悠里からの報酬
暗殺から1週間が経った。悠太郎くんの悲報に1番悲しんでいたのはマネージャーさんだろう。あれから、会社に姿を見せていないらしい。彼の葬儀の時は出席していたみたいだが、やつれてとても見ていられられない状況だったと聞く。僕からも、一応連絡を入れてみたが反応はなかった。これは村田さん経由で得た情報だったが、隠れて2人はお付き合いをしていたみたいだ。わからなくもない。彼は見た目以上に人として魅力的な人間だった。それを身近でみていた彼女が惚れないわけがない。
「泣いてるのですか?」
休日の今日。特にやることもなかったので、本を読んでいると悠里が話しかけてきた。
「いいや、泣いてないさ。本読んでるだろ?」
「嘘です。さっきから本に目はいってないですし、もう何分も同じページですから。」
考え事をすると手が止まるのは昔からの癖。仕事中もたまに出てくる。子供の頃から注意されてきたことだ。
「バレたか。涙は出てはないけど考え事をね。」
「お仕事のことですか?」
「ああ。まあね。」
「私のためなんですよね?」
「その質問はなしだよ。それだけじゃないからね。それに、お父さんが求められるからやってることでもあるから。」
悠里は僕の膝の上に乗って自分の胸に僕の頭を抱く。
「お疲れ様です。ありがとうございます。」
ああ。そういえば悠里に頼んでいたことを思い出した。そのお願いへの悠里なりの答えだったのかもしれない。
「ありがとう。これでまた頑張れるよ。」
「よかったです。」
琴乃と同じ匂いのすることで、悠里が完全にうちの子になったと感じた瞬間だった。血のつながっていない僕らだからこそ、無性にそれが嬉しかった。柔軟剤とかの匂いという指摘はこの場合はなしだ。
「人の命はね、その人だけのものじゃないんだ。」
「でも、奪わなきゃいけない時があるのですよね。」
「ああ。多くの人が被害を受けないために。大切な人を守るために。その天秤が傾いてはいけない。」
「お父さんは背負いすぎです。他人の感情を背負いすぎて自分が潰れそうになるくらい。私にはこのくらいしかできないですけど、背負いきれなかったら話してください。それで少しでも軽くなるのなら。」
「ありがとね。だいぶ大人っぽいな。悠里は。」
「割と修羅場は経験してますから。」
「頼りになるなぁ。」
ガチャッと玄関から音がする。その音を聞くなり、悠里は僕から離れた。
「ただいまぁ。」
琴乃が帰ってきたみたいだ。
「なんで離れるんだ?」
「お母さん、私とお父さんがくっついてると嫉妬してお父さん独占しちゃうから。」
「そうなの?」
「それが日常だったから違和感ないんです。私も・・・」
「なんだ?」
「なんでもないです。」
「荷物重いから手伝ってー。」
玄関から助けを呼ぶ声がする。僕と悠里はその助けに答えにいった。
「何?2人ニヤニヤして。」
2人とも少し表情が緩んでいたのを琴乃に察知される。
「なんでもないよな。」
「はい。なんでもないです。」
パッチリ大きい琴乃の目が、漫画の強キャラくらい目が細くなっている。
「怪しい。」
「なんもないって。ほら早くしないとアイスとか溶けるだろ?」
怪しがる琴乃をおいて、僕と悠里は荷物を急いでキッチンに運んだ。
First target fin