてしまった。
あぁ、行かないでおくれよ!
俺はどこかに去っていくイモリに手を伸ばす。まぁ、ヒレなんですけど。はっはっは!…笑えねぇな?
まぁ、俺が弱いなら強くなればいいってことだ。詰まる所…レベル上げの時間が来たってことだろう?
『レベルが上がりました』
お、ナイスタイミングじゃないか。俺の今のレベルっていくつだっけ?
=================
名前 :
種族 :チャヴィフィッシュ (ウームセルラ)
レベル:13/15
=================
攻撃:E
防御:E
魔攻:C
魔防:D
俊敏:E
運 :E
=================
『固有スキル』
【分裂】【合成】【貯蓄】【魔力感知】
=================
『通常スキル』
【脱皮】【統率】【魔側線】【悪食】
=================
『秘匿スキル』
【海老】
=================
『称号』
【イレギュラー】
【$1$3B5!1"A#1#2】
【魔の混然】
=================
あれ?種族が変わってる。もしかして姿を変えている時はその種族に変わるのか。
なんか、俺って変な種族なんだな。でも変身みたいでちょっとだけカッコイイかも。…変身先が細胞と魚という異端な二択なだけで。
能力値に変化はなしっと。
あと2つレベルを上げると進化がまた来るのか?
レベル上げって言ってもどうやって上げればいいんだろうな。分裂体ってどうやって小魚を合成したんだろう。…気になる。
俺は自分の姿を細胞に戻す。すると視界は先程の光景が嘘のように闇に覆われた。
真っ暗で全く何も見えないのだ。今考えれば、よくこれでまともでいられたなと思う。常人であれば発狂していてもおかしくないだろ。よく、目を瞑って真っ直ぐ歩けるか?見たいな遊びを小学生の時にやっていたが、怖くて足が止まるんだよな。
さっさと分裂体を作るか。
分裂を意識すると俺から何か抜けるような感覚があった。どうやら分裂体が作り終えたようだ。
そして、自分は魚の姿に戻ると…おぉ、やっぱり見えるな。
そして、始めて自分の細胞の姿を見た。
不定形な形をしており、楕円体ような形ではある。薄っすらと緑色に見えるのは光のせいだろうか?それとも葉緑体が入っているのかも知れない。まぁ、そんな考察はどうでもいいので、取り敢えず小魚がいるここらへんを歩かせてみよう。
俺は分裂体を岩陰から出して無防備に進ませる。分裂体の動きが思った以上に遅かったので俺が軽く口でくわえて水中に放り出した。
するとふわふわと揺蕩うように水中でモゴモゴと動いている分裂体に小魚たちが集まりだす。
だが、次の瞬間、分裂体から粒子のようなものが溢れ出し、近づいてきた小魚たちを全て覆い隠す。
……いや、自分を餌にしておびき寄せてたのかよ。
どうやって、動きの遅い分裂体が小魚を合成していたのかと思ったけど、これなら納得である。
スキル【合成】は、有効範囲が極端に短い。だから、物凄く近づかないといけないのだ。
これさ、やってることかなり狡いよな。
ゲームのように正々堂々に戦ってレベル上げしてないし。でもさ、現実ってこんなもんだろ?
俺はそれからも分裂体を作っては合成して作っては合成してを繰り返した。
すると何度目かの合成でついにその時は来た。
『レベルが上がりました。個体の最大レベルに到達したことを確認しました。進化が可能になりました。特殊条件を達成。進化先に幾つかの選択肢が発生しました』
=================
名前 :
種族 :チャヴィフィッシュ (ウームセルラ)
レベル:15/15
=================
攻撃:E
防御:E
魔攻:C
魔防:D
俊敏:E
運 :E
=================
『固有スキル』
【分裂】【合成】【貯蓄】【魔力感知】
=================
『通常スキル』
【脱皮】【統率】【魔側線】【悪食】
=================
『秘匿スキル』
【海老】
=================
『称号』
【イレギュラー】
【$1$3B5!1"A#1#2】
【魔の混然】
=================
あれからスキルを獲得することはなかった。何では知らない。まぁ、あんまりスキルを持っていても使いこなせないし、今はこれで良い。じゃあ、早速だが進化してみるか。
ところでいつ俺は特殊条件を達成したんですかね?俺は画面に表示された名前を見る。
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→真多細胞
→真単細胞
→ラウセピトス
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名前を見てもあまり理解することが出来ないので毎度のことながら一つ一つ見えていく。
【真多細胞】
多細胞の頂点に立った多細胞。様々な種に進化できるようになる。進化すると種族が細胞ではなくなる。
【真単細胞】
単細胞の頂点に立った単細胞。単細胞は限られた種にしか進化することが出来ない。
【ラウせピトス】
神の因子を持つもの。●●●が見ている。●●●は待っていた。●●●の後継者を。●●●は、誰も拒まず、来るもの皆を歓迎する。道が開かれ、進んだ先には●●●が待っている。決して拒むな、受け入れろ。
今回は思ったよりも情報が多い。三つの中で異質なものが1つある。まぁ、一番最後のやつだ。
いやね?説明が一番長い割にはあんまり説明してないんだよな。それに最後の言葉、受け入れろって…今だってこの状況を受け入れられない俺がいるのに?
無難にここは一番上のやつだろうな。
神の因子ってなに?俺をこんな場所に転生させたあいつみたいになるってこと?…そんなの絶対に嫌だ!
ということで俺は【真多細胞】に進化する。別の種族に進化することができるってことはあれだろ?
人間みたいな種族にもなれる…かも。
いやね?ここまで来たら魔物路線で行こうって思うかも知れないけどさ。俺だって人間になりたいよ!
どこぞの妖怪みたいな事を思ってしまったが、そういうことだ。元人間は、細胞になっても人間に成りたいのだ。
『進化先を真多細胞に固定…進化を開始します』
俺はゆっくりと目を閉じる。進化を開始すると身体が急に動かなくなり、意識が朧気になる。そんな経験を一度しているので俺は同じ轍を踏まないように身を委ねるようにリラックスする。
…だが、一向にその時は訪れない。
うん?どういうことだ?おい、俺の進化はどうなっている?実行されるんだよな?
『進化…進…新…清…心…伸・・・シンカ先を【ラウセピトス】に固定…ました。シンカをシンカをシンカ……シンカを・・します』
ふぁ!?音声に今までなかったノイズが入っていて何を言っているのか途中途中で聞き取れない。だが、俺が選んだ進化先ではないことは確かであった。
ちょっと待て!異議あり!その進化に異議ありなんですけど!?
バンっ!と思いっきり吹き出しが出てきてもおかしくないぐらいに叫ぼうにも既に身体が言うことを聞かない。それどころか俺の意識もゆっくりと沈み始める。
あぁ…眠い。もう、どうでもいいか。