5 有利な条件を押しつける、でもいいでしょ、あんたらも散々やってきたんだし
「まあ、安心しろ。
俺はお前らと違ってあくどい事をしようってんじゃない」
嘘である。
だが、転生者は嘘を貫きとおす。
「組合は解散する。
こんなしょうもない組織、立て直しようがない。
だから消滅させる」
これは変わらない決定事項だ。
誰にも異を唱えさせるつもりはない。
転生者の目の前にいる連中は不満そうではあるが。
それを「ケチをつけたら殺す」という雰囲気を出して黙らせる。
「その上でだ」
転生者は続く話を提案していく。
「俺は新たな組合を立ち上げる。
あんたらかからの借金とかはそちらに引き継ぐ」
「……ほう?」
「あんたらがこの組合の解散を承認しないなら、借金は放り出す」
この言葉に有職者達は即座に損得勘定を始める。
出来れば組合はこのまま存続してほしい。
しかし、現在の形のままというわけにはいかない。
となれば出資や貸し付けなどくらいは回収したい。
それを引き継いでくれるというなら、最低限の利益は確保出来る。
「あとな」
転生者は更に条件を付け足していく。
「出資や借りてる金だけど。
借り換えをしろ」
させてくれというお願いではなく、やれという命令形。
だが、有力者に断る術はない。
頷かねば殺されるのだから。
「今、借りてる金。
これを金利100パーセントで借り換える」
「え…………?」
その言葉を聞いて有力者達は唖然とする。
今は一年に20パーセントの金利で貸している。
分かりやすく言えば、100円を借りたら120円にして返すという事だ。
これが100パーセントになれば、100円を200円で返すという事になる。
単純にこれだけ聞けば、有力者達に有利な条件だ。
もちろんそんな事は無い。
「ただし、複利じゃなくて単利でだ。
返済期限は10年」
それを聞いて有力者達ががっかりする。
単利というのは、金利が上乗せされない。
先ほどの例で言えば、100円が200円以上になる事はない。
だが、複利だとこれが変わってくる。
年に20パーセントだと、100円の借金が一年目は120円に増える。
二年目は120円の20パーセント上乗せで144円になる。
以後、年々利率が重なっていく。
10年目になれば、約619円(端数切り捨て)になる。
単純に考えれば、複利の方が利益になる。
それを単利にしろというのだ。
有力者達の利益は減る。
だが、嫌とは言えない。
「嫌なら殺す。
返済する相手がいなくなれば、返す必要がなくなるからな」
断れば殺されるのだから。
「あと、物の取引先とかもこっちで決める」
「そんな!」
さすがに声を出す者も出てきた。
組合に商品を卸している、その実粗雑な品を押しつけてる業者だ。
だが、口を開いた瞬間、転生者の念動力で吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、全身の骨を折る。
内蔵も破裂した。
血を吐いて死んでいく。
「これから商品を売りに来るときは、より良いものを持ってこい。
今までみたいに、ガラクタを押しつけられると思うなよ。
あと、値段も適正な額で取引する。
出来ないなら死ね」
有力者達は何も言えなかった。
下手に口を開いて死にたくはなかった。
実際、目の前で今、一人の有力者が死んだ。
次の一人になるつもりは誰にも無い。
だが、沈黙をゆるすほど転生者はバカではない。
何も言わないというのは、意思表示の拒絶だ。
いいように誤魔化す事が出来る。
「返事は?」
強制していく。
今まで有力者が組合にしてきたように。
「……分かった」
これ以外の返事が出来ないようにして。
その後。
組合は無事に解散。
即座に設立された転生者の組合が後を引き継いでいく。
「じゃあ、やりますか」
ようやく思い通りに事を進められるようになった。
健全な運営を目指して、転生者は動き出していく。
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