黒い神殿に入ります
森の中にある、真っ黒な神殿に向けて進む。
途中、何か膜のようなモノを越えた感触があった。
……うぇ、何か感触的に気持ち悪っ!
少し嫌な気分を味わいながらも、荘厳な扉を開いて神殿内の様子を確認する。
神殿自体が真っ黒だし、中も真っ暗なのかな? と思ったのだが、壁の一部が光っていたので、それなりに明るい。
大丈夫かなぁ……と恐る恐る入るが、特に何かが起こる事はなく、大して広くなかったので、内部は直ぐに把握出来た。
……何もない。
そんな内部だった。
ただ一ヶ所だけ、少し奥に進めば、下へと続く階段があったので、そこを進んでいく。
階段を下りきって直ぐの突き当りにあったのは、幾何学模様が描かれた扉。
その模様は、魔法陣のようにも見える。
………………ここかな?
何かしらの抵抗があるかと思ったが、ゆっくりと扉を開く事が出来た。
あとは神を復活させるだけ。
なんだ、楽勝じゃないか。
そう思ったのが、きっとフラグだった。
思い返せば、行って帰るだけなら鍛える必要なんてない。
予言の神の指示で俺を鍛えたという事は、それはつまり、そこに戦う相手が居るという事である。
扉を開けた先にある部屋の中に、魔物が居た。
「………………」
その魔物は、牛頭人身の、俺の1.5倍くらいはありそうな巨大な体躯……確か、ミノタウロスと呼ばれる存在があぐらをかいていた。
近くに巨大な斧が置かれているのも気になるが、もっと気になる事がある。
そのミノタウロスは、首から光り輝く玉を下げていた。
……もしかして、あれに神が封印されているのだろうか?
そこそこ広い室内を見回すが、それらしいのは他に見当たらない。
となると、と再度確認しようとすると、ミノタウロスと目が合う。
「………………」
「………………」
どもっ! と少し頭を下げると、向こうも下げてくれた。
「………………」
「………………グォ?」
バタン! と急いで扉を閉じ、階段を駆け上がって、アドルさん達のところへと戻った。
◇
「いやいやいやいや、無理無理無理無理!」
「……随分と早い帰りだが、そう慌てるな。落ち着け。一体何があったのだ?」
のんびりティータイム中だったアドルさんたちに、神殿に入ってからの事を教えていく。
聞き終わると、アドルさんたちは考え込む。
「……なるほど、ミノタウロスか。恐らく、首から下げているという光る玉に、神が封印されているのは間違いない」
「ミノタウロスですか。懐かしいですね」
「追い回していた日が懐かしいですねぇ」
アドルさんが神妙な顔付きを浮かべる中、インジャオさんとウルルさんは昔を懐かしんでいた。
あれを追い回していたとか……改めて、アドルさんたちが凄いという事がわかる。
もうアドルさんたちがどうにかしてくれないだろうか。
……あっ、駄目だ。
神殿に入れないんだった。
「インジャオ。率直に考えてどう思う? アキミチはミノタウロスに勝てるか?」
「無理ですね」
即答!
いや、俺も無理だと思う。
「確かに当初よりも強くはなっていますが、恐らく何かしらの攻撃系スキルを得ていても初心者レベルです。自分達が手伝えない以上、単独で挑むのならもっと時間が欲しいところですね」
「そうなると、作戦が必要だな。ウルル、時間はどれぐらい残っている?」
「予言の神が提示したのは、明日の昼までです」
「……猶予は大体丸一日か」
アドルさん達が神妙な顔を浮かべるが、俺は聞き逃せない事を尋ねる。
「え? 時間制限付きなの?」
「ん? 言っていなかったか?」
「うん。聞いてないけど」
「「「………………」」」
「………………」
アドルさんたちが、やっちまったと手で顔を覆う。
いやいや、ちゃんと説明をお願いします。
説明を待っていると、気を取り直したアドルさんが話してくれる。
「予言の神の話によると、明日の昼までに、ここに封印されている神を復活させないと……アキミチの友達が死すると言っていた」
「………………」
………………。
全く……予言の神を絶対復活させて、文句を言ってやる。
「……今更ながら、すまんな。このような役目を押し付けて。本当に申し訳ない」
どんな文句を言ってやろうかなと考えていると、アドルさんがそう言って頭を下げ、インジャオさんとウルルさんも同じように頭を下げる。
……いや、別にアドルさんたちに怒っている訳じゃないんだけど。
それに、召喚された親友たちを、こうして助ける事が出来るんだ。
やらない訳がない。
「頭を上げて下さい。予言の神に文句は言いたいですけど、アドルさんたちには感謝しかないです。目的はあっても、こうして色々と助けられていますし……俺たちは互いの存在が不可欠な協力関係なんでしょ?」
笑みを浮かべてそう言うと、頭を上げたアドルさんたちも笑みを浮かべる。
「ふっ。確かにその通りだ。私たちにアキミチが必要なように、アキミチにも私たちが必要なのだ」
「仲間って事ですね」
「これからも、互いに宜しくお願いします」
「それじゃ、俺の力じゃ、もう時間は余りないだろうし、何でもやるから、間に合うように勝たせてくれ」
任せろっ! とアドルさんたちが親指を立てる。
そして、作戦を立てていく。
「とりあえず、足りない力は装備で補おう。ウルル、何か使えそうなのはあるか?」
「そうですねぇ~……」
ウルルさんが荷物の中を漁る。
服だけじゃなく、そこら辺も用意していたのか。
すると、取り出した袋の中から長剣を何本も取り出して、吟味を始めた。
「う~ん……これだと重いし、これだと長過ぎる」
「いやいやいやいや、ちょっと待って! 明らかに袋よりも長剣の方が長いし、そんなに何本も入らないよね?」
「あぁ、それは『アイテム袋』という魔導具だよ。簡単に言えば、見た目以上の収納力があるんだ」
インジャオさんが説明してくれる。
うん。便利道具って事だね。
「でも、こういうのって希少なんでしょ?」
「いや、普通に一般に出回っているけど」
………………。
う~ん……普通はこういうのって希少なはずで、それで驚いたり、使う時は注意しようってなるはずなんだけど………………まぁ、これがこの世界の基準という事で受け止めておこう。
未だ森の中しか歩いていないけど、もしかしたら思っている以上に文明が進んでいるのかもしれない。
まだ見ぬ町に興味をそそられつつ、アドルさん達と、ミノタウロスに勝つための作戦を煮詰めていった。