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短編集

まえばし猫町フェス2019・in群馬県前橋市

作者: 佐々木 龍

 この記事は、ブログ「無限堂」にて2019/10/23に掲載されたものです。


***


 えーっと、何だっけ。そうそう、猫町フェスですよ。そもそもの発端は、ツイッターにて知り合った「日疋士郎(ひびきしろう)」さんという、詩人・俳優・演出をなりわいとする、作家と知り合った事でして。その、日疋さんの仕事仲間の「新井隆人(あらいりゅうと)」さん(詩人)が、ツイッターにて、猫町フェスの宣伝をしていたのですよ。


 で、私はその「まえばし猫町フェス」が行われる群馬県前橋市にある前橋文学館に、以前2回ほど行った事があるのですが。まあ、そういう関係で、詩を出展することにしたのです。ちなみに前橋文学館とは、詩人の萩原朔太郎氏の作品や、縁のある作家の作品が常設されている楽しい場所です。


 まえばし猫町フェスが何なのかといえば、猫に関する詩や、猫の写真・絵を、前橋の商店街に展示するイベントです。前橋の詩人・作家、萩原朔太郎氏の「猫町」という小説に由来する、詩人が主催するイベントですね。十月二十日から十一月四日まで開催されています。


  十月の台風・水害の傷跡がまだ各地に残る中、二十日の朝は雨が上がってやや暖かい空気。ということで、群馬に行くことにしました。朝八時過ぎに家を出て、まずは新宿に向かいます。そこからとりあえず大宮駅まで。そう、大宮駅と言えば、魅惑の食品売り場ですよ。とにかく、大宮から高崎までが一時間くらいと長いので、いつも寿司を買ってグリーン車で美味を堪能するのです。普通車だと座れないし車内で食べてはいけないし。そんなこんなで、大宮で一時間ほど足止め。


 それにしても、大宮から高崎までは何本も電車が出ているのに、なんでその四駅ほど先の前橋には一日一本しか出ていないのだろうか。それも、夜だけ。上毛線に揺られながら、ドア付近のボタンを見る。そうそう、群馬の電車は、ドアを開けるのにボタンを押さないといけないのです。近隣の県の千葉の電車は、ボタンがありません。ボタンの存在は何度見ても不思議です。ボタンを押さないとドアが開かないので、少し混乱しました。


***


 何だかんだで前橋に到着。タクシーに乗ります。


「前橋文学館まで」


 運転手さんにそう告げると、五分もかからないうちに到着。歩けばいいのに。運賃はだいたい八百円。前橋駅にはバス乗り場があるのですが、バスは酔うのでなるべく乗らないのです。

 さて、いつものように文学館を散策。


挿絵(By みてみん)


 階段を、二階に上がったところの踊り場の壁一面に、萩原朔太郎氏の言葉が掲示されているのです。私はこの一文を初めて見た際、ちょっと言葉にならなくて、呆然としました。とても好きな一節です。


 それにしても、萩原朔太郎氏は美男なのですよ。何というか、女難の相とでも言ったらいいのか。同性とのいざこざのようなものもあったようで、そこいら辺は文学館内にある展示物等で読むこともできます。

 同時代の作家、芥川龍之介氏や室生犀星氏との、三角関係のようなものが垣間見えるような手紙が展示されていたり。ちなみに文学館の館長は、萩原朔太郎氏の孫・萩原朔美氏です。本当に、作家や詩人というのは、親子の情を超越しているなあと思ったり。だって、ご先祖のそういう話、世間一般だと恥ずかしがるものじゃないですかね。どうなんだろう。そういう事も含めて、創作をやっている人の度量というか業というか、素晴らしいなあと思います。


***


 二階の渡り廊下を見てびっくり。赤い架け橋にリフォームされている! 源氏物語の「夢浮橋」を思い出しつつ、特設展示に向かうと、まさしく平安絵巻の世界が。「羽の生えた想像力・阿部智里展」は圧巻。漫画は芸術になり得る、そんな風に思いつつ、呆然とする。二十日までの展示でした。


 三階の、「ドラマチックな重鋼!! 髙荷義之原画展」の戦闘機の原画を見てから、四階へ。萩原朔太郎氏と同時代に生きた作家たちを描いた「月に吠えらんねえ」の作者・清家雪子氏の漫画「月に吠えらんねえ」を二巻まで読み進めたタイミングで、息を切らした受付嬢がやってきて「(猫町フェスの)主催の新井さんが来ています」と知らせに来てくださいました。

 そうそう、受付にて猫町フェスに詩を出展した事などを話しながら、地図を貰ったのです。それにしても、文学館の職員だからと階段を使ってここまで……何ともいじらしいというか、その姿に胸を打たれてしまって。「息切れしているじゃないですか、エレベーターを使いましょう」などと促す。単に自分が楽したいからなのもあるのですが。


 一階の入り口から新井隆人氏が登場。初対面なので自己紹介をすると、「女性だったのですか!」と、驚かれました。確かに、ペンネームを「佐々木 龍」に変えてからというもの、ツイッターでエロ女性からのダイレクトメールが届くことが増えました。

 そして、萩原邸再現地の敷地内にある、蔵まで案内されました。そこで作品を展示している作家さんから、自分の詩や、「天理妙我(あまりみょうが)」氏の写真の展示場所を教えていただき、早速現地に向かいます。天理氏(ミョウガさん)は、小説家になろうのイラスト投稿部門「みてみん」にて、フェルト作品をこしらえ続けその写真を投稿する、気迫の人です。台風で被災し停電に悩まされる最中、フェルト猫を作り続けるミョウガさん。そのフェルト愛を見て、猫町フェスへの出展を促したのです。


 さて、問題がありました。私は方向音痴なのです。出かける際は一時間は余分に見積もって家を出ます。それでも、約束に遅れる事があるのです。目指す商店街は、すぐ近くなのです。今まで何度か足を運び、散々歩き回った事もあるので、大丈夫だと思って、文学館の横を流れる川(広瀬川)の、川沿いの小道を歩きます。だけど、地図を改めて確認したら、反対方向に歩いていました。で、文学館を起点にして、よく見ると、地図が反対になっていました。逆方向に引き返します。すると、探していた商店街が見えてきてホッとする。


 まず、ミョウガさんの猫ラグビー写真を探します。確か、瀬戸物屋さんって言ってたなあ、新井さんが。中央通りのアーケードの入り口の、角のお店、瀬戸物屋さんはすぐに見つかりました。店主らしき人に「猫町フェスの作品はありますか」と尋ね、案内していただきました。果たして、ミョウガさんの写真は、ありました。他の出展者の詩と共に。


挿絵(By みてみん)


 いやもう、詩の感じと、ミョウガさんの猫ラグビーの、何だろう。思わず笑ってしまいました。店主が猫嫌いである事を新井さんから伝え聞いていたので「店長はネコ嫌いだとお聞きしたのですが……」と尋ねると、「姉が、猫が嫌いでして。なので、なるべくリアルじゃない写真を選んでくれと言いました」との事でした。フェルトなら大丈夫との事でした。もう一つの写真も、黒猫が背景に馴染んでいて、そんなに猫が目立たない感じ。

「あちこち猫だらけで、お姉さんは大変でしょう」などと言いつつ、猫のマグカップを買う。


 さて、自分の詩はどこだろう。確か、広場横の「まちづくり公社」って言ってたなあ……小さなビルの二階には、なにやらワイワイと盛り上がっている人たちが。そのワイワイのドアの前で中を覗いていると、公社の職員さんらしきお兄さんが出てきて、私が要件を説明していると、奥からお姉さんも登場。

「猫の写真、見ましたよ!」と、お姉さんがすぐ下まで案内してくれました。確かに、壁には詩や写真が数点。確かにここなんだけどな……何となくマゴマゴする私に「煥乎堂(かんこどう)に行けば分かるかもしれないので、案内します」と申し出て下さるお姉さん。

 そんなわけで、案内していただくことに。途中の、お香屋さんに寄りたいので、煥乎堂の見つけ方を聞いて、お香屋さんの前でお礼を言って、お姉さんと別れました。


 さて、前橋に行くと必ず寄るお香屋さん「香り処 日野屋」。気に入った香りを、店員さんに聞きつつサンプルを嗅ぎつつ買い物を済ませる。もう四時過ぎだ。早くも外は薄暗くなり始めている。急がねば……靴のせいで足の骨が砕けそうだ。

 煥乎堂は、商店街を抜けた、大通りに面した場所にあるのですぐに分かりました。風格のある看板に、どこか田舎にある大手の仏壇屋を彷彿とさせる建物。迷わすエレベーターに向かい、詩の展示会場「三階」の、古本フロアに向かいます。店主と思しき人物に「どの店に、どの作品があるのか分かる一覧はありますか」と尋ねると「分かりません……」と、申し訳なさそうな答えが。


 (諦めるか)

 そんな風に思いながら、来た道を引き返します。そして再び、まちづくり公社。よーく見たら、ありました。見逃していたのです。何というか、展示されていると、自分の詩だと気が付かなかったのです。


挿絵(By みてみん)



【遅刻】


約束の三時間前に家を出る

東京駅で二度目の朝食

手書きの地図には三つのルートが示されている

私は適当な駅名を目指し

回り道をする


車窓から見る空の色に反して

心象風景は陰鬱

いつもこうだ

何度も確かめた道を歩いているのに

人気ひとけの無い場所にいる


テトラポットに座り

波しぶきを見つめ煙を吹き出す

閻魔は長居を許さない

打ちつけられた名も知らぬ海藻

砕けた木々

壊れたボート


波打ち際で靴を脱ぐ

カラスのような黒い服の私

クラゲになりたい


約束の時間

二時間が過ぎた

彼らには会えたが

立っているのがやっと

帰りたい、疲れてしまった

涙が出てくる

そっと手を合わせ立ち去る


塩辛い屋台の弁当とビール

痛みを忘れて、きた道をゆく

また来た道を戻る


壊れたボートの傍

草むらにうごめく

猫を見た


私を見るなり爪を研ぐ

勝気なその目

「にゃーん」

私は鳴いた


猫は爪を研ぐ

アイボリーの、痩せた、小さな体

目は黄色

ささくれだった丸太

猫は爪を研ぐ


ああ猫よ

君たちはどうしてどの町にもいるんだろう

有楽町の小さな草むらにも

静かな住宅地の花壇にも

古い家の屋根裏にも

ふるさとにも


会いたい人に会えないのは悲しいけれど

名も知らぬ猫に

会えて良かった



 こんな感じの詩です。道に迷ってしまった、千葉県・鴨川での出来事を書きました。

 萩原朔太郎「猫町」の、道に迷う不安に因んで、迷う不安を表現してみたかったのです。あとは、恐怖。だけど、猫町はどこか、猫のうじゃうじゃによって、奇妙な面白さがあるのです。猫町は今も、多くの人びとを魅了し続けているのです。


***


 煥乎堂(かんこどう)について、新井隆人氏の、ツイッターでの説明より。

 煥乎堂は高橋家が明治初期に創業した老舗書店で、大正から昭和にかけて経営に携わった高橋元吉は詩人でもあり、萩原朔太郎と交流がありました。朔太郎は煥乎堂に自分の詩集が並ぶことをとても喜んでいたそうです。

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