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エピローグ

最終話です!

「クローディアさま! 小聖堂のお悩み相談室に、クローディアさまへご相談がしたいという方がいらっしゃってます!」

「私に? ちょっと今、手が放せないのだけど……誰か他の方で対応できる方はいないかしら」

「でも、すっごくむずかしい相談だから、筆頭聖女候補のクローディアさまがいいって言われたんです!」



 七歳の聖女候補生レティは、困り顔で私を見上げる。

 レティも誰かに頼まれて、私に言付けに来ただけだろう。彼女を困らせるわけにはいかないので、私は仕方なく仕事の手を止めて部屋を出た。


 お悩み相談室なんてポップな名前で呼んでいるが、そこはいわゆる()()()だ。


 イングリスの神に罪の告白をしたい信者がこのお悩み相談室を訪れて、壁の向こうにいる聖女に赦しを乞う。

 元々は、壁に隔てられた部屋の中で格子付きの小窓を通じて話をする造りだったのだが、何だか息が詰まるので私が部屋を作り替えた。


 テーブルを挟んで向かい合って椅子を置き、テーブルの中央をカーテンで隔てる。これならお互いの顔は見えないし、狭くて暗い場所で息苦しく話す必要もない。


 聖女ともっと気軽に接して欲しくて、部屋の名前も「懺悔室」から「お悩み相談室」に変えた。

 私の十八番である恋占いも、希望者にはこっそりとサービスで行っている。


 今日のお客様……もとい、信者さんも、そんな恋占いを希望してやって来た方なのかもしれない。

 私はお悩み相談室に入ると、椅子に腰かけた。



「お待たせしました。聖女クローディア・エアーズと申します。今日はどんなことでお困りですか?」

「聖女様に聞いて欲しい悩みがあるのです」



 カーテンの向こう側から、相談者が話し始める。

 窓から差し込む陽の光で、相談者の影がカーテンに映し出されているのだが……随分と大きな頭をした方だ。



「お悩みですね。何でしょうか」

「実は……運命の相手から避けられていて、心が深く傷ついています」

「殿下じゃん……」



 聞き慣れた低くて甘い声。

 そしてカーテンに映る大きな頭。

 これは恐らく、また兜を新調して被ってきたに違いない。



「別に、アーノルト殿下を避けてるわけではなくて……」

「では、なぜ私に会ってくれないんだ」

「……なぜでしょう。何だかずっと忙しかったし、色々ありすぎて頭の整理がつかないんです」



 相談主は椅子から立ち上がり、「開けるな」という注意書きを無視して思い切りカーテンを開いた。

 久しぶりに見るアーノルト殿下は、相変わらず細マッチョで素敵だ。ただし、兜を除けば。



「ディア。今日は空気が澄んでいて、イングリス山がきれいに見えるよ。少し外に出て歩かないか」

「そうですね。ここでお断りしたら、また殿下がお悩み相談に訪れそうですから。参りましょう」



 ガシャンガシャンと音を立てる兜男のエスコートで、私たちは神殿の庭園に出た。


 ローズマリー様の呪いに苦しんだあの時から季節はガラッと変わり、外の空気は冷たい。

 イングリス山が見渡せる広い場所まで歩き、私たちは並んでベンチに座った。



「頭の整理がつかない……と言ったね。どういうこと?」



 殿下が兜を脱ぎながら言う。

 相変わらず美しいブロンドの髪が、冷たい風にサラサラと揺れた。



「だって……私が土砂に生き埋めになった時、殿下は私のことを助けて下さったでしょう? 私にキスをしたら殿下は死んでしまうかもしれないのに、王太子殿下が自らの命を張って平民を助けるなんて……どうかしてるなって思ったんです」

「本当にそうだろうか。自らの命を賭けて国民を助けるのが、未来の国王のすべきことではないかな?」

「真面目かっ……! でも、殿下がいなくなったらこの国は困ります。次の国王には誰がなるんです? アーノルト殿下は、この国の希望なんですよ。それに……」

「それに?」



 どうにも殿下と話しているとモヤモヤする。

 私のファーストキスを奪った責任を取って一生大切にするとか、国民を助けるのが自分の義務だ、とか。


 まるで責任や義務感から私に優しくしているような、そんな感じがしてしまうのだ。

 私が求めているのはそんなことじゃない。もっとこう、何か……恋愛小説に出て来るような、ロマンチックな言葉なのだ。


(私に甘い言葉を囁いて欲しい。でも、私は平民で……)


 私の言葉の続きを待ちながら、殿下は私の横顔をじっと見ている。

 口を尖らせながら殿下の方に目をやると、殿下が私の腰に手を回して引き寄せた。



「ディア。続きは?」

「……殿下のお気持ちは分かっているつもりです。命をかけて私を守って下さったんだもの。でも、いくら運命の相手だからと言って、私たちはあまりにも身分が違いすぎます。それに孤児です」

「私はディアを心から愛しているよ。ディアも私のことを愛してくれているからこそ、私の呪いは解けたはずなんだが」

「あ、愛っ!?」



 殿下の顔が近すぎる。

 まるで、キスの練習をしたあの日のように。


 にっこりと微笑んで頷いた殿下は、私の前に跪いて胸に手を当てた。



「クローディア、私と結婚してほしい」

「……だから、私は平民です。ただの」

「君はイングリス王太子の命を救った平民で、将来はこのイングリス王国の筆頭聖女になる女性だ。たかが王太子ごときでは君に釣り合わないと言うのか? 他にどんな肩書きを持ってくれば、プロポーズを受け入れてくれる?」

「殿下! 何を言ってるんですか!」



 恋占いが得意でも、恋愛小説を読み漁っていても。

 どうやら自分の恋は理想どおりにはいかないらしい。



「本当は、殿下の方からして欲しかったんですけどね!」



 悪態をつきながら、私はアーノルト殿下の両頬に手を添える。

 そして、私の記憶の中には存在しない自分のファーストキスを、大好きな人にそっと捧げた。

最後までお読み頂きありがとうございました!

★評価頂けると嬉しいです。

次回作も頑張りますのでよろしくお願いします。

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