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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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俺の……

 カノートさんが有利に立っていると思っていたけど、違っていた。

 攻撃が当たっても通じない以上、有利なのは四枚羽の方である。

 となると、通じるような攻撃をしなければいけない。

 それは、カノートさんもわかっている。


 カノートさんが意図的に四枚羽から距離を取った。

 これは……。


⦅助走距離を長く取る事によって、突撃の威力を高めようとしているのでしょう⦆


 セミナスさんの言う通り、カノートさんが一気に加速して突撃をかます。

 これまで通りなら、四枚羽は迎撃していたのだが今回は違う。

 真正面から受け止め……槍の穂先は………………刺さっていない。


 カノートさんが再び距離を取る。

 四枚羽は嬉しそうに歪な笑みを浮かべた。


「はは……ははは……はははははっ! どうやら、確定したも同然です! しかし、事前に伺っていた情報と違いましたが……なるほど。相当な無茶をして、ここまで来られたようで。もう魔力がほとんどないのではありませんか?」

「……」


 カノートさんは答えない。


 ……どういう事? なんで今ここで魔力の話になんの?


⦅槍使いが勝負を決め切れない理由の一つに、魔力残量が関係しているからです⦆


 魔力残量?

 カノートさんの魔力が残り少ないって事?


⦅ここに来た時点から、既にあまり余裕はありませんでした。ですので、自分の体と武器に、充分な魔力強化を施せないのです⦆


 なんだって、そんな事に……って、そうか。

 考えてみれば、カノートさんがここに来るのが早過ぎたのだ。

 時間的に考えて、普通はまだ捕まっている騎士と兵士たちを助けている段階だろうし、カノートさんの性格的に、救出をおざなりにして来るとは思えない。


 つまり、四枚羽が言ったように、相当無茶な速度で救出を行ってここに来た、という事になる。

 普通はそんな事無理だろうけど、それを可能にしたのが魔力による強化なのだ。

 ただ、その分の魔力を消費したため、今はガス欠に近い……と。


 ………………。

 ………………。

 ヤバくな、理由の一つ?

 え? 他にも理由があるの?


⦅はい。槍使いが今使っている槍にあります⦆


 ……槍に?

 アイテム袋から出したのとは違うけど、そこら辺にありそうな普通の槍に見えるけど?


⦅その普通というのは問題なのです。魔力強化の補足説明になりますが、質によって流せる魔力量には限界があり、もしその限界を超えてしまうと⦆


 強化に耐え切れなくって、逆に自壊しちゃうって事?


⦅はい。その通りです。ちなみにですが、先ほどの突撃時に、槍使いが槍に流していた魔力量は限界値でした⦆


 ……え? あれ?

 今、詰んだって言った?


「もう諦めたらどうですか?」

「いいや、まだ、やりようはありますよ」


 カノートさんが、今日一番に見える速度で一気に駆ける。

 ほぼ瞬間的に四枚羽に肉迫すると、フェイントを入れて、皮膚に覆われていない部分――目を突く。

 けれど、穂先が目に当たる前に、四枚羽が仰け反るようにしてバックステップで回避。


「不本意ですが認めましょう。技量という部分に関しては、そちらの方が上でした。ですが、勝利を手にするのは私の方です」


 四枚羽がバックステップしながらも、カノートさんに向けて掌をかざす。

 火の玉と雷が、カノートさんを立て続けに襲い始める。

 ただ、今回は物量が違った。

 途切れる様子が一切なく、カノートさんは迎撃だけで手一杯になった事で足が止まる。


 それこそが狙いだった。


 物量はそのままで、四枚羽の周囲に、大きさが倍以上は違う数十個の火の玉と雷の玉が一斉に出現する。

 四枚羽が決めにきた!


「魔力が残り僅かであっても、その槍が神槍であれば、また違った結果であったかもしれませんね。そのような粗末な槍でここに来た、驕りとも取れる行動を悔やんで死になさい!」


 巨大な火と雷が、カノートさんに向かって放たれる。

 カノートさんは物量に手を取られて、その場から動けない。


 どう考えても無理。

 避ける隙間なんてない。

 あれだと、寧ろ武器の方がもたないと思う。

 つまり、どうしようもない。


 そんなところに、攻撃力皆無で魔法も使えず、スタミナも残っていないヤツが割って入っても、意味なんかないのは明白。

 無意味。


 でもまぁ、そういう事は関係ない。

 そこら辺がわかっていても、体が動いちゃうんだよね。


 気が付けば、俺はカノートさんに向かって突進していた。


 このままカノートさんを体当たりでもなんでもして突き飛ばせば、俺が代わりに被弾して死ぬのは間違いない。

 でも、カノートさんを残す方が……希望が残る。

 だから、足よ動け! もっと速く


 ここでリタイアするのは、親友たちに申し訳ないけど……俺の代わりに神様解放も宜しく!

 アドルさんたちにも、ここまで助けて貰った恩を返せなかったなぁ……。


 それと、道連れのような形になってしまうセミナスさんにも悪い事を――。


⦅問題ありません。全て予定通りですので、そのまま割って入って下さい。あぁ、足をとめないように⦆


 ………………えっと。うん。

 いや、俺なりに覚悟を固めた行動なんだけど?


⦅はい。大変凛々しいその姿は、私のMemoryに保存しておきました⦆


 なんでそこだけ流暢な発音!

 違う。そういう事じゃない。

 というか……いや、今一番大切なのは……この状況、どうにかなるの?


⦅はい。全て私の『未来予測』の通りに進行中です⦆


 それはもの凄く頼もしいけど、ここからどうすれば良いの?

 もう少しでカノートさんに辿り着きそうだけど、このまま体当たりで大丈夫?


⦅ここで一つ、お伝えしておきます⦆


 はい。なんでしょう?


⦅武技とは、攻撃系統だけに存在している技、という訳ではありません。つまり――⦆


 ………………。

 ………………わかった。

 セミナスさんの説明を手早く聞き終え、俺は残りのスタミナをフル活用して動く。

 といっても、俺が動けるのはあと少しだけ……そう長くはない。

 でも、それで充分。


 カノートさんと巨大な火の玉と雷の間に割って入る。

 そして、両掌を巨大な火の玉と雷の方に向け……力の限りに叫ぶ!


「⦅ここより先に進む事能わず 触れる事叶わず 万物を拒絶して排する⦆」


 セミナスさんも一緒に叫んでくれている。

 それが心強かった。


「⦅武技・隔絶(ガーディアン)した守護領域エリア⦆」


 両手に何かしらの手応えを感じると同時に、パキィン! と割れたような音がして、巨大な火の玉と雷が全て消え去るのを……視界の中に捉える。

 というか、なんか体から一気に力が抜け出たような……倦怠感が……。


⦅マスター! まだ気を失ってはいけません! もう一つの方も⦆


 わかって、いる……もう、一声っ!


「カノートさん! こいつら、姫様も狙いの一つだったようですよっ!」


 自分なりに絞り出したけど、ちゃんと声に出て、聞こえていただろうか?

 そんな事を考えながら、俺はそこで気を失った。

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