17 当然の結末
「やっちまってるねー」
遠く離れた転生者の領域。
そこから意識を飛ばして古巣を覗く。
意識に直接流れ込んでくるその場の景色や、そこにいる者達の気持ち。
それらが悲惨な現状をありのままに伝えてくる。
「組合だけにしておけば良かったのに」
厄介な面倒事を押し込む、ゴミ箱のような場所。
そんなの探索者組合だけにしておけば良かったのだ。
それを外に拡大し、領地全体を地獄に変えた。
おかげで領地全体の生産性が下がった。
そんな状況だが、有力者達は状況を変えようとはしない。
領地が悲惨な事になってるのは分かってる。
しかし、得られる利益は確保出来ている。
ならば現状維持で良い、そう考えている。
今すぐに問題を解決しなければならない。
でなければ、今後立て直す事すら出来なくなる。
元の状態に戻るまで長い時間が必要になる。
それも分かってる。
しかしだ。
今はまだ何とか利益が出ている。
自分達の生活は守られてる。
ならば、あえて改善する必要もない。
有力者達はそう考えていた。
彼らにとって大事なのは、自分達が得る利益だ。
それが得られるなら将来がどうなろうと関係がない。
自分の子孫が悲惨な目にあうのが分かっていてもだ。
何より、他の誰かの為に何かをするのを嫌う。
働くのを何よりも拒絶しているからだ。
誰かのために何かをするのも気にくわない。
そんな馬鹿げた事が出来るか、とも考えてる。
彼らにとって、社会や組織、民衆などどうでもいいのだ。
それらを助ける為に何かするなど、おぞましくてやってられない。
他の誰かの為に何かをするというのは、他の誰かに奴隷のようにはべる事。
働くというのは、他の誰かの利益のために自分を虐げる事。
慈しみやいたわりというのは、他の誰かにこびへつらう事。
他人との関係を、主従でしか考えてない。
誰かに何かをさせるのが、ご主人様。
誰かに何かをしてあげるのが、奴隷。
そんな考え方で生きている。
だから他人のために何かをしようなどとはしない。
「どうしてこういう考えになるんだか」
転生者にはそれが分からなかった。
分かりたくもなかった。
何一つ納得したくない考え方だった。
そんな考え方が魂からあふれている。
持って生まれた性根というのがそうなってるのだ。
教育などで変えることなど出来ない。
もう、この性格で生きていくしかない。
ただ、転生者は付き合う気がない。
何が悲しくてこんな連中と一緒に生きねばならないのか?
付き合う相手は選ばなければならない。
どうしようもない人間と一緒にいても得るものなどない。
大事な何かを奪われ失っていくだけだ。
以前の探索者組合がそうだった。
貴族や商人・工房の連中にいいように使われていた。
探索者にとって便利な事など何一つ無かった。
そんな組合に所属し続けてどうするのか?
しっかりとお互いに利益を与え合えるような。
お互い、利益を受け取れるような。
そんな関係を作れる者でないと一緒に生きていく事は出来ない。
探索者組合に群がってた連中はそうではなかった。
組合と探索者を利用するだけだった。
使い捨てにするだけだった。
そんな奴等とはさっさと縁を切る方が良い。
他に居場所があるならなおさらだ。
転生者はその居場所を作った。
面倒を起こす連中と縁を切るために。
協力していける者達と手を取り合っていけるように。
おかげで今のところ生活は安泰だ。
転生者が切り開いた領域は上がり調子だ。
生産性がどんどん上がってる。
生活に余裕がある。
いうなれば、定時退社が出来て、それでいてボーナスも出る。
それだけの利益を出す事が出来ている。
転生者による様々な発案も大きい。
前世の記憶から便利な機械などを思い付いている。
それらの図面や設計図を書いて周りに見せている。
技術的に開発可能なものはどんどん出来上がっている。
それらによって作業効率が格段に上がっていく。
「蒸汽機関も出来たし。
他のもどんどん作っていかないと」
人口、たったの1万人である。
この先増える見込みはあるが、現状では労働人口は限られている。
一人当たりの生産性を上げるには、どうしても様々な機械が必要だ。
出来れば魔術にも頼らないで。
個人差の大きな魔術だと、どうしても個人の能力に左右される。
そうした能力に頼らないためにも、効率的な生産体制が必要だった。
魔術は魔術で便利なので用いていくにしてもだ。
それだけに頼ってるのは危険だ。
手段は出来るだけ多く用意しておく方が良い。
今はまだ魔術の方が効果的で便利だが。
「色々、頑張らないと」
せめて有力者達を追い抜くくらいには。
でないと、何かされた時に対応出来なくなる。
問題を解決する力はあればあるだけ良い。
無くて困るよりはよっぽど。
その力を得るために、転生者は今後も領域を発展させていく。
生きてる間に前世の日本に近い所まで持っていきたい。
そうすれば、この世界でかなう者は居なくなる。
早めにそうしていきたかった。
面倒な連中を退けるために。
自由気ままに好き勝手やる。
その為にここまでやる事になった。
それはそれで面倒だ。
だが、決して嫌ではない。
着実に鬱陶しい連中と縁を切っていけるようになってるのだから。
少なくとも組合を弄んでた連中とは縁が切れた。
これからは誰かの事を気にする事無く活動していきたい。
そう思いながら転生者は目の前にある仕事にてをつけていく。
その後も組合を中心とした転生者の領域は発展を続ける。
科学技術が他を圧倒するのは20年後。
独立を宣言するのがそこから更に10年経った頃。
余所の事を考えずに済むようになるのにそれだけかかった。
なお、貴族などの有力者達だが。
領地の統治を失敗して没落。
爵位・財産などを剥奪されて処刑。
組織的な犯罪という事で類を見ない厳しい処分となった。
疲弊した領地には新たな統治者が置かれ、再建を目指す事になる。
しかし、産業が潰滅。
人口も激減した領地の再建は一代でかなうような簡単な事ではない。
新たに赴任した統治者は、まずは基礎固めに一代を費やす事になった。
それを継承した二代目・三代目もこれ以上沈み込まないようにするだけで精一杯。
どうにか復調していくのは四代目から。
経済・生活・文化などの水準が元の状態を取り戻すのは、7代目になってからとなる。
時間にして150年を費やす大事業となった。
衰退・滅亡には一代とかからなかったが。
復活には何倍もの時間と労力が必要となった。
そんな地域を、まだ存命だった転生者は呆れながら見ていた。
チート能力で寿命まで長くなっていた転生者は、あらためて知る。
愚行は多くの時間と労力を無駄にすると。
「ああはなりたくねえ……」
教訓を見ながらそうぼやいた。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい
あと、異世界転生・異世界転移のランキングはこちら
知らない人もいるかも知れないので↓
https://yomou.syosetu.com/rank/isekaitop/