足枷のルール
後日改めて、依頼の確認を村田さんにお願いした。隠していた理由は、まだ向こうの準備が整っていなかったということと、気負いすぎないようにという総監の配慮からだということだった。僕なら、情報を寄越すようにと言ってくると踏んで、向こうの準備が整い次第僕に対して情報の開示を行う予定だったらしい。もし僕が少しでも速く動いてしまっていたとしても、問題はないらしいが、同時進行の方が都合はいいとのことだった。ということはだ。すでに、僕の手元には悠太郎くんの資料が届いている。向こうさんも準備は完了しているみたいだ。あとは僕が行動を起こすだけ。
日常の物事というのは結構うまく出来ているものだと実感する。彼の資料を真那さんからもらった2日後に、もともと予定していた飲み会が開かれることになった。どこにリストを隠しているのかはわかってはいないが、こう言った類の情報は常に自分の近くに置いておきたいのが人間の心理。それに、料理の指導中に彼の左手に少しだけ傷跡があったのが気になっていた。おそらくは・・・。
当日。僕のスマホには大量のリクエストが載っている。この前参加者に直接聞いた。料理名から具材、こう言ったものみたいなはっきりしないものもあった。とてもじゃないが1人で揃えるのは無理があったので(それに、リスト改修の準備もあったので・・・)、特別に助っ人を呼ぶことにした。総監の許可を取ったらブツブツ言いながらだがきてくれた。真那さんだ。撮影現場の近くのスーパーで真那さんと合流して早速買い出しを始めた。
「今後こう言ったことはしないでください。私も私と家族の身が可愛いので。」
「問題ないですよ。僕の妻の友人としてお願いしていますから。何も嘘はないでしょ?もし、僕がヘマしたとしても、知らなかったとでも言えばいいじゃないですか。」
「ヘマは許されませんから。それに、もしあなたで失敗した場合は私が尻拭いをしなければいけなくなるので失敗だけはやめてください。」
「それはルールを守ってやる暗殺ですか?」
「もちろんです。」
暗殺にもルールがある。僕がよく行う表に出ている人、有名人の暗殺には特に厳守しない事項がある。それは、死体を残すこと。理由は主にジャーナリストの存在だ。不審死だと怪しまれることがあるし、凶器を使った場合でも、必ず身辺の取材が入ってしまう。そうなると面倒だ。昔は神隠しで良かったのだが今の時代そういうわけにもいかない。それこそ暗殺にはならなくなるからね。これが暗殺において1番の足枷になっている。それを綺麗にクリアできるのは僕くらいだ。
「方法は?」
「普通に。」
「なら、僕は失敗できないですね。見せかけることが出来なそうなんで。」
「だから、あなたに最初から依頼を出しているのです。しっかりよろしくお願いします。それに、今日の売買リストも。」
「そのためにも、お手伝いよろしくお願いしますね。料理の方もよろしくお願いしますね。」
「え?買い出しだけじゃないんですか?」
「村田さんには、助っ人として頼んでいたので、てっきりしてくれるものだと思ってましたけど?それに見てくださいよ、この量。1人で処理できると思います?」
少しとぼけたようなニュアンスで真那さんに話かけた。真那さんは食材が大量に入った買い物カートを見て大きくため息をついた。
「仕方ないです。会計は1人でしてください。私は旦那に連絡してきます。」
「ありがとうございます。助かります。」
精一杯の誠意を示すために笑顔をできるだけ取り繕った。真那さんには嫌な顔をされた。カートは食材の重みで少し力を入れないと動かない。そのカートをレジに持って行って僕は会計を済ませた。手に持てない量をカートに乗せて外に出る。そこには家族と話しているっであろう真那さんの姿があった。僕と話すよりも少し高くなった声で、さまざまな表情をしていた。