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12 同じものを作っても、同じように出来るわけもなく

 借金は滞りなく返済した。

 借り換えはしても、借金が増大する事はなかった。

 経営努力が実を結んでいる。


 粗悪品を割高で購入する事もなくなった。

 必要なものを適切な金額で手に入れるようになった。

 赤字が増大する要素がなくなった。



 無理な組合経営もなくなった。

 おかげで、探索者の組合員費を低くする事が出来るようになった。

 以前は稼ぎの半分近くを徴収していた。

 それが今は1割で済んでいる。

 探索者の手元に残る金額が多くなった。

 この安い組合員費を求めて、他の組合から乗り換える者も出てきた。



 安い組合員費でも充分に組合は運営可能だった。

 無駄な人員がいない、無駄な設備がない、無駄な物を購入しない。

 適切な運営がされていれば、赤字が出ようがない。



 そんな転生者の組合と対照的に落ちぶれていく者もいる。

 組合を食い物にしていた貴族や商会・工房などだ。

 粗悪な在庫を売りつける先がなくなった。

 余ってる人間を押しつけて給料を支払わせる場所がなくなった。

 必要なら無利子・無担保・無期限で金を借りれる組織がなくなった。

 そうなれば、経営・運営に問題を抱えてたこれらが生き残れるわけがない。



 商会も工房も赤字だらけになった。

 いらないものを無駄に作り続けてるのだから当然だ。

 在庫は膨れ上がるだけで、売りつける相手がいない。

 これでは利益が上がるわけがない。



 こういった商会・工房を抱える貴族も窮乏していく。

 組合を放り出されて出戻りしてきた者のおかげで出費は増える一方だ。

 貴族の維持というか見栄というか。

 一族郎党に飯を食わせるのが貴族の誇りでもある。

 この為、窮乏してるからと簡単に召し放ちが出来るものではない。

 それは「自分は食わせることの出来ない無能者です」と貴族社会に宣言するようなもの。

 それだけで立場を悪くする。

 だから、負担であっても食わせていくしかない。



 だからこそ、組合は便利な道具だった。

 職員として貴族一族郎党の子弟を放り込めば、それなりに尊敬される。

 あそこは一族を養っているという事で一目置かれる。

 それが消え去ったのだ。

 だから余計に腹立たしい。



「おのれ!」

 怒りをあらわに叫ぶ貴族の当主。

「あいつがいなければ!」

 組合を強引に買い取った転生者に怒りを向ける。

 もちろん、悪いのは貴族だ。

 健全な組織運営をしてる転生者をなじる方がおかしい。



 そんな当たり前の事に気付く事もなく。

 貴族はただ怒りを怒鳴り声にして放っていく。

 問題の解決をはかるでもなく。

 時間の無駄でしかない。



 そもそも、組織として死んでいた組合である。

 脅しもあったとはいえ、それに見切りを付けて捨てたという面もある。

 貴族・商会・工房の有力者達は損切りのつもりで転生者に組合を譲った。

 それまでの借金などをかぶせて。

 おかげでその時点での赤字を貴族達は切り捨てる事が出来た。

 文句を言う筋合いはない。

 それでもケチを付ける有力者達は恩知らずと言える。



 それでも、今は上手くいってる転生者と組合を見れば腹が立つ。

 そうするまでに転生者が行った努力など見もしないで。

 もはや救いようがない。



 とはいえ、貴族や商会・工房も出来る事はある。

 組合を失ったのなら、自分達で新たな組合を立ち上げれば良い。

 幸い、商会という資金源がある。

 工房という装備品を作る者達もいる。

 組合で働いていた人員もいる。

 足りない部分もあるだろうが、最低限必要な人材も財力も資材もある。

 あとは探索者を募るだけだ。



 怪物との戦闘という最も危険な部分を担う探索者。

 普通ならなり手の無い仕事だ。

 しかし、この世界の場合はそうでもない。

 家を継げなければ冷や飯を食う事になる。



 それすらもまだマシな方だ。

 普通は食いぶちを分けるよりも家から追い出す方が多い。

 生活に余裕の無い一般人はこういう傾向がある。

 貴族などであっても、余裕のない所は家から追い出す。

 ただ、その際には武者修行の名目で探索者にする。



 死傷率の高い探索者である。

 人手は常に求められている。

 なり手はいくらでもいる。

 実働用員の探索者を確保する事は難しくは無い。



 それは貴族達も分かっている。

 決して有能では無いと分かっていても、人は揃ってる。

 経験者がいるのだから、新たな組合を作れば良い。

 そう考えて、新しい組合を作った。

 作って、見事に失敗した。

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