1.
一気に書き上げたので、お手柔らかにお願いいたします。
「うっそ!? 異世界!? というか、“夢君”の世界!? しかも、モブ扱いしてたけど、私的にいいポジションのヒロインの妹に転生した!!?」
「どうしたの? クラリスタ」
「ヒロインの困った顔、最高に可愛い!!」
乙女ゲーム“夢でまた君に会いたい”の女キャラたちに挟まれたいとずっと願っていた。
もちろん、攻略キャラたちも素敵だったけど、それよりも美しく、愛らしく、賢く、満開に咲くバラのような乙女たちが私の推しだった。
女子校生まれ女子校育ち。男との関わりはゼロの私は、キラキラした攻略キャラたちよりも、女性キャラを推すためにこのゲームにハマっていたのだ。
そんな私が転生したのは、クラリスタ・ジャネット。
ヒロインであるマリア・ジャネットの妹だ。
俗に言うモブキャラ。
ヒロインの妹だけあって可愛いけど、マリアに現れる聖女の印なんてものもない、しがない貧乏男爵令嬢だ。
というか、私って死んだ!? そう言われてるとそんな気もする……。前世のことなんて、このゲームの内容くらいしかしっかりとは覚えていないけど。
マリアに聖女の印が現れ、王都の学園に入学するところから物語が始まる。悪役令嬢たちも凛としていて美しく、断罪イベントではなく、平和な話し合いで婚約者を変えることになるこのゲームは、全然流行らなかった。
絵が素晴らしいから、キャラがいいからといった熱烈なファンも多少はいたが、ほとんどがプレイ一度でリサイクルショップへ持って行ったようだ。中古ゲームを買った私は、どハマりし、友達へ布教し続けた。ちょっと引かれた。
ちなみに、王都の学園は貴族なら全員通わなければならないため、私も通うことができる。しかも、妹と言っても同学年の妹だから、最初から最後までイベントを目撃したり……ゲームの世界を楽しむことができるのだ。
「お熱はないみたいね。では、お茶会には、一緒に参加できるかしら?」
「もちろんです、お姉様!」
同学年なのに、しっかりお姉さんヅラする可愛いヒロインにニマニマしながら、私はお茶会へと出席するのだった。
「ふわぁぁぁぁ!」
「ど、どうしたの? クラリスタ?」
「トドリー様。リン様。シャッティ様。美しい。涎出る。幸せ。欲を言うなら挟まれたい」
“大丈夫です、お姉様。なんでもありませんわ”
「ク……クラリスタ?」
「思っていることと口から出たことが反対でした。すみません」
「そう……大丈夫ならいいけれど。今日はやっぱり無理をしているのかしら? どこかで少し休めないかしら?」
そう言ってキョロキョロと周囲を見渡すお姉様。愛らしい少女のキョロキョロ姿に手を貸そうと、声をかけようとする素振りを見せる男子諸君。気持ちは大変わかるぞ。
「どうかしたのかい?」
「あの、妹が体調が悪そうで休ませてあげたくて、場所を探しているのですが」
「攻略対象、第一王子ミカエル様!」
「……本当だ。少し様子がおかしそうだね」
「は! 隣からは、未来の宰相、ルノワード様!」
「ミカエル様。こちらでしたら、令嬢一人くらいなら休むスペースがあるかと思います」
「隠しキャラで公爵令息ハント!」
「早急に案内しよう」
「ありがとうございます」
微笑むお姉様の笑顔に、王子は、顔を赤らめている……わかるわかる、可愛いよね。
そういえば、婚約者のトドリー様は? 見渡すと心配そうに、しかし麗しい笑顔でこちらを見つめるトドリー様と目が合った。愛らしすぎて、一瞬にして倒れかけた。物理的に。
「大丈夫か!?」
ハント様に支えられて、私は慌てて起き上がる。
「申し訳ございません! 大丈夫です!」
「なら、よかった」
ハント様の双子の姉君、トドリー様の美しさにやられて倒れかけましたなんて言えないもの。
こうして私は、お茶会を途中退場となった……。いいもん。まだ推しを見るチャンスはあるもん。ゲームは始まってないし。ゴロゴロしながら、お茶会の終了を待つ。
「ごきげんよう、クラリスタ嬢。体調は大丈夫かしら?」
「と、と、と、と、トドリー様! 麗しく美しく世界はトドリー様の物かと思うほど、輝いていらっしゃいますね!」
お茶会からの帰り道、うろうろと馬車に向かって遭難……ではなく、歩いていると、トドリー様とハント様に呼び掛けられた。
「あ……ありがとう?」
「トドリー様の麗しい笑顔で元気になりました! ありがとうございます!」
「ははは。こんなに困った姉上は初めて見たよ。君みたいな子も初めて見たけど」
「ありがとうございます! 光栄です!」
「会話が成り立っていない? というか、僕のことなんて目に入っていない?」
「落ち着いて、ハント。大丈夫よ。あなたは魅力的だわ」
「ありがとう。姉上」
「推しが慰めている姿、最高。私も慰められたい」
「そういえば、ミカエル様が君のお姉様に話があるって言っていたよ。今度、教会に同席して欲しいんだって」
「え!? あ、伝えておきます」
教会で起こる、聖女判明イベントはまだ先のはず……なんかストーリーが変わっている……気のせいか! まだ本編始まってないし!
「僕も姉上も行くから、君も同席するように」
「はい、喜んで! って、え? 私もですか?」
「この子、姉上で釣ると扱いやすくていいな」
「ではまた、会えるのを楽しみにしているわ。クラリスタ嬢」
「うっひょーー!」
神イベントだったなぁ。
「ということで、教会に行くことになりそうです」
伝書鳩兼お姉様の付き人の私は、胸を張って両親とお姉様に伝言を伝えた。正式な王家からの手紙が来る前に、心の準備をしておきたいもんね? 私ったら気が使える女!
「まぁ!」
叫びながら、気を失って倒れそうな顔色をしているお母様。お茶会で倒れた私の虚弱な体質は遺伝だな。
「何をやらかしたんだ。クラリスタ」
全くお前は昔から、木に登ってみたり、山に向かって大声で叫んでみたり、と、私のやらかしをぶつぶつと言いながらこめかみを抑えるお父様。
「クラリスタ……私が一緒に行くから安心してね?」
お姉様かわいい。じゃなくて!
「お父様! 今回は、私じゃなくてお姉様よ! お姉様のその愛らしさと可愛さと美しさが王子までも魅了したの!」
私の主張を聞いたお父様から、思いっきり拳骨が落ちた。
「婚約者のいる王子を魅了したなんて、口が裂けても言うんじゃない! 国家権力中枢には関わるな! お前は全く厄介ごとを持ち込みやがって……。しっかりしているマリアと同じ学年で本当に良かったが、来月から始まる学園生活が心配だ……」
「あ、始まるのって、来月なんだ」
もっと先だと思っていた私が思わず呟くと、お父様の頭に血管が浮かび上がった。やばい。逃げろ。
「では、おやすみなさいませ。お父様、お母様、お姉様!」
「いつの間にか、教会へ行く日だ!」
あの後、何故か私にも招集状が届き、お姉様と一緒にトドリー様に会いに……じゃなくて、教会へと行くこととなった。多分、お姉様が聖女であることを確認する儀式よね。
「手をかざせ」
「お姉様! 頑張って!!」
そう言って聖女確定のお姉様にエールを送ろうとすると、私が先に検査することになった。なんでだ。
「……聖女ではなく、大聖女でいらっしゃいますね」
「は?」
「ほう。姉君は聖女。きっとご両親の行いがいいのでしょう」
「だから、二人を見ているとどこか高揚感を覚えたんだな」
「王子がわけわからんことを言っている。気持ち悪……」
思わず不敬なセリフを吐きそうになった私のかわいいお口を、お姉様が必死に押さえている。必死な顔も可愛い。お姉様が聖女なのはともかく、私が大聖女? どういうこと? というか、胸の高揚感とか本当に気持ち悪いよ、第一王子。
「聖女と大聖女として、今後要望したいことがありますので、お話を」
司教的な人に呼び出されて話を聞いた。その後、王国の官僚的な人とも話した。要約すると、慈善活動とお祓い的なことをして欲しいってことらしい。そして、王家と縁づいて欲しいって……。
ごめん。中枢と関わることになっちゃったね、お父様。
一応、私たちが別の人と結婚したいと思ったら、そっちを優先してくれるらしいんだけど、王家が狙っている女を狙いに行くなんて阿呆は、お断りだよ……。
「晩餐会を開くから、本日両親と一緒に登城するように」
「かしこまりました」
王家って横暴だよ……。お姉さまの隣をキープしてる第一王子はともかく、他の男とも話さないとダメ?