第2話 取引
気を失ったのか、目が覚めると見た事もないような天蓋のついたベッドに横たわっていた。使用人によれば、私は丸1日眠っていたらしい。
それからすぐに、両親の死を思い出した。でも、不思議な事に涙は出てこなかった。まだ現実味がなく、本当は夢なんじゃないかとさえ思っていた。このままだと思考の渦に取り込まれそうで怖くもあったと思う。
でもそれはすぐに打ち切られた。ノックの音がして、祖父が入ってきたのだ。祖父の第一声は「取引をしよう」だった。祖父はもう表情を取繕おうとはしていなかった。
取引で決まった事は2つ。まず、祖父は私に別荘を用意して、私はその敷地内から出ない事。その代わりに祖父は私の望みは出来うる限り叶えるという事。
私がその時要求したのは、パソコンとスマートフォン、クレジットカード、それから幼少の頃から習っていたクラシックバレエとバトントワリングの練習場所と先生、高校の内容まで終えられるだけの教材と家庭教師、最後に両親の遺灰とそれから作られたダイヤモンドだった。
祖父は私の事を両親と共に死んだ事にしてしまったから、お葬式にも出られないし、通っていた小学校にももう行けなくなるのだから、それくらい当然でしょう?
話が終わると、祖父はすぐに部屋を出て行き、私は使用人に着替えさせられ、その後すぐに別荘に移された。
家に一度戻る事を望んだが、それは叶わなかった。
しばらくして、骨壷に入った両親が小さくなって手元にやってきた。私はその時になってやっと両親の死を受け入れられた。泣きじゃくった。それはもう身も世もないくらいに。
骨壷よりも後に届いたふた粒のダイヤモンドはピアスにしてもらった。