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四季の騎士のナイト様  作者: 有河 さくら
7/13

紅い約束ーただいまー

 学校が終わり放課後、鬱陶しかった雨は嘘みたいに止み、雲の隙間から夕日が覗いている。俺と沙季はその光景をバックにして二人で帰宅をしている、いつもなら冬也も一緒に帰ってるのだが、今日は珍しく部活の日らしい。ちなみに、沙季の家は俺ん家の近くの(さかき)神社の境内にある。


「沙季と一緒に帰るの何年ぶりだろうな」

「七年ぶり......かな」

「確か小四の時だったよな」

「うん……あの頃が懐かしい……」

「俺と沙季と夏希でよく遊んだよな」

「うん......」

「沙季は何しても弱いから最後は必ずと言っていいほど泣いてたよな」


 俺は、意地悪な感じで笑う。


「そんなことないよっ......!!」


 沙季は顔を真っ赤にして言い返してきた、否定しているんだかしてないんだか、これじゃ分からないな。


「あの時は楽しかったな」

「うん......凄く......楽しかった」


 思い出に浸っているとしばらくして榊神社に着いた。俺と沙季は境内に入ると百段くらいの長い階段を昇り踊り場に出る。すると、次の階段まで四季祭で出る露店の骨組みなどが道案内をするように参道の横に置いてある。踊り場の左右の外側には一つずつの物置小屋に、休憩所と散歩ができる庭がある。その他は紅葉こうようしている木に囲まれていてとても綺麗だ。


 踊り場を抜けて、また同じような階段を昇りきると、そこには鳥居があり、そこを二人で潜ると拝殿のある大広場に到着した。四季祭の準備などがされているここは、サッカーグラウンドぐらいの広さはある。


 参道は引き続き伸びており、中央まで行くと大きな舞台に邪魔をされ二手に分かれる。舞台の上には膨らみがありその上にはブルーシートが敷かれている。おそらく中には、階段や灯し代を作るための木の板などが置いてあるのだろう。


 そして、舞台を跨ぐように二つの参道は合流し改めて道案内をする。その途中には右側に手水舎ちょうずや、左右に狛犬と続き五メートル程で横長の拝殿に辿り着く。閉め切った拝殿の奥には本殿に繋がる廊下が見える。


 広場の周りには紅葉が散っていて。角に綺麗に集められている。左側には鳥居の方から順番に社務所がありその横にはおみくじを結ぶ木や絵馬を飾る(やぐら)などがある。右側は祭り用の道具などが入った倉庫と池、そして、その先に紗季の家だ。


 最近では四季祭の時ぐらいしか此処には顔を出さなくなった。昔は母さんの実家というのもあってよく家族で来てたんだけど。


「そういえば、沙季はどうして盛城町に戻ってきたんだ?」

「おばあちゃんがもう元気がなくて、それで巫女舞をするようにってお父さんから連絡があったの」

「なるほど、そういえば婆ちゃん腰やってたな……」


 説明すると仙宮寺家の女性は代々、四季祭で巫女舞を踊ることになっている。四年前までは俺の母さんが舞を披露していたが、他界してからは婆ちゃんが巫女舞を披露していた。代わりがいないから仕方なかったとはいえ、やはり歳には勝てなかったらしく、去年腰をやってしまったのだ。


「お母さんはすごい反対してたんだけど、私がやりたいって言って大変だったけど説得したの」

「そんなにやりたかったのか?」


 沙季は首を横にふる、何となくだがさっきと雰囲気が変わった気がする。


「違うよ。大切な約束があったから、チャンスは今しかないと思ったんだ。勿論、巫女舞もやりたかったけどそっちが本音だよ」


 舞よりも大事な約束か。そういえば、沙季が引っ越す少し前に俺も沙季と約束をしたような気がする。


「あのさ、もしかしてなんだけどそれって俺との約束かな?」


 そう聞くと沙季の表情が変わる。


「そうだよ、守くんとの約束。私にとっては四季祭とかよりも凄く大切なこと」


 そう言われて凄く嬉しくてこそばゆいのだが、残念ながら俺は細かい事までは覚えてなく、微かな記憶しか無い。覚えているのは今日と同じように紅葉が綺麗だったことと、ちょっと恰好つけてた事くらいだ。


「だけどごめん。どんな約束したのかは全然覚えてない」

「覚えてないんだ。酷いなぁ、守くんが言い出しっぺだったのに」


 沙季は泣きそうな顔で頬をプクッとさせて拗ねてしまう。


「ごめん、凄く大切な事を言った事は覚えてるんだけど。今は思い出せない」


 子供の頃のことなのに今でもぼんやりと覚えているあたり、今でも心の中では大切なことだとは分かるんだけど。


「そうなんだ」


 少しほっとしたのか顔つきが良くなる。すると、沙季は人差し指を俺の胸に当て上目遣いで俺に軽く微笑む。俺は思わずドキッとしてしまった。


「それじゃ、もう一度だけチャンスをあげるね。今週の土曜日、四季祭の日までに最初の部分だけでもいいから思い出してきて」


 沙季はそう言って、俺に課題を与えてきた。


「分かった絶対に思い出すよ」

「絶対だよ? 絶対に思い出してきてね!」


 すると沙季は俺から離れて背中を向けて手を組む。


「まだ、色々と話したいところなんだけど。そろそろ、お父さんが心配するから今日はもう帰るね」


 家に帰ると言っても既に家に居るようなものだろうと、微妙にツッコミたいところではあったが夕日も沈みかけて良い時間だ。


「そうだな、俺も帰らないと夏希がうるさそうだしそろそろ帰るよ」

「うん、でもその前にそろそろあの言葉欲しいかな」

「あの言葉?」


 あの言葉とは何だろうか少し考え込んでしまう。


「あの言葉ってなんだ?」

「言わないと分からないなんて、凄くさみしい気分だよ」


 すると沙季は優しい表情でヒントを教えてくれた。


「再会した人や、帰ってきた人に言う単純だけど大切な言葉だよ」


 そこまで言われて鈍い俺はようやく意味が分かった。まったく俺ってやつは言われる前に言えっての。


「おかえり!」


 俺はありったけの笑顔と気持ちのいい声で言った。


「ようやく言ってくれたね」


 沙季は嬉しそうな声でそう言うと俺の方に振り向き負けないくらいの笑顔を見せてくれた。


「ただいま!」


 夕日に照らされた紅葉と神社の中で沙季の笑顔も同じように照らされてその言葉は一際輝く。俺はその笑顔に見とれながら、よく知ってる子なのに知らないような。でも、どこか落ち着けて知っているような、不思議な感情が俺を包み込んだ。



 今日という日に、俺と沙季は再開した。



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