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1 探索者組合

「酷いもんだ」

 もう笑うしか無い、という態で転生者は呆れた。

 目にしている帳簿などの資料を見ればそうなるしかない。



 地球の日本で生まれ育って死んだという前世を持つ転生者。

 その転生者が新たに生まれてきた、剣と魔法のファンタジー世界。

 はびこる怪物と、怪物の拠点たる地下迷宮。

 そんな世界には、怪物に対抗する民間業者である探索者が存在している。



 怪物を倒し、迷宮を攻略して糧を得る探索者。

 そのほとんどが個人事業主、一人親方といえる者達だ。

 そんな彼らも単独で活動するほど強くはない。

 なので、仲間を募って活動する。



 そんな業者達が集まって出来たのが、探索者組合。

 ギルドなどと呼ばれている。

 探索者達の支援をもっぱらとするこの組合は、事実上の探索者による企業とも言えた。

 その組合の一つを受け継いだのが転生者である。

 今や組合長だ。



 そんな転生者は最初の仕事として現状を知る事からはじめた。

 そのために様々な帳簿などに目を通したのだが。

 あまりの悲惨な実態に笑うしかなくなった。



 とにかく赤字が酷い。

 どうしてここまで膨れ上がったのか分からないほど赤字が大きい。

 その理由については幾つか目星が付いてるが。

 あまりにも酷いのでどこから手を付ければいいのか分からない程だ。



 もっとも、経営が上手くいってないとは思っていた。

 探索者への支援が上手くいってなかったり、支給品がなかなか調達出来なかったり。

 組合職員の動きも悪い。

 一人一人の行動がとにかく遅い。



 そんな職員ばかりなのだから、組織としても終わってる。

 まずもって、組合内部での情報が上手く伝わってない。

 受付窓口越しのやりとりを見てるだけで内情が伺えるほどだ。

 それを見て、これはさっさと見切りを付けねばと思ったものだ。



 それなのにわざわざ組合を引き継いだのは、愛着があったから……ではない。

 愛想はとっくにつきてる。

 なじみの職員がいるわけでもない。

 いるのは態度の悪い組合職員だけ、そんな連中など相手にしたくもない。

 それでも組合長になった理由は一つ。

 仕返しだ。



 態度の悪い受付。

 頼んでも物品を調達しない仕入れ係。

 安宿よりも居心地の悪い宿舎。

 家畜の餌よりも劣る飯を出す食堂。

 やたらと高い組合費。

 無理やり押しつけられるクエストという仕事。

 どれをとっても酷いものだった。



「こんな組合、必要ないだろ」

 常々そう思ってた。

 だから組合長になって潰すことにした。



 なお、先代組合長は年齢を理由に引退。

 その後釜に転生者は立候補した。

 普通なら一悶着あってもよさそうなものだ。

 しかし、それすらもない。



 組合の実態をしる職員からの立候補はなかった。

 もっとも組合長の近くにいた幹部ですらもだ。

 普通なら、こういう連中は後釜を狙うもののはずなのにだ。

 おかげで転生者は簡単に組合長になることが出来た。



 そんな転生者が最初にしたのは、帳簿などの公開だった。

 組合の実態を示した全てを人の目につくようにした。

 末端の組合職員にも、所属する探索者にも。



 大きな騒ぎになった。

 なかなかに酷い経営状態に誰もが呆れた。

 なのだが、そこに驚きはなかった。

「やっぱりこうなってたか」という思いを誰もが抱いていた。

 予想に裏付けがついただけだ。

 それは、呆れという方が皆の気持ちをあらわしていただろう。



 また、こんな状況を改善しようという気持ちもない。

 誰もがとっくに自分の所属してる組合に見切りをつけていた。



 それでも所属してるのは、大きな組織に所属していたいという思いだった。

 そこに理由や理屈はない。

 寄らば大樹の陰とか、長いものには巻かれろという無意識によるものだ。

 個人でやっていく度胸が無いから所属してる。

 そんなところだ。



 なので、実態が分かったところで改善しようという強い気持ちもわかない。

 しょうがないという諦めしか出てこない。



 転生者もそれは承知している。

 なので、現状改善の気概を持ってくれるとは思わない。

 それでも現状を公開したのは説明を省くためだ。

「こんな組織、立て直せるはずないだろ」という。



 転生者がやりたかったことは立て直しではない。

 最終的には立て直すかもしれない。

 だが、それは今ある組合を生かす事ではない。

 再建不能なものはさっさと終わらせてしまうつもりだ。

 その為の第一歩である。



「この組合、修正出来ないから潰す」

 帳簿公開の翌日。

 所属してる職員や探索者。

 さらには資金を借り入れてる商人などに向けて通達をする。

 騒ぎは更に大きくなった。

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