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溺れるほどの愛言葉を君に

作者: 腹黒兎
掲載日:2022/09/03

以前《ボイコネライブ大賞》に投稿したものですが落選したので、小説用に加筆修正して書き直しました。



「Te amo《愛してる》」


特徴のある低い声が私の鼓膜を震わす。


「Sono così pazzo di te《狂いそうなほど君に夢中だよ》」


低く甘く、とろけるように紡がれる愛の言葉。


「Vorrei essere vicino a te 《側にいたい》」


そのひとつひとつが媚薬のように熱を持ち、私の中に流れ込む。


「Sai che sono pazzo di te?《俺が君に夢中なことを知ってる?》」


ディエゴの言葉は流れる川のように滑らかで、息をするように口説き文句を口にする。

気持ちを表す身振り手振りは大袈裟なのに、板について違和感がないのが不思議だ。

彫りの深い目鼻にシャープな顔立ちなのに、甘くチャーミングな目が可愛らしい。

無精髭に見えないギリギリのラインを維持している顎髭は男臭くて魅力的だ。

自分の魅力を理解していて、最大限に活用してくるこの男は本当にタチが悪い。


「Sei carina solo sabato? O sei carina ogni giorno? Mi lascerai controllare? 《君は土曜日だけ可愛いの?それとも毎日可愛いの?確かめさせてくれないか?》」


「スィニョーレ・パニィツィ。今、大事な話をしていますよね」


ジロリと睨めば、彼は驚いたように手を大きく広げた。

発せられた言葉は全く予想外だった。


「もちろんだよ。君みたいな bella(びじん)を褒め称えずに何をしろと言うんだい?」


自分の胸に置いた手をひらりと私へ向ける。無駄にスナップを効かせているのが腹立たしい。思わず持っていたペンを折る勢いで握りしめた。ミシッという音で我に返り慌てて力を抜く。

今は聞き取り中なのよ。我慢よ、我慢。


「スィニョーレ・パニィツィ」


「ディエゴと呼んでくれ。君の愛らしい唇でボクの名前を呼んで欲しいな」


いい加減、その口を閉じてくれないだろうか。

ついでに、さっきからひらひらと演劇のように動いている手を下げてもらいたい。視界にちらついて仕方ない。

ここに来て、彼と面会してから何ひとつ進んでいない。

ウインクばちばち飛ばしてないで、私の質問に答えてください。

だから、イタリア男は嫌なのよ。息をするように口説き文句を投げかけ、その気もないのに愛を囁く。

tesoro、amore、bellaを乱発し、パーソナルスペースを軽く越えて簡単にハグをして、ウインクと投げキッスを飛ばしまくる。

国民性の違いといってしまえばそれまでだが、悪気がなければ良いの?いや、違うでしょ。

イタリアが愛を求める国民性なら、日本人は謙虚で慎ましやかな国民性なんだから相容れないはず。たぶん。

こんな事なら、友達に誘われて第二言語でイタリア語を選ばなければ良かった。

うっかりイタリアに興味を持ち、卒業旅行で、イタリアに行くんじゃなかった。

あの店員さんカッコいいってバルに入るんじゃなかった。そしたら……


「今度食事に行こうよ。咲華は何が好きだい?ボクのおすすめはうちの店のピッツァだよ。咲華が好きなら嬉しいね」


「シィニョーレっ!いい加減にしてくださいっ!!」


精一杯睨みつけたのに「猫みたいで可愛いね」なんて笑うので、我慢の限界がきた。


「いい加減にしてっ!」


それでもディエゴは甘いマスクを微笑みで満たして、アクリル板の向こうから私を見ていた。


 * * * * *


イタリア人にとって褒め言葉はとても自然に溢れ出てくる。息をするように自然に相手を褒める。

恋多き国民というべきか。

パーソナルスペースは狭いし、口は軽いし、マザコンだし。ジェスチャーは大袈裟だし、常に手が動いてる。

それに、ディエゴは顔がいいし、女性の扱いはスマートだし、基本的にすごく優しいし…って違う、そうじゃない。


「シィニョーレ・パニィツィ。何度も言いますが、接見は遊びではないのですよ」


「ボクも何度も言ったはずだよ。ディエゴと呼んでくれってね」


だからだからイタリア男ってやつはっ!

奥歯をギリっと噛んで耐えた。

気を抜いたら舌打ちでもしてしまいそうだ。


「ふふ。怒った顔も仔猫みたいでかわいいね」


柔らかな微笑みにドキっとした。

意識して深呼吸をして心を落ち着かせる。


「何度も言いますが、接見はナンパの時間ではないんですよ。結婚詐欺は起訴されてしまえば、有罪の可能性が高まるんです。その前に不起訴にしましょう」


「そんなつまらない話より、ボクは君のことが知りたいな」


「私はそのつまらない話がとてもしたいですけれどね」


このディエゴ・パニィツィという男は、結婚詐欺で逮捕され、現在勾留中である。

被害者は同じ大学に通う女性で、彼に結婚を仄めかされ二百万円を渡したというのだ。

被害金額はそこまで大きくないが、まだ大学生の彼女には大金だろう。なにより女心を弄んだことが許せない。

でも、国選弁護人は交代も解任もできない。心情的には「有罪になれ」と言いたいところだが、私の仕事は彼の弁護。無罪もしくは不起訴に持っていくのが私の仕事なのだ。


「被害者女性にお会いしましたが、彼女はお金を返してくれたら訴えは棄却するそうです」


「……へぇ。返したら、ねぇ。ふぅん」


ディエゴは顎髭をさすりながら視線を横に流した。口端を上げた笑い方さえ様になる。

嫌味な男。


「受け取ったお金はまだありますか?」


「無いよ」


「そうですか。でしたら………え?無い?」


「そう。全く無いね」


ディエゴは両手を横に開いてひらひらと振り、あっけらかんと笑った。

予想外とは言わないが、ここまで悪びれもしない態度には驚いた。


「何に使ったのかお聞きしても?……いえ、それよりもお金を用意立ててくれる方はいらっしゃいますか?」


どうせ遊興の類だろうから聞いたところで無駄だろう。

それよりも、返却の当てと方法を考えて相手方に提示しないといけない。


「まぁ、いない事もないけど」


「でしたら、連絡先を伺っても?私が代わりに連絡させて頂いても宜しいでしょうか」


見えた解決方法に少々前のめりになってしまう。なぜかディエゴも前に乗り出してきて、私と彼の距離はアクリル板を挟んでグッと近づいた。


「積極的だね。嬉しいな。親兄弟を含めて何人かいるけど、誰がいいかな。君が連絡してくれるなら、やっぱり親かな。そうだ、咲華の親兄弟は?」


「両親も兄弟も健在です。ご心配なく」


そんなことより早くご両親の連絡先を教えて欲しい。


「家族が健康なのはいい事だ。同居?それとも一人暮らし?」


「貴方にプライベートを話す義理はありません」


あからさまな話題の転換にムッとして睨むと、ディエゴは器用に片眉をあげて肩をすくめた。


「つれないな。ボクの弁護士だろ?」


「仕事には関係ありません」


すげなくした返事に、ディエゴは一呼吸置いてからにやりと男臭く笑った。


「あるさ」


力強い眼差しを受けて、思わず息を呑む。

のまれた。

悔しくて丹田に力を入れて背筋を伸ばした。


「咲華、君のことをもっと知りたい」


陽気で軽薄な面を削ぎ落として真面目な顔をして、怖いぐらいの圧を放つ。

落ち着いた瑠璃の目が熱く私を見つめる。


「Ti penso sempre 《いつも君のことを考えている》」


甘くとろけるように囁くから、私は耳を塞ぐ。

まるで甘い毒だ。


「Non credo alle parole di un truffatore《詐欺師の言葉なんて信じないわ》」


しまった。

つい口が滑った。

弁護士が言っていい言葉ではなかった。

だが、ディエゴは気にした様子もなく肩をすくめた。


「いいや、信じるよ。だって、君はボクの弁護士だからね」


そうね。私は貴方の弁護士だもの。信じないといけない。

分かっていても、腹立たしいことに変わりはないのよ。


「仔猫ちゃん。毛を逆立てる姿は可愛いけど、牙を剥く相手を間違えていないかい?」


「今日は帰ります」


ディエゴの言う通りだ。

情けなくなって、荷物をまとめて席を立つ。

了承なんていらない。

ちらりと振り返れば、頬杖をついて「Ciao」と手を振る彼の姿にまた腹が立って乱暴にドアを閉めた。

腹が立つ。

だからイタリア男なんて嫌いなのよ。

愛の言葉を吐きながら本心を隠す。


「Non posso fare a meno di amarti 《君を愛さずにいられない》」


嘘吐き。


「Solo tu 《君だけだ》」


嘘吐き。


「Ti amo più di chiunque altro 《誰よりも愛しているよ》」


嘘吐き。嘘吐き。嘘吐き。


過去の声に怒りが湧いてくる。

腹が立つのは、未だにそんな言葉を覚えている自分だ。

忘れるためにがむしゃらに勉強して司法試験にも合格して、頑張ってきた。

あんなくだらない過去に邪魔されたくないのに、過去を思い出させるディエゴを受け持つことになるなんて。

そのディエゴの一挙一動にときめく自分にも腹が立つ。なんで、私のドストライクな顔面してんのよっ!



ハッピー法律事務所と丸文字で書かれた扉を開く。胡散臭い名前なのは否めない。


「おかえり。どうだった?」


事務所に戻れば所長の猪熊達磨(いのくまたつま)が笑顔で迎えてくれた。

いかつい名前とは裏腹にひょろりとした印象の柔和な人である。見た目は。

仕事に関してはかなりしつこい。猪や熊というより蛇だと思っている。

私の祖父の知り合いだけど、縁故ではなくきちんと面談も受けて採用してもらっている。

グレーだろうが、なんだろうが、ちゃんと働けば問題ない。


「何か失礼なこと考えてない?」


「気のせいですよ」


この事務所には、達磨と私ともう一人、鮫島浩輔(さめじまこうすけ)という事務員がいる。

私の苗字は小さい雀と書いて小雀(こじゃく)と読む。

名前で採用されたのでは?と勘繰ってしまい、冗談半分で聞けば冗談半分で「当たり」と言われた。未だにもやっとしているが飲み込むことにしている。


「今日は進んだ?」


「全然です。あの人危機感がないんですよ。ただでさえ結婚詐欺なんて加害者には不利な案件なのに」


手にしたペンを器用に指の間で回しながら、達磨は目を細めて笑った。


「小雀くん。調書は読んだ?」


「もちろんです」


「じゃあ、裏は取った?」


「被害者の友人数人にお話を伺ってます」


指の間を回っていたペンがくるくると宙を回る。釣られて見上げたそのペンをキャッチした達磨はまた器用に回し始めた。


「違うよ。被害者相手に利益が発生しない人達にも聞くんだよ」


達磨の言葉に何か思い当たった咲華は置いた鞄を再び手に取り、立ち上がった。

一度目の接見で、ディエゴの風貌と言動で軽薄だと決めつけた。詐欺と訴えられることをしたのだと安易に納得してしまった。


「ボクらはね、自分が弁護する人を信じなきゃダメなんだよ」


背中にかけられた達磨の言葉が咲華の心に突き刺さった。



 * * * * *




青い空に薄い雲が綿菓子のように浮かんでいる。

いい天気だ。

無事に釈放されたディエゴは背伸びをして空を見上げた。

青空を背景に、眩しそうに目を細めた姿さえも絵になっている。


「スィニョーレ・パニィツィ」


呼びかけて振り向いた彼に頭を下げる。

九十度折り曲げれば、横髪がはらりと流れた。


「申し訳ありません。基本的なことを疎かにしてご不便をおかけしました」


被害者の告発は嘘だらけだった。

ディエゴにつきまとっていたのは被害者のほうで、何度迫っても相手にされなかったことに腹を立てたらしい。友人に口裏を合わせてもらい、嘘の告発をしたようだ。

彼女が騙し取られた金もなければ、付き合った事実さえない。

私がもう少し幅広く聞き取りをしていたら、もう少し早く解決していたはずだ。

同時に、ディエゴがもう少し積極的に冤罪だと訴えていてくれれば、警察がちゃんと捜査をしていれば、と思ってしまう。

けれど、どれも言い訳だ。

私の怠慢に変わりはない。

弁護する相手を信じなかった私が一番悪い。


「ボクの言葉を信じた?」


悪戯っ子みたいな顔をしたディエゴが下から覗き込んでくる。

長い手足を折りたたんでいる姿がちょっとだけ可愛く見えてしまう。


「そう、ですね。その節は申し訳…」


再度謝ろうとした唇を長く節くれだった指が押さえる。


「No,no. 君への愛を、だよ」


にっこりと微笑んだディエゴは、立ち上がりながら私の両肩に手を置いて優しく引き上げる。

向かい合えば、見上げるような高さの彼を仰ぎ見る形になる。


「Sono innamorata di te 《君に恋してる》」


耳に心地よい低い声が甘く耳の奥を震わせる。

軽薄さを無くしたディエゴの視線が真っ直ぐに突き刺さる。


「Sei la cosa più bella che mi sia capitata fino ad ora 《君はこれまでボクの身に起こったコトの中で、最も美しいものだ》」


「No grazie.《ありがとう。でも結構よ》」


ムカつくほどキメ顔で口説かれたので、笑顔で断った。

驚きに目を丸くした表情が見れて、少しだけスカッとした。


「Incredibile《信じられない》どうしてだい?」


断られると思って無かったのだろう。私の返事が信じられないと額に手を当てて首を振る。

ディエゴに好意は持っている。

だけど、それだけで付き合えば過去の二の舞にしかならない。


「私は、あなたの事をよく知らないわ。そんな状態で甘い言葉だけを信じろと言う方が無理よ」


「Sì.Grazie!」


断ったはずなのに、満面の笑みを浮かべて抱きつこうとしてきたのでサッと避ける。

空振りして残念そうにしないで。

肩をすくめて立ち直ると「咲華」と名前を呼ばれた。

困惑する私に彼は実に音が鳴りそうなウインクを飛ばしてきた。


「ボクをよく知らないということは、これから知ってくれるということだね」


「は?なんでそうなるの」


あまりにも前向きすぎる解釈に開いた口が塞がらない。


「じゃあ、ボクのために頑張ってくれたお礼に食事に行こう。本格的なPizzaを出す店を知っているんだ。前に言っていたうちの店だよ」


「は?え、ちょっと。誰も行くなんて言ってないわよ」


流れるように手を握られ歩き始めるから、釣られて歩き始める。

ディエゴが少年みたいに笑うから、怒るよりも苦笑が漏れた。


「Pizzaは嫌?だったらBarならどう?うちの店で雰囲気の良い所があるんだよ」


「こんな昼間からバーなんて行きません。それに、私はまだ仕事中です」


「大丈夫。昼は普通のカフェ?だよ。それに、事後処理も君の仕事でしょ」


「ちょっと、今カフェの後に疑問符つけたでしょう。怪しいわ」


「じゃあ、一緒に行って確かめよう」


「分かった。分かったから、手を離して」


「No,no. 君と離れるなんて酷なことを言わないでよ。ボクの幸せを奪わないで」


そんな掛け合いをしながら、結局手が離されることはなく店に連れて行かれ、美味しいスイーツまでご馳走になった。

うちの店と言っていたが、親の店ではなく本当にディエゴがオーナーらしい。飲食店を三店舗とビルをひとつ持っているそうだ。

店長と話している姿は経営者っぽかった。

大学生でも起業している人はけっこういるけど、なんとなく毛色が違う気もする。

本当に、最初の印象と違いすぎる。



 * * * * *



あれから、弁護する相手と向き合うようにしている。親身になれるように、でも、のめり込まないように。

達磨さんからはお叱りもアドバイスも頂くひよっこだけど、背筋を伸ばして頑張っていこうと決めている。


「やあ。キューピッドの悪戯かな。偶然、こんな場所で会えるなんて嬉しいよ」


事務所を出たところでディエゴに出会う。

どう見ても待ち伏せしていたようだが、そんな雰囲気をおくびにも出さないあたり慣れている気がする。


「ええ、本当に偶然。では、さようなら」


にっこりと挨拶をして歩き出した先を塞ぐようにディエゴが立ちはだかる。

右に行けば右に、左に行けば左に。


「急いでるんです。どいてください」


「送っていくよ。電車は人身事故のせいで混乱してるらしいからね」


ほら。と見せられたスマホ画面には路線の遅延情報が載っている。

電車がダメならタクシーを捕まえようかと思ったが、事故のせいでタクシーも行列だとディエゴに先手を打たれた。


「送るだけだから、信用して」


後ろに停めていた国産車を指差す。それはどこにでもある普通車で、正直意外だった。


「派手なオープンカーだと思ってた?」


「ええ。だから意外だわ」


私の言葉に片眉を上げてニヤっと笑うと、助手席のドアを開けてくれた。


「こっちの方が目立たないだろ?もちろん、咲華が乗りたいならランボルギーニでもフェラーリでも迎えに来るよ」


「それはやめて」


助手席に乗り込んでシートベルトをする。

やっぱりというか、持ってるんだ。高級車。

そんな高級車をうちの事務所の前に停めないで欲しい。事務所の名前が名前なのだから、要らない臆測を呼びそうだ。


「派手なのも悪くないけど、フィアットの方が好きだね。小回りがきいて咲華みたい可愛いからね」


最後の言葉は、外の景色を見ていて聞こえないふりをしたが、バレバレだったらしい。


「耳がキスしたい色になっている」


小さく笑いながら言われて、咄嗟に耳を手で塞いで「脇見運転しないで」と注意をした。

耳どころか頰も赤くなっているだろうと、言われなくても自覚していた。



ディエゴはその後もさりげなく偶然を装っては接触してきた。

「大学生なら勉強をしなさい」と言えば、誰もが聞いたことのあるヨーロッパの名門大学を卒業していると返された。

今の大学は好きな教授の授業が受けたくて入ったので、それが終われば辞めてもいいと簡単に言う。

「せっかく入学したのにもったいない」と言えば「君と過ごせない時間の方がもったいない」と返される。

私の方が年上で社会人なのに、何ひとつ勝てる気がしない。

悔しいから彼の言葉に素直に頷けない。


「今日はいつもより暑いと思ったら、二つ目の太陽がこんな身近にあったよ」


「君のボスは正気かい?君を一人で歩かせるなんて。恋敵が増えたら大変だから、ボクに送らせて」


「出会った時は天使かと思ったが、いつから女神になったの?」


気がつけば、ディエゴの言葉で満ち溢れていて、過去の声はもう聞こえなくなっていた。

熱烈な愛の言葉と紳士的な態度で絆されるなんて、自分でもチョロすぎる気がするけどディエゴを意識しているのは間違いなかった。




ディエゴと出会って1年と半分。

大学を辞めた彼は、更に私に構うようになり、そんな状態を受け入れ始めていた。


「Se non ti piace, scrollalo via《嫌なら振り解いて》」


背後から抱きしめられ、耳元で熱い吐息と共に囁かれたのはクリスマスイブの夜。

誘われたディナーを終えて、イルミネーションが輝く道を二人で歩いていた時、不意に後ろから抱きしめられた。


「Ti desidero, ti voglio《君が欲しい、君が欲しいんだ》」


乞い願うように紡がれた言葉は強く心に刺さり、優しい抱擁は心を暖かくした。

優しい腕にそっと手を添えて引けば、あっけないほどあっさりと外れた。

暖かな腕から抜け出して、ディエゴと向き合う。

自信溢れる男前なクセに、泣きそうな顔が愛おしくてならなかった。

大きな手を取り、自分の頰に当てる。


「Mi piacciono le tue mani.《あなたの手が好きよ》」


「Solo una mano?《手だけ?》」


不安そうな声にくすりと笑って、手の平に頬擦りをする。

私の行動に不安になる彼が可愛い。

なすがままの彼の手の平にキスをひとつ。

チラリと見上げれば蕩けるような笑みを浮かべていた。

自分の唇に人差し指をあてて、身を乗り出してくる。


「Mi baci. 《キスして》」


囁く為に近づいてきた彼の唇に、私の唇に押し当てた人差し指で触れた。

ふっと魅力的に微笑んだディエゴは、私の指を優しく掴み反対の手で私の腰を抱いて引き寄せた。


「Baciami di più.《もっと…》」


私の返事は熱い唇に塞がれた。

重なっては離れるたびに、ディエゴは愛を囁く。


「Ti amo.《愛してる》」


唇に、瞼に、頰に、鼻に、額に、キスと共に降り注ぐ愛の言葉に酔いそうになる。

煌びやかな光の中、ふたりで寒さを忘れて浸っていた。



  *終わり*

お読みくださりありがとうございます。


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