紅い約束ー痴話喧嘩は計画的にー
登場人物
愛坂 守
愛坂 夏希
生田目 冬也
朝霧千秋
細長い茶色い髪が特徴的な女の子、夏希に対しては男勝りな口調だが、守や冬也には敬語で割と普通な女の子。
あらすじ
学校に着くと、突然話を掛けられる守。
風紀委員と思って振り向くとそこに居たのは夏希の友達の朝霧千秋、夏希は初対面な守と千秋をする。
なんやかんかんやで時間は過ぎてゆき遅刻寸前に、話しすぎには注意が必要です。
くだらない話をしていると早いもので、気がつくと学校に到着していた。校門では風紀委員が生徒の身だしなみなどをチェックして見張っている。なんというか真面目な集団だよな、捕まっている奴らは気の毒だ。
「随分と遅いじゃないか、愛坂」
昇降口から学校に入った瞬間、下駄箱の方から声が聞えた、まさか風紀委員か? 俺は傘を畳んで声がした方へ体を向けると、そこには尻尾みたいに細くまとめた髪が特徴的な、気の強そうな女子生徒が立っていた。腕章はしていないので風紀委員では無さそうだ。てか髪長すぎだろ、膝下くらいまではある。
「おはよう! 千秋ちゃん! こんなとこに居るなんて珍しいねボクを待っててくれたの?」
夏希が元気よくあいさつをするのを見て俺は察した、愛坂とは夏希のことだったらしい。
「朝練を終えて教室に向かっている途中でお前を見かけたからここに来たんだよ。それより私との約束忘れただろ?」
彼女は棘のある口調で夏希に言い返した。
「へっ? ボク何か約束したっけ?」
「......お前、昨日朝練のついでにCDを貸すっていう約束したろ......」
「あー! そういえばanjerissaのアルバムCDを貸すって言ったけ......ごめん」
夏希は少しだけ申し訳なさそうに謝る。
「ところでCDは?」
「もちろん、忘れた......」
彼女の問いに夏希は苦笑いで明るく答える、反省しているのかしてないのかどっちなんだよ。
「はぁ、予想はしてたよ......」
「あはは......! 家での事は忘れないんだけど、友達の約束とかはたまに忘れちゃうんだよね~」
夏希にもとりあえず欠陥があったんだな、そう思いながら二人の会話を聞いていたが、それも飽きたので俺は夏希に声をかける。
「話してるとこ悪いんだけど夏希、その子は誰だ?」
「......愛坂......この人は?」
彼女も俺と同じように夏希に聞く。
「えっ? あ、そうだったね」
予想していなかったのか、意表を付かれたような感じで紹介をはじめてくれた。
「えーとね、この子はボクの同級生の友達で朝霧千秋ちゃん!」
そういえば、夏希の話題にちょくちょく名前が出てた気がする。
「それで......こっちはボクのお兄ちゃんだよ!?」
「……」
「ほら、何固まってるのお兄ちゃん挨拶だよ! あ、い、さ、つ!」
いや、 名前言わないのかよ、自己紹介が中途半端にも程があるだろ!
「お前が紹介したんだから名前くらいは伝えろよ! あーえーと、俺の名前は愛坂守。千秋ちゃんの話はこいつから何回か聞いてるよ、いつも仲良くしてやってくれてありがとう。これから兄弟共々よろしくね」
俺が挨拶し終わると何故か千秋ちゃんの顔が赤くなる、なんか失礼なこと言っちゃったかな。
「は、初めまして、私も……毎日のように愛坂君から先輩の話は聞いてます」
毎日ってどんだけ話してんだよ、そんなに俺の話題あるか?
「愛坂君なんて、またまたー! 君付けなんてらしくないよー? 千秋ちゃん!」
夏希が千秋ちゃんの事をおちょくる、こいつが揚げ足を取るような言動をするって事は、相当仲が良いって事なんだろう。
「な、うっさいな! 茶化すなよ、あと千秋って呼ぶのやめろ!」
「えっ、どうして?」
「私、千秋って名前嫌いだから。あと、こそばゆい......愛坂先輩も私の事は朝霧って呼んでください……」
目をそらしながら千秋ちゃんは小さな声で言う。こんなしおらしくお願いされたら断れない。
「わかったよ、朝霧……呼び捨てで大丈夫か?」
ちゃんとか、君とか朝霧って名前には合わない気がする。
「あ、お心遣いありがとうございます。大丈夫です」
「うーん、やっぱり勿体ない、ボクは千秋ちゃんの名前可愛くて呼びやすいから好きなんだけど、やっぱり呼んじゃダメ?」
「なっ! ......だからダメだって!」
「分かったよ、千秋ちゃん!」
「っ! お前なーっ!」
朝霧が赤面しながら言葉が裏返る、こうして見ると思った以上に女の子らしい。それにしても夏希のやつ容赦ないな、この小悪魔的言動は誰に似たんだか……あ、春香か。
「痴話喧嘩か?」
後ろから冬也の声が聞える、そういえば存在を忘れてたな。
「多分......違うだろ」
俺はあえてあやふやな返答をする。違うと思うが心配なので多分を付け加えた。
「あっ! 生田目先輩じゃないですか。おはようございます!」
朝霧はさっと気持ちを切り替えて、意外と元気な感じで冬也に挨拶をする。結構実は明るい子なのか? てか、本当に視界に入っていなかったんだな。
「一応さっきから居たよ?」
一応とは散々な扱いを受けているな友よ。てか、夏希はちゃんと視界に入っていたのか? ある意味、一番視界に入っていなかったと思うのだが。
「朝霧を知っているのか?」
「うむ、少しな......音楽部と合同練習をした時に少し話した程度だが」
「たったそれだけで覚えてもらえるって、やっぱりお前人気あるんだな」
「いやそうでもないさ、たまたまだよ。それよりだ......」
結構呆気なく話を終わらされたな。そんなことはさておき冬也は少し顔を強ばらせる。真剣な顔で、演劇をしてる時と同じぐらい真面目になる。
「時間が危ういぞ?」
「は?」
冬也のその言葉を聞いて俺はヒヤッとする、時計の針はすでに37分を過ぎていた。
「おい夏希! それと朝霧! 早く行かないと遅刻だ!」
「え? うそ、もうそんな時間!?」
「こんなとこで話しするから!」
「先に千秋ちゃんが話してきたんじゃん!」
今度は完璧に痴話喧嘩だな
「おい、痴話喧嘩は良いから行くぞ!」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
二人の声が重なる。
「やれやれ......俺は先に行くぞ」
冬也は軽く走り出す。 そして、俺たちも急いで教室に向かうのだった。
この話では千秋ちゃんが登場します、実は地味ながら夏希の次くらいにキャラ設定が完成しているキャラクターです。
今後の活躍に期待、してもいいのかな?(笑)