第5話 侵入者 2
彼の問を聞いた途端、私の中に信じたくないという気持ちが沸き起こる。彼は私に、私が彼が問うた「取り替え子」という存在なのだと言っているのだ。
「私は・・・妖精なの?」
否定して欲しい。その気持ちでいっぱいになりながら私は尋ねた。
「違う。君は妖精じゃあないよ。でも、取り替え子なのは事実だ。」
途端に悲しい気持ちがこみ上げる。私は両親と血が繋がっていないんだ。そう思うと堪らなくなった。
でも、どこか腑に落ちたような気もする。両親に私が母のお腹の中にいた時のことをよく聞いていたから。
母は妊娠中に階段から落ちた事があった。その後、病院では子供は助からないだろうと言われたのに、いきなりその危険がなくなったのだ。それが私だった。
でもやっぱりすぐに受け入れられる話じゃない。これが本当なら私の生物学上の両親は?どこで何をしているの?私は必要じゃ無かったの?
頭の中で思考がぐるぐると渦巻いて、周りにあるものが霞に隔てられた様に遠くに感じる。
彼が私の名前を呼ぶ声がくぐもったような感じで聞こえるが、返事をする事ができない。
ただ、悲しかった。
◇◇◇◇◇◇
はっと気が付くと、私はベッドに座っていた。隣には彼がいた。
「ごめんなさい。取り乱してしまって。」
「大丈夫。無理もない事だよ。」
彼は相変わらずの様子だった。少し安心した。でも、少し恥ずかしい。初対面の相手の前で感情を顕にするなんて。頬が熱くなるのを感じる。
「君は僕の話を信じる?」
彼は聞いた。私は自分でも不思議だが、もう彼の言葉を疑う気にはなれなかった。だからただ頷いた。
「聞かせて。順番に。まずはあなたの名前から。」
私は笑う様な気分ではなかったけど、無理やり口角を上げて、笑顔を作った。