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第28話 雷鳴とランプ

「殿下……」



 アーノルト殿下は、私が運命の相手なのではないかと《《期待》》していたと言った。一度目の恋占いの時、殿下は水面に映しだされた私の姿を見てはいないはずだ。


(それなのに、私が運命の相手であって欲しいと、殿下自らが思っていたということ?)


 アーノルト殿下は私から目を逸らさず、憂いを含んだ表情で言葉を続ける。



「ディアはあの洪水で、両親も家も失くしたんだろう。自分の胸も悲しみでいっぱいだっただろうに、一生懸命私やみんなのために祈っていた。私もこの子のようになりたいと強く思ったんだ。その時のことが、私の今の原動力になっている」

「それは買いかぶり過ぎです。私はただ、人の役に立ってから死にたかっただけで。そうじゃないと、天国で両親に会えないかもしれないから……」



 私は殿下が言うような聖人ではない。あの時川の中に沈んでいきながら、確かに私は必死でアーノルト殿下の無事を祈った。でもあれは、どこかで私のお母さんが私に「頑張れ」と言ってくれている気がしたからだ。


「いずれにしてもディアの力で私は救われた。君のおかげで、私は今こうして生きていられる」

「それは私の台詞です。村全体が苦しかったあの時に、わざわざ危険を顧みずに村に来てくれた。私は殿下のその気持ちに救われたんです」



 お互いに褒め合ってくすぐったくなった私たちは、顔を見合わせて笑った。


 まさかあの時の男の子に、こんな形で再会していたなんて。それこそ本当の、《《運命の相手》》みたいではないだろうか。


(皮肉にも、もう私は運命の相手ではなくなってしまったけれど)


 もう一度、洞窟の外で雷鳴が響く。鈍い破裂音のような雷鳴と共に、私たちが座っている地面とランプの灯はそれに合わせて揺れた。


 揺れるランプに手を添えて支えながら、アーノルト殿下は思い出したように言った。



「……しかし何かがおかしいと思わないか。あの時に村全体を包み込む程の魔力があったディアなら、今頃筆頭聖女になっていてもおかしくない。何かが君の魔力を削いでいるということはないだろうか。いつからディアの魔力は弱まったんだ?」

「聖女の祝福の儀の時には、既に魔力はほとんどなかったみたいです。何と言っても私は、恋占いスキルしか授かれなかったくらいですから」

「祝福の儀の前に、何か変わったことは?」

「特に何も。いつも通り何も変わらず過ごしていました。そもそも、私は自分の魔力がそこまで強いだなんて感じたことがないんです。いつも聖女候補生の中でも落ちこぼれでしたので……」

「魔力が弱い子は、聖女候補生になれない。少なくとも候補生になった時点では強い魔力を持っていたはずだよ」

「でも、魔力が弱まる心当たりなんて何も……」



 聖女候補生になったばかりの頃は、司祭様に「将来有望だね」などと言われたこともある。聖女として活躍することを、少なからず期待されていたはずだ。しかしその後は落ちこぼれ一直線。何でも上手にこなすローズマリー様に泣きついては、慰めてもらう日々だった。


 あの祝福の儀の前日だって、緊張する私をローズマリー様が――。


(ローズマリー様がいつだって側にいてくれて、私に回復魔法をかけてくれた)



「ローズマリー様……」

「ローズマリー嬢が、どうした? 何か心当たりでも思い出した?」

「いつも私が落ち込んだ時は、ローズマリー様が私のことを慰めてくれていました。同じベッドで眠ってくれて、いつも背中をポンポンと優しく――」


 私がそこまで口にしたその時。

 洞窟の外、山の向こうの方で、いつか耳にしたことがあるような嫌な音がした。ドーンという低い音に驚いた私たちは、思わず耳を押さえてその場にうずくまる。


 音が止むと共に再び地面が揺れ始め、洞窟の天井からはパラパラと小石が落ちて来た。地面の揺れはおさまらないどころか、徐々に強くなっていく。

 私は思わず立ち上がって殿下の腕を引いた。



「殿下、早く外へ! 洞窟が崩れるかもしれません!」

「そうしよう! ディアこっちだ!」



 ひび割れていく天井から落ちて来る小石から頭を守りながら、私たちは急いで洞窟の外に走り出る。


(アーノルト殿下、こんな時こそ兜被っていればよかったのに)


 そんなどうでもいいことを考えながら洞窟の中を振り返る。


 するとローズマリー様のランプがゆらゆらと光を放ち、洞窟内に残された兜がそれを受けて光った。



「……あっ、ランプ!」

「ディア、待て。私が取りにいく」

「いえ、私が行きます!」



 こんな山奥でランプを失くしては、身動きが取れなくなってしまう。

 洞窟が崩れる前にランプを洞窟から出さなければ。そう思った瞬間、私の足はもう一度洞窟の中に向いていた。焦って私を制止するアーノルト殿下の腕を振り切って、洞窟の中に飛び込む。


 ランプを手にして殿下の方を振り返ると、殿下も私を追って洞窟に入ろうとしているのが見えた。



「殿下、すぐに出ますからこっちに来ないで!」



 私の声は、最後まで殿下に届いただろうか。


 殿下に向かってランプを投げてパスし、洞窟の外に向かって足を踏みだした瞬間。メリメリと音を立てて天井がひび割れ、土砂が私の上に崩れ落ちて来た。


(危ない、殿下!)


 ほんの一瞬の間に、私の視界は闇に包まれた。

 

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