15 危なくなる前に逃げる、残っても良いことなど無いのだから
税金が増え始めた頃に転生者は貴族の統治から逃げだした。
自分に関わる者達を率いて。
統治者に付き合う理由はない。
まずいと思えばさっさと逃げるだけだ。
探索者を使って切り開いた場所はそれなりに発展している。
小屋を建て、水路をひき、田畑を開墾している。
鉱山も幾つか確保し、資源も調達した。
工房も出来上がって、必要になる様々な道具も作れるようになってる。
それらを流通させる商人もやってきてる。
商人が移動しやすいように道も作ってある。
人も集まった。
土地を手に入れる事が出来ると聞いてやる気になる者は多い。
農民なら自前の田畑を誰もが求める。
牧場や漁業でも同じだ。
鉱山でも同じ事が言える。
分かりやすく言えば、利権が手に入るのだ。
家を継げない次男三男などがふるってやってきた。
人数で言えば、次男三男の方が圧倒的に多い。
だから集める簡単だ。
とはいえ、誰でも良いというわけではない。
まともな性格・人間性を備えてる者を厳選した。
心を覗いて人柄を確かめた。
その結果、希望者の半分以上が選考外になった。
それでもかなりの人間があつまった。
転生者の領地は既に人口1万人を超えている。
この世界ならそこそこの規模だ。
人が流れこんできてるし、赤児も生まれ続けてる。
人口は更に増大していく事だろう。
そんな場所があるので、人類の生存圏にこだわる必要はなかった。
周囲を怪物に囲まれてるので危険ではあるが。
それでも、税金を使って合法的に絞り上げてくる貴族よりは良い。
倒しても誰も文句はいわないのだから。
むしろ、賞賛される。
秩序を盾にしてる社会ほど恐ろしいものはない。
法律で認められた合法だからと、どんな悪事でもやらかす。
独裁国家が良い例だ。
国民を虐げるこういった国は、法秩序が無いのではない。
法秩序を使って人を虐げてる法治国家だ。
そんな状態に陥った場所から転生者は逃げだした。
もう用はなくなってる。
自分の領域がそれなりに発展してるので、無理して居続ける必要がない。
借金なども返済は終わってる。
「もう10年か」
組合を引き継いでからそれだけの年月が経っている。
邪魔になるものは一掃し、体制も職員もいれかえた。
探索者もまともなものとだけ業務提携していった。
まともに仕事をする人間を増やし、業績を上げていった。
邪魔も当然入った。
悪徳貴族に悪徳商人に悪徳業者などなど。
これらと手を組んでるヤクザ・マフィア・ゴロツキ・チンピラなどの犯罪組織もだ。
実行部隊である犯罪組織は、真っ先に潰した。
今ごろ全員、土にかえってるだろう。
そうやって健全な市場競争が出来るようになっていった。
全てが思い通りではないが、卑劣卑怯な横槍が入る事はない。
そんな中で商売が出来た。
おかげで利益は順調にのびていった。
なのにだ。
その成果を全て破壊された。
悪辣非道な輩がいない健全な場所だったのだが。
その場所そのものを悪い方に変えられた。
貴族の支配下に入らねば産業をやっていけないように。
これまでの10年が全て粉砕された。
努力が全て水の泡となって消えた。
もっとも、こうなる事も予想はしていた。
悪党はどんな手段も使ってくる。
だから、思い付く全ての対策をたてねばならない。
この程度の危機感を転生者は備えていた。
だから、危機管理を徹底していた。
危険は常に起こるもの。
だから最悪の事態に備えて対策をしておく。
たったこれだけの事を転生者は常に心がけていた。
だから即座に町を離れる事が出来た。
「じゃあな」
落ちぶれていくだけの町に分かれを告げる。
何の未練もなく引き払っていく。
「使える人間は全部引き抜いていくから安心してくれ」
必要な人材は残らず引き抜く事も忘れずに。
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