第3話 祖父との食事
無機質なアラームの音で目が覚める。顔を洗って時刻を見ると、朝の7時半。あれから7年の月日が経ち、私は17歳になった。私は今でも使用人と先生達以外はほとんど来ることがない屋敷の中で、退屈な日々を過ごしている。
窓の外に目を向けると雲一つない空が広がっている。今日は天気がいいみたいだからバトンの練習は外でする事にしよう。バレエはその後地下室で。
バトンとバレエは両親の勧めで4歳頃から始めた。思い出もたくさん詰まっているから今でも習慣として大切にしている。毎日やってるからやらない日があると変な気分になってくるっていう理由もあるけど。
練習着に着替えてから髪を梳かす。私の髪は不思議な事に赤毛で、緩く波打っている。父は赤毛だったけど母は純日本人で黒髪だったのに。私が知る限り赤毛って潜性遺伝だったはず。
後ろで適当に纏めて、道具の入ったカバンを持って外に出た。
◇◇◇◇◇◇
両方の練習を終えてシャワーを浴びると、もう夕方になっていた。もちろん昼食の時間や休憩の時間も挟んでいる。私はそこまでストイックなタイプじゃない。
今日は年に一度祖父がやって来て、夕食をともにする日だ。クローゼットから淡い緑色のワンピースを取り出す。祖父が来る時はいつも私の赤毛が映える色の服を着て、いつもはクラウンブレイドなどにまとめている髪をハーフアップにする。これは私から祖父に対してのささやかな嫌がらせだったりする。嫌そうに顔を顰めるところを見ると、気分がいい。
なぜこんな嫌がらせをするかというと、祖父が度々私の食べ物に混ぜ物をするから。しかもどんどん強烈なものになってる。でも私は平気で食べている。今まで匂いで混ぜ物が入っていることは分かっていたし、それを私は気付かない振りして食べていたが、一度として効いた事はない。
自分でも不思議に思うけど、いい事だよね。病気一つせずに元気に生きてるんだから。
身支度を整えてもまだ、祖父が来る6時までまだ時間があったため、本でも読んで時間を潰す事にした。本は好きだ。現実を忘れさせてくれるし、知らない事を沢山教えてくれる。
私はここで過ごすようになってからバレエやバトンの練習、高校までの範囲の勉強以外の時間は本やネット小説を読んだり、海外ドラマを見たり、ゲームをしたりして時間を消費している。
現実逃避はだいぶ上手くなったんじゃないかな。
今日はジョージ・オー○ェルの一九○四年を読むことにした。この作品は危機感を忘れさせないようにしてくれる。
◇◇◇◇◇◇◇
時間の10分前に靴をはいて食堂に降りた。祖父が来るまで、縦に長いテーブルのそばの手前側の椅子の隣で待つ。でもそんなに長くは待たされない筈だ。祖父はいつも必ず私と対して違わない時刻に来るから。
靴を履くというところからわかると思うが、この屋敷は洋館だ。本邸もだけど。外国人嫌いなら日本家屋に住めばいいのに。私は自分の部屋の中だけは土足厳禁にしている。
そんな事を考えていると、足音と共に祖父がやってきた。
「久しいな」と言ったので、私も「お久しぶりです」と私も返した。私は祖父のことが好きではない。むしろ嫌いなくらいだが、無礼な態度を取るつもりはない。損をしたくないなら礼儀正しく振る舞うべきだ。
祖父との食事は彼の望みなのかコース料理が出てくる。味は美味しいがつまらないし、気まずい。合間に7年前に行った取引の内容の確認をするだけで終わった。いいことと言えば、二人とも殆ど音をたてないからそれで不愉快にならずにすむと言う事くらいだった。